↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/49

王宮にて

注意その1:ゲテモノ食や虫が苦手な人、ラノベの美少女エルフが好きな人には、このお話を勧めることはできません。そっとこの小説を閉じて忘れて下さい。


注意その2:エルフをはじめとする、作中の種族や人物は、一般のラノベの設定と違い、作者の勝手な想像が基になっています。そのようなものが苦手な方も、この小説を避けるのが賢明だと思います。


 これは、エルフだけが統べる世界、温暖で深い森林に覆われている世界のお話です。世界設定は、前作の『その季節』と同じですが、別に気にしなくても問題ありません。坊主がぶつくさ文句を言うかもしれませんが、「うるさい、アンデッド」で一蹴すれば大丈夫です。


 地名ですが、トリポカラ大陸はユーラシア大陸と北アフリカ、パタン大陸は北米大陸、ブトワル大陸は南米大陸、ウダヤギリ大陸はオーストラリアに相当します。なお、南極大陸は細い陸橋でブトワル大陸とウダヤギリ大陸とに接続されています。また、アフリカ大陸は北、東、南に分断されていまして、北部分はトリポカラ大陸の一部となっています。

 トリポカラ大陸には、巨大な淡水湖(作中では内海と呼んでいます)が3つあり、互いに水路で接続されています。ジャムナ内海は地中海、シュナ内海は黒海、メグナ内海はカスピ海に相当します。


挿絵(By みてみん)

都バクタプルの風景です。


 他の小説との整合性をつけるために修正しました。第2稿になります。では、物語の始まりです

 トリポカラ王宮内の聖堂の中は、荘厳な雰囲気に包まれていた。広さは数十人も入ると一杯になりそうな小さなものだが、築300万年ともいわれる重厚な雰囲気が感じられる。

 聖堂の中には奇をてらったような華美な装飾や、調度品、絵画や像などの芸術品の類は一切見当たらない。しかし、気の遠くなるような長い年月を経てきた石造りの壁や床、柱に門や窓の存在感だけで見る者を圧倒するには充分である。


 その床の石畳や壁、柱も磨り減り、昔から修復を繰り返してきたのだろう、あちこちに修復箇所が見られる。しかし、それらも磨り減って、さらに後年に補修されたような所も多い。

 壁や柱に刻まれたり浮き彫りにされた、アラビア文字のようなエルフ世界の文字も磨り減って解読不能な状態に陥っている場所も少なくない。場所によっては、その上に文字を上書きしているような所も見受けられる。


 天井は重厚な石材で覆われているのだが、精霊魔法処理によって太陽光が天井の石材を通過して綾となって降り注ぎ、森の中のような光と影の調和が成立している。

 数体の半透明な風の精霊がゆったりと上空を旋回し、人では発することが不可能な精霊ならではの美声で、トリポカラ王国賛美の歌を荘厳かつ静かに歌っている。聖堂内で歌が反響し長い余韻を残していくので、まるで数十名の合唱を聞いているような錯覚を覚える。


 恐らく、聖堂内の磨耗の原因はこれらの風の精霊によるものなのだろう。いわゆる風食である。確かに、風の通り道に当たる場所ほど頻繁に補修されているようだ。


 聖堂の正面は一段高くなって舞台のようになっており、奥の年代を経た壁にはトリポカラ王国の象徴である縦長の国旗が大きく飾られている。この旗もかなりの年月を経ているようで、カビこそは生えていないが、全体に退色が進んで渋みを増していた。


 国旗は3つの巨大湖が互いに運河で繋がっているイメージ図を、8つの衛星国を示す黄色い星が囲み、全体の背景を茶色、緑色、青色の3色で彩ることで3宗教からの祝福を表現していた。

 国旗の上の壁一面には歴代の国王の肖像画が飾られて名前が彫られているが、古いものほど風食の影響で磨耗している。100万年より前の国王たちの顔は、もう判別できない。


 そのせいなのか、昔の国王たちはその肖像画や名前が魔法で縮小されて壁の隅にまとめられており、壁の限られた掲載量を節約するように強制されていた。

 エルフの平均寿命は数千年なので国王の交代も1万年に2、3回ほどしかないのだが、それでも300万年分もあるので、ご先祖様には無理をお願いするしかなかったのであろう。


