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少年少女の冬の朝

作者: 黒太


 学校指定の紺のブレザーに真っ白なブラウスと首もとの赤いリボン。上着に合わせた紺の布地に赤いラインの入ったスカートは歩くたびにヒラヒラと揺れ、黒いニーソックスと組合わさって何だか絶妙な感じの絶対領域を作り出している。肩にかかるさらさらした長い髪は特に飾り立てることもなくそのままに、ねずみ色の絨毯が敷き詰められた廊下で今朝の洗い物と冷たい外の気温でかじかんだ手を白い吐息で温めながら、女子生徒は一人静かに歩いている。

 彼女は寮母以外はまだ誰も起きていない早い朝の時間に女子寮から堂々と正面玄関から抜け出して、こっそり男子寮の裏口から侵入してなるべく音を立てないように素早く三階までやって来た。例え少女がこれから向かう部屋に居る少年の自他共に認めるカップルで、最近は夫婦と呼ばれたりとからかわれることに少し憂鬱らしい。すっかり学園寮名物になってしまった朝と夜の彼氏のお世話はもう一年以上は続いているのだが基本的に男子寮は女子禁制で女子寮は男子禁制の寮則だ。

 だからその二人の事をあまり知らない新入生と廊下とすれ違ったりすると不思議そうに見られるどころか寮長や寮母に言い付けられることもあるし、それで一度大騒ぎにされてしまった事がある。その時は流石の彼女も二週間ばかし朝と夜のお世話は自重して過ごした。

 彼女自身も自分自身が寮則を破っていると分かっている。分かっているけど、彼女曰く「今はもう、寮則を破っても朝は彼氏の寝顔を見ないと一日が始まらない」らしく、そんなリア充全開発言を多くの生徒の前でしたのだから周りから夫婦とからかわれても仕方がないのかも知れない。

 ........だからと言って、ルールを破って良いなんて事は無いのだが。


「んと、今何時だっけ?」


 三階の階段の踊り場から少し歩いたところにある茶色の扉の前、彼女はブレザーの胸ポケットから銀の懐中時計を取り出して、静かにその蓋を開く。蓋の裏側には元気一杯に笑う赤い瞳の少女と不満そうな顔でその少女の隣に立つ青年が写る小さな写真が貼ってあって、写真に写る二人は仲良さげに手を繋いでいる。それもご丁寧に指まで絡めて。


「六時半か。一時間くらいは、みーちゃんの寝顔を見てられるかな?」


 パチンと懐中時計の蓋を閉じて、少女はまず二回、目の前にある「碓氷・牧」と書いてあるネームプレートのぶら下がった扉を軽くノックする。すると扉の向こうからカチャリと鍵を回す音が聞こえて、ゆっくりと茶色の扉が開かれる。その扉は「自分はそれはもう立て付けの悪いドアです」と言わんばかりに、けたたましい音が三階の廊下に響き渡る。

 男子寮名物がひとつ、喧しい扉と言われるくらいに実は有名扉である。


「おはよ中崎。今日も寒いけど大丈夫か?」

「寒いのが大丈夫になるなんてきっと一生ないと思うけど。おはよ牧君」


 喧しく悲鳴をあげる扉を半分ほど開き、中からするりと姿を現したのは180センチはあろう長身の少年で、ちょっと寝癖の残る短めの髪は寒い今朝でも元気そうだ。 顔立ちは普通と本人は言っていたが、可愛い彼女が居たり密かにファンクラブが出来たりしてるくらいなのだから彼は間違いなくイケメンだ。

 少女と同じ紺色のブレザーの上に灰色のロングジャケットを着て、その首もとには赤いネクタイ。ズボンも紺色で、女子のスカートとは違って男子のズボンには黒のチェックが入っている。

