第4章:守られていた仕事
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## ■第4章:守られていた仕事(転生から10年後)
幸吉がこの世界に来てから、十年が経った。
工房は大きくなり、仕事も増えた。
だが同時に――
**“目立ちすぎていた”。**
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「最近、他の工房からの圧が強いです」
古株の職人が言う。
「仕事の横取り、値下げ競争……嫌がらせも増えてます」
幸吉はうなずいた。
予想していたことだった。
“壊れない壁”は、利益を奪う。
つまり――敵を作る。
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「放っておけ」
「ですが――」
「質で負けなければ、最後に残る」
そう言いながらも、幸吉は内心で理解していた。
(これは技術の問題じゃない)
これは――
**“領主の問題”だ。**
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## ■モンメアル領の変化
その頃、モンメアル領では代替わりが起きていた。
先代が病で倒れ、若い当主が就任したばかり。
貴族社会は揺れる。
方針が変われば、保護も消える。
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ある日、呼び出しが来た。
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「領主様がお呼びだ」
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工房の空気が凍る。
「……ついに来たか」
誰かが呟く。
潰されるか、取り込まれるか。
どちらにしても、ただでは済まない。
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幸吉は立ち上がった。
「行く」
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## ■再会
領主館。
重厚な扉が開く。
その奥にいたのは――若い男だった。
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「久しいな、幸吉」
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見覚えがあった。
十年前、まだ子供だった貴族の少年。
豪華装丁の本を買っていった一人。
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「……覚えておられましたか」
「当然だ」
男は笑う。
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「あの本で、随分と楽をさせてもらった」
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周囲の空気が変わる。
ただの職人と領主ではない。
**“過去に関係がある”空気。**
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## ■明かされる事実
「お前の工房のことは、全部報告が上がっている」
幸吉は黙って聞く。
「品質が高い。人が辞めない。利益も出している」
淡々とした評価。
だが次の言葉が重かった。
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「……そして、敵も多い」
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やはりか、と思う。
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「安心しろ」
領主は言った。
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「お前の仕事は、こちらで守っている」
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一瞬、理解が追いつかなかった。
「……守って、いる?」
「不当な圧力は止めている。
価格操作もな」
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幸吉の知らないところで、
**見えない戦いが行われていた。**
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## ■理由
「なぜ、そこまで……」
思わず口に出る。
領主は少しだけ考え、答えた。
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「あの本だ」
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やはり、そこか。
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「礼、規律、統率……全部使った」
「……」
「特に“人の育て方”だ」
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領主は続ける。
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「人は怒鳴っても動かない。理解させれば動く」
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幸吉の教えと同じだった。
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「おかげで、無駄な