 その聖堂の壁には、ずらりと取り囲むように十数本の大きな岩を抱いた守護樹が、床からわずかに浮いて鎮座している。ザワザワと枝を揺らして互いに話し込んでおり、それに着生している植物や動物がチラチラと見える。


 どの守護樹も胸高あたりでの直径は優に3メートルはある。樹皮は分厚く盛り上がって数多くの健全なコブを持ち、多くの地衣類やコケ、草にランなどが優美にまとわりついている。

 枝ぶりも見事で所々に洞はあるものの、枯れ枝も見当たらず強勢を誇っている。もちろんキノコや寄生植物などは一切見当たらない。

 葉の形が守護樹によって違うのを見ると、特定の樹種だけがこうした性質を得たのではなさそうである。


 このような雰囲気なので、聖堂の中にいると、歳を経て極相に達した巨木の森の中にいるような感じがする。



 聖堂の中央には、緊張してこわばっている下級役人礼装姿の3名が立っていた。といっても薄い空色の袖なしシャツにシンプルな紺色の薄いズボン、植物質の繊維を編みこんで作ったわらじの様なサンダルに、白いローブを肩にかけている程度で、指輪などの装飾具は一切見につけていない。

 非常に地味であるが、この場にふさわしい清楚なたたずまいを印象づける服装ともいえる……という公式声明に従って表現しておく。


 服は初歩的な精霊魔法を帯びているようで、そのせいで少しだけ地味具合が軽減されている。地味なのはどうしようもないが。


 それぞれの後ろには1本ずつ、主である役人達の倍くらいの高さで、これも一抱えほどある岩をその根で包み込んで浮かぶ守護樹が控えている。

 この守護樹はまだ若い木のようで樹高も低くて太くなく、壁を取り囲んでいる樹木群に比べると樹皮もテカテカしていて若々しく、コブや着生植物もない。


 下級役人たちはこの世界特有の色白で華奢な体つきである。耳が横に長く張り出しており、身長は150センチ台ばかりだ。

 舞台に向かって左の役人は一番背が高く、比較的がっしりしている体つきで、金色の腰まで届く長髪と深く青い瞳。

 真ん中の役人は一番色白で華奢な印象を受ける。背も一番低く、金髪の軽いくせ毛を肩下までフワリと垂らしており、瞳も空色。

 右端の役人は歳が一番下のようでまだ若く、金髪のきついくせ毛を肩口まで伸ばし、くせ毛の下の大きくて濃い青の瞳は、これからのことを考えてキョロキョロ動いている。

 皆、見た目は20歳になったかならないかのような印象を受ける。


 そこへ別の3名の男が聖堂の隅に現れた。ただ、天井からの光がその場所にあまり届かなくて、影の部分が多い。

 彼らもそれぞれ背丈の倍ほどの守護樹を従えている。こちらは更に年齢を重ねた趣が感じられ、コブなども少し見受けられる。

 中級役人礼装姿だが基本的な服装は同一で、ただローブの色が空色。生地は同じ素材のようだが、帯びている精霊魔法が高級なのか少しだけ立派に見える。少しだけであるが。

 しかし、仕事を先ほどまでしていたのか、身なりがどことなくキリリとしておらず仕事疲れがうかがえる。


 正面舞台に一番近い位置にいる役人は身長が160センチくらいで最も背が高く、比較的体もがっしりしている。見た目は20代前半であるが風格もあり、責任ある地位に就いていると思わせる雰囲気が漂う。やや赤みがかった金髪は真っ直ぐ腰まで伸びて、黒褐色の瞳が威厳を放っている。

 反対の端に立つ役人は身長が150センチ前半で、やや太っている。が、背をなぜか丸めている。見た目の年齢は同じくらいか。目線もうつむきがちで、青黒い瞳がかすかに震えて、くせの強い腰まで伸びた金髪にも震えが伝わっている。何かあったのだろうか。

 真ん中の役人は背が極端に低く、両隣の中級役人の胸下までしか背丈がない上に、非常に筋肉質で豊かなヒゲを蓄えて、髪も黒褐色、瞳も黒と自己主張している。両腕の筋肉も隆々として盛り上がっており丸太のようだ。