 そんな少年と一緒に、部屋の中から香ばしいトーストの匂いが流れて来て少女の鼻腔をくすぐる。


「千雪はまだ寝てたか?」

「私が出る頃にはまだ起きてたけど、今は寝ちゃってるかもね」

「........また徹夜なのか。ありがとう、朝飯と弁当作っといたから碓氷と食べてくれ」

「ありがと。私も作っておいたから、千雪と食べてね」

「おう。それじゃ、また教室で」


 牧君と呼ばれた少年は小走りで階段に向かって行き、中崎と呼ばれた少女は少年と入れ替わるように部屋の中に入る。 

 喧しい扉を鳴らしながら閉じると、まず最初に少女の目に入ったのは茶色いフローリングの床とカラフルなハンガーだらけの白い壁。電子コンロ一口に流し台しかない手狭なキッチンと広いとは言えない短い廊下。その奥にある茶色い扉は、この部屋に住む少年二人が生活するリビング兼寝室がある。

少女は赤いマフラーをキッチンの反対側にある壁にかけてあるハンガーに吊るして、扉の鍵をカチャリと閉める。


「さて、と。取り敢えず温かい紅茶でも飲んで、暖を取ろうかな?今日も寒いし」


 そんな独り言を漏らしながら少女がポットに向かって手を伸ばすと狭い廊下と部屋を分ける扉が開いて


「おはよう雫。今日も起こしに来てくれてありがとな」


と、寝癖で頭が爆発していてモコモコした赤いパジャマに身を包んだ身長170センチくらいのタレ目の少年がさらっと朝の挨拶と感謝の言葉を述べた。

 先程雫が話していた牧君と同じ年齢なのに、牧君と比べて身長が低めなのは彼の発育が悪いのか牧君の発育か良いのか。


「........................」

「な、なんだよ?その不満そうな目は」

「別に不満そうにしてない。最近天美が早起きで可愛い寝顔を見せてくれないなーって思ってるだけだけど」

「不満なんじゃないか........」


 ジトーッ。と雫は天美の顔を不満そうに見つめて、隠すこともせず不満を口にする。そんな雫に天美は困ったように笑顔を見せて、こっちに来てくれと手を振ってジェスチャーする。


「ふーんだ。みーちゃんの分の紅茶は淹れてあげないから」


 雫は天美からのジェスチャーを無視して、拗ねたように顔をそらしてキッチンに向かう。まるで子供みたいな反応をする雫を見て天美はもう一度困ったような笑みを浮かべて、今度はジェスチャーで彼女を呼ぶのではなく自分から彼女に近付いて、ポットに向かって伸びたその白い左手を横からそっと掴んで自分の方に引き寄せる。

 拗ねている雫は天美が立っている方とは逆の方に顔を向けて、天美の顔を見ないようにしている。


「手、冷えてるな」

「........................」

「雫。こっち向いてくれよ」

「........................」

「全く仕方ないなぁ」


 今度は天美が手を伸ばして雫の右肩を掴んで、少し強引に自分の方に体を向けさせるが、雫の顔は頑なに右を向いて天美と視線を合わせようとはしない。そんな雫の右頬に天美はそっと左手を添えて、優しく雫の顔を正面に向かせた。


