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虹を越えて  作者: 沖川英子
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頂上から街が見える

 何となく明るくなったような気がして、彼女は顔を上げる。見ると、行く手の山道はふっつりと見えなくなり、その代わりに抜けるような青空が広がっている。

 登り道が終わるのだ。

 彼女ははっと目を見開く。スニーカーの足を速めて、ほとんど小走りに最後の数十メートルを一気に登る。

 頂上で、彼女は脇の木に手を付きながら体をかがめ、はあはあと荒い息を整える。

 そして、顔を上げる。

 夏の陽光にきらめく水田が広がり、合間にはぽつりぽつりと人家が広がる。それが段々と遠くに行くにつれて密集し、やがて灰色にくすんだ街になる。

 様々な色の屋根の群れ。ちかりと光るガラス窓。街の中には大きな道路、恐らく国道が通り、様々な車がひっきりなしに行き交う様が良く見え、それと並行するようにおもちゃのような電車が走っている。彼女の街よりもずっと規模が大きい。

 そのさらに向こうにも、まだまだ人家が広がっている。先には水田も畑も雑木林も無いように見える。どこまで行っても屋根の海。

 彼女はしばらくそれを見つめる。そして思い出したようにタオルで汗をぬぐい、大きく深呼吸し、幾重にもカーブを描きながら続く山道を下って行く。



 随分と広い街だ。いや、寂れて煤けた私の街と比べるのがおかしいのだろうが、大きくて、立派で、栄えていそうな街だ。

 けれども、漠然と期待していた程の感動は無く、私の目はただ「街がある」という事実を捕らえただけで、それに伴う達成感や喜びは一向に胸中に湧いてこなかった。そのことに少し戸惑いは感じるけれど、きっと本当にあの街に足を踏み入れればまた違うのだろう。

 先ほどの雨で道が滑りやすくなっている。私は慎重に足を運ぶ。

 思えば、こっちの街の話は聞いたことがない。先ほどまで歩いていた道は大きく迂回して別の場所へ続いているので、私の街からはこの山を越える以外に訪れる方法が無い。そしてその唯一のルートである山道は、ほとんど忘れ去られたような寂れ具合ときている。

 地図上で見れば近いのに、なんて遠い場所だったのだろう。

 山の上から見たこの街は、あちらこちらに家よりも高い建物があり、国道があり、電車が走っていた。交通の要所、始点、始まりの地という言葉が頭に浮かぶ。

 始まりの地。

 不意に思いついたその言葉が嬉しくて、自然と唇が緩む。

 そう、ここは私の始まりの地になるのかもしれない。

今はまだ、分からないけれど。

それでも私は確かに、虹の橋の架かる山を、今、越えるのだから。

 ぐねぐねと曲がりくねる道を右に左に進むうちに道幅が広まり、段々と自然のたてる以外の物音が聞こえてくる。

 車やバイクのエンジン音。少し遠くから響いてくる、あれは電車の警笛。

 今曲がるのが最後のカーブらしい。道は緩やかに下りながら続き、山を取り巻くように左に折れている。その先は平地になり、市街地へと近づいているのだろう。

 街が迫ってくる。

 私は汗を拭き、火照る頬に手をやって少し息を整える。そして最後の数十メートルを一気に駆けるように降りる。


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