 体型も樽のようにずんぐりとしている。おかげで清楚でシンプルな服装がまるで似合っていない。これは、まるで……


「おい、ジャンビ君。もう少し着こなしを考えてはどうかね。それでは出身地丸出しだよ」

 舞台に一番近い、身長が160センチある背の高い威厳ある役人が、ジャンビと呼ばれた真ん中の身長が120センチ程度の筋肉質な役人にささやいた。


「ふん、知るかよ。このエルフの世界じゃオレに合う仕立てがないだけだよ、バラン」

 ささやかれた役人が言い返した。そして、丸太のように太い両腕で腕組みして、バランと呼んだ役人を睨み上げる。


 バランが苦笑して、新人役人達の方を向き話を変えた。

「彼らが新規の役人だね。今回は逃げ出さないでもらいたいものだよ。ただでさえ役人は人気がないから、募集をかけてもなかなか」

 そうして、目をキラリと光らせてジャンビに質問した。

「さて、ジャンビ君は誰が希望だい?」


 ジャンビは新人役人たちを一瞥し、その内の1人をあごでしゃくって示した。

「ふん、どいつでも構わんが……そうだな、左端かな。背が高いし骨も太そうだ。ひ弱な奴は使えないからな」

 それを聞いてバランが感心した風に笑った。

「見る目が違うなぁ」


 その時それまで黙っていた、もう1人の猫背になっている役人がバランに遠慮がちに話しかけてきた。

「わ、私も左端の彼がいいな。体力がありそうなので使いたいと思うのだけど」

 しかし、ジャンビとバランが2人して彼を睨むと、そそくさと首を引っ込めてしまった。


 バランがちょっと見下したような目で、中央の首を引っ込めたままの猫背の役人を見る。

「スミング農園長、今回は君のわがままは聞けないなぁ。すまないね」

 あくまで丁寧に申し出を却下するバラン。ジャンビも同意する。

「だな。出稼ぎのオーガ連中が薬草園で暴れていた時、バーで飲んでいたからな、こいつは」

 グサリと核心を突く。

「おかげで農園も倉庫も修理が大変だよ」

 バランも、ジャンビの勢いに合わせて言い放つと、スミングと呼ばれた猫背の役人はさらに恐縮してしまった。


 その様子をしばらく見ていたが、やがてジャンビが肩をすくめた。

「だがまぁ……農園は割が合わない力仕事ばかりだしな。頼りになりそうな人材は必要だろう。いいよ。オレは右端のキョロキョロしてる奴で構わないよ」

 スミングがその譲歩を聞いて喜んだ。猫背もピンとなる。

「おお……本当かい。ありがとうジャンビ君」

 バランもうなずいて、同意した。

「これで今後は騒ぎを起こさないでくれるのなら、私にも異存はないよ」



 その時、天井を舞っている精霊群がファンファーレを鳴らして国王の降臨を告げた。風の精霊が発する声なので、肉声ではありえない不思議な響きがある。あえて例えると、木管楽器や金管楽器、それに弦楽器を使って話し言葉を演奏しているような感じである。

 同時に天井からの太陽光が一際輝きを増した。一気に聖堂内が日向のように明るくなる。

「トリポカラ王国、クベールシハン‐フィキール‐トリポカラ‐トリム陛下、ご降臨ー」


 正面の舞台の上に銀色の霧が立ち上って、急速に塊に成長して弾けた。その場所に直径3メートルもある巨大な守護樹の上に乗った国王がテレポートして現れた。

 しかし基本的な服装は中級役人の礼装と同じで、素材も同じようにしか見えない。帯びている精霊魔法はとびきり高級ではあるが。


 国王の降臨を受けて、ひざまずき一斉に頭を下げる役人たち。それを確認して二呼吸ほど置き、国王が鷹揚に話し始めた。

「新しき者よ。よくぞ、ここに集った。余は嬉しいぞ」

 王と呼ぶにふさわしい威厳に満ちた声である。

「諸君らがいるこの場所は、はるか300万年の昔に民族分化した祖先たちが、このエルフ世界へ移住した記念として建立した祭儀場である。この由緒ある場を守る我がトリポカラ王国の官吏となるということは、諸君らにもこの歴史と伝統を継承してもらうことでもある」

