第五話
「済まない」
土下座をしているのは、晴明。
まあ確かに、間接的には晴明にも責任がないとは言えないだろう。
同行者が裏切るなんてあり得ないと何度も言いながら、結局裏切ってきたわけだから。
ただまあ、分家当主ともなると、絶対の信頼を置いていた相手ではあるはず。
そんな人がとは、普通は思わないし、オレも実際にそうなるまでは思わなかった。
誰であっても裏切る可能性はあると思っていたけど、まさかそんな社会的地位のある重鎮がやるとはさあ。
裏切った理由は本人がその場で言っていた通り、オレが芦屋家の純血を乱すということだった。
ただ不思議なのは、別に養女と言うだけで他家に嫁ぐことになるオレがいた所で純血が乱れることは、あり得ないと思うんだけど。
まあ、養女でいるだけで純血が乱れると言うなら、それは仕方ないのかもだけど。
「ああ、里美には言ってなかったか。
実を言うと、里美を養女にする際に、将来能明の嫁にすることもあり得ると一族会議で発言していてね。
それに反発していた者がいたということなのだろうな。
直接言ってくればいいものをいきなり実力行使するとは、私も舐められたものだ」
え?オレが能明の嫁?
彼氏いない歴=前世の享年+現世の年齢のオレが嫁?
考えたことなかったな。
しかし、能明の嫁かあ。
結婚するとなると、夫婦の営みをしたり、二人の間の子供を育てたりするわけだよな。
……あれ?普通にありなんじゃないか?
能明と共に生きていけるなら、かなり幸せなことになると思うし、二人の間の子供を育てるのも、能明ならば安心してできると思う。
夫婦の営みは未経験だから怖いけど、能明なら無理強いしたりはしないだろう。
何より、能明に抱き締められるのは心地よい。
こんな優良物件をポット出のオレにと反発が出るのは、確かに当然かもしれないな。
「成程。そういう経緯があったのか。
でも、そういうのは言っておいてくれよ。心構えが変わる」
「おや?嫁そのものには反発はないのかい?」
「反発も何も、能明みたいな優良物件で嫌だというのは、贅沢すぎないか?
まあ、いきなり言われて驚きはしたけど、能明と共に歩む人生なら、幸せになれるだろうし」
「……父親としては喜んでいいのか、だねえ。能明のことは、これからもよろしく頼むよ」
「ああ、ただ、そうなると花嫁修業とかもすることになるのか?
オレ、魔法で済ませてきたから実技は学校の授業レベルなんだけど」
実際、勉強も多少はするけど、魔法や武術の鍛錬に最大限の時間を割いてきたオレは、女の子らしいことなんて、殆どやったことがない。
オレ一人で生きるなら、魔法や金銭で代用できるしさ。
料理だって、調理魔法を使えばいいだけだし、服は既製品の方が余程実用性が高いだろう。
掃除洗濯だって、魔法や機械でやっちゃえば、大した手間じゃない。
裁縫だって、破れたら新しい服に変えればいいだけだし。
だが、嫁として夫の為にとなると話は大きく異なる。
手料理の一つも出せないのは、女の沽券に関わると思うし、魔法じゃ均質の料理はできても、好みに合わせて作ることはできない。
掃除洗濯だって、機能性だけじゃ情緒が足りない。
裁縫だって、お気に入りの服を直したり、子供むけにサイズを少し変えるといったことも必要になるだろう。
芦屋家クラスなら、お手伝いさん達がすべてやってくれるとは思うけど、時には自分でやることも必要だと思うし。
「里美、おいおい習ってみるか?」
「ああ、必要ではあるからね。最低限のことはできるようにならないと」
後になって顧みると、この時のことはある種のフラグだったのかもしれない。
本人達は全く意識していなかったし、普通こうなるとはその時点では想定することもできなかった。