「頑固者め。ちゃんとこっち見てくれよ」

「見ない」


 しかし、雫は視線を右に向けて天美の顔を見ないようにしている。どうやら徹底抗戦をするようだ。

 そんな意地っ張りな少女を見て少年は優しく微笑んで、少女の右頬に添えた左手を今度は顎に添えて、優しく少女の顎を少しだけ上に向けさせる。


「そろそろ天美と私、どっちが上なのか決めておきたいんだけど」

「普段は雫の方が上だけど、こういうときは俺が上で居たい」


 今度は雫の左肩を掴んでいた右手で雫の長い髪を掻き分けて、その奥に隠れていた白い首筋にそっと回して、少し力を入れて天美は雫を少しだけ自分に近付けた。

 そうして今度は天美がぶつかりそうになるまで雫に近付いて、更に雫の顎を上に向けさせて、その上にある柔らかそうな唇に自分の唇を少し荒々しく重ねる。

 そんな唐突な、ムードも何もあったものではないような天美からのキスに雫は驚いたのか、さっきまで右を向いていた視線を正面に向けて瞳を見開き

「...ん........」

と声を漏らしてゆっくりと瞼を閉じる。

 キスに応じてくれた雫に気を良くしたのか、あるいは調子に乗ったのか天美は雫の細い体に両腕を回してキスをしたままキツく彼女を抱き締める。

 それに合わせて更に雫の唇からくぐもった声が漏れるが、天美は気にすることなく更に雫をキツくキツく抱き締めていく。


「っ、ん....」


 空気を求めて喘ぐように雫は声を漏らしたが、天美はそれを許さないとばかりに唇を重ねたまま離さない。

 ぎゅぅ~っ。と音が出そうな程に天美は雫を抱き締めたまま、今度は雫を引き込むように背中から床に向かって倒れる。その際に少しだけ彼と彼女の重なった唇が離れ、雫は空気を求めようと顔を引こうとするが、そんなことは許さないと天美の手が雫の後頭部に伸びて雫の唇を自分の唇に押し付ける。


「...んんっ........!」


 抗議の声を上げるように雫が天美の右足を左手で叩くと、そこで初めて天美が雫を押さえ付ける力を緩めた。


「........突然苦しい。天美のバカ」

「ごめんごめん。雫とイチャつきたくなってさ」


 天美の手で床に引き倒された雫は文句を言いながらも天美をまるで抱き枕代わりにして床に横になり、彼の右腕に抱き付いて幸せそうな表情で彼の右肩に額を擦り付ける。


「良いけど、ちゃんと部屋行こ?」


 諦めたのか素直になったのか、少年の隣に寝そべる少女は甘えた声を上げて益々ぴったりと少年の体にくっつく。部屋に行こうとか言いながら、その場から動くどころか起き上がろうとしないのはとても矛盾しているのだが本人はそんなことを気にせずに一人幸せを噛み締めているようだ。


「ところで雫さん?」

「なぁに天美君?」

「どいてくれないと、移動できない」

「離れたくないから却下」

「ぉ、おう」


 右肩に額を埋める雫に天美は思わず苦笑いして、自由に動かせる左手で甘えん坊の彼女の頭をゆっくりと撫でていく。天美に頭を撫でてもらうのが好きなのか、或いは髪をすいてもらうのが好きなのか、雫は更に満足そうに目を細めて、幸せそうな笑みを浮かべる。


「そうだ雫、今年の冬休みはどうする?」

「片付けられないダメな養父とその住まいを大掃除する予定。あの人生活能力が低いから」

「ぁー........。うん、俺も手伝う」

「うん。有り難い........です」


 いったい二人は何を思い浮かべたのか、何故か天美の顔は青ざめて雫は深いため息を吐く。


「それじゃあ天美も、実家に帰るんだ?」

「誰もいない家だけどな。こういう時は雫と幼馴染みで良かったよ」

「ご両親は、もしかして今年も帰ってこない?」

「実は最近音信不通気味だけど、どうせ仕事仕事で俺の事は忘れてるだろうな」

「天美の方から会いに行かないの?実は御令息のみーちゃん」

「今年は雫とイチャついて年を越す。何年も待たされた分、色々溜まっててだな」

「それは........、うん。私も、そのつもり」


 今だって十分なくらいに天美にくっついていると言うのに、雫は更に天美にくっついて今度は肩ではなく胸に頭を置いてスカートが乱れることも気にせずに自分の右足を天美の右足に絡めて、天美の右腕を抱き締めていた右腕を伸ばして天美の体をもっと自分に近づけようと片腕で抱き締める。

 端から見れば、いや端から見なくとも、今の二人は朝から盛ってるバカップル。こんなところを寮母さんや寮監督の先生に見られたりしたら何枚の反省文を書かされ何時間のお説教を説かれることになるか分からない。


「ねぇ天美」

「どうした?」

「大好き」

「知ってる。俺も雫が大好きだからな」


 ガバッと天美は体を起こして、今度は雫を組み敷くように彼は彼女に股がった。
















今後、こんな感じで細々と短編を投稿していく予定です。


こんな拙い文章を読んでくれた方、感想などお待ちしております。

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