 役人たちが背筋を伸ばして緊張しているのを見て、国王が少しだけ口調を和らげた。

「誇りと使命を持ち、勤務に励むように。配属先は、そこに控えている者達が適所に配置するであろう」


 ここで新人役人たちと中級役人たちとの目が合った。国王が思わず苦笑する。

「……余も何度も任命式を繰り返すのは、快いものではないのでな。あまり酷使せぬように扱えよ」

 3名の中級役人たちがうやうやしくお辞儀を返した。

「御意のままに」


「では、勤務につくように。以上である」

 銀色の霧となって、国王が守護樹ごとテレポートして消失した。


 再び上空の風の精霊群が荘厳に静かに歌い始め、天井からの太陽光の綾も元通りになった。壁際に鎮座していた巨大な守護樹達も静かに退出していく。



 それからしばらくして王宮の中庭。

 先ほど聖堂の壁際に控えていた十数体の巨大で歳を経た守護樹と、下級官吏、中級官吏の守護樹が集まって、日光浴をしているのが見える。

 中庭も築300万年なのだろうか。組まれた石壁は風雨による侵食が続いたおかげで、人工の建造物という印象がわかない。人工物に似た自然の岩場と言った方がしっくりくるだろう。

 やはり、あちこちに修復された跡があるが、それらも侵食を受けて磨耗している。特に窓や扉の枠の周辺は頻繁に補修がなされているようである。


 だが中庭は丁寧に清掃や手入れが施されているので、雑草雑木が繁茂していることはなく、清潔で廃墟臭などは全くない。今も土でできたゴーレムが数体、花壇の草抜きや間引きをしている。別のゴーレムは、大きくなってきた鑑賞花の株元への土寄せ作業を無言でせっせと行っているのが見える。


 奥の方では、樹高10メートルほどのモミジに似た鑑賞木の枝の剪定作業を、紙でできたようなゴーレムが行っていた。このゴーレムは空中に浮いた状態で、大きなハサミを器用に使いこなしている。恐らく、風の精霊の力で浮遊させているのだろう。


 蜜が出る花木が多いせいか、ミツバチやマルハナバチ、花アブに蝶などがそこらじゅうを縦横に飛びまわっている。これらの虫を狙って鳥やトンボ、アシナガバチなどもやってきていて、時々見ごたえのある空中戦を繰り広げていた。

 しかし、虫や鳥の動きが異様に素早い。また、姿も巨大である。トンボの中には体長30センチに達するものもいるし、スズメバチもエルフの両手の平ほどのサイズの巨大な種類のものもチラホラ見かける。

 地面には体長50センチを超える巨大ムカデやヤスデなどが、花壇の中を這っているのが見える。


 この他にリスやイタチ、ネコの仲間などもそこらじゅうを駆け回っていて、相当ににぎやかな中庭であるのだが……エルフたちにはそれが当然の風景のようで、全く意に介していない様子である。



「医局かぁ、やっかいだな」

 礼装のままの新人3名が聖堂から退出して、王宮の古い石畳の廊下を歩きながら話している。

 この廊下も磨耗していて、よく通行する中央部は削れてへこんでいる。補修が繰り返されたので、廊下の中央から端にかけては使われた様々な石材の色合いのおかげで、中央ほど新しくて色も鮮やかなグラデーションのようになっている。反対に端の石材はコケむしてしまっている。


「ああ……新人がよく逃げ出すことで有名だよ。だから、陛下もあんな釘を刺していたんだな」

 体の大きな新人が残念がると、一番華奢な新人も同意する。

「水上警察だったらよかったんだけど」

 目の大きい新人が2人をなだめた。

「仕方ないよ。これは逃げ出した欠員補充のための採用だから」


 すると、廊下の向こうから風の精霊がメッセージを伝えにやってきた。優雅な動きで3名を包み込むと、空中に光る文字が躍るディスプレーを発生させた。

「うわ、もう決まったのか」

 驚く新人たち。


 このエルフ世界で使われている言語の文体は3種類あるが、最も格式の高い文体で空中に書かれている。何となくアラビア文字に似ているそれによると、

 目の大きいラウトは、医局バラン組のミンヤック薬師の助手に。

 華奢なテランは、医局バワベル組のレマック薬師の助手に。

 もう一人の背の高いカンプンは、スミング農園長の助手と配属が決まったという知らせだった。カンプンは二人から羨ましがられている。

「急ごう、挨拶した方がいいだろう。じゃあ、また後で」

 皆、それぞれの部署へ走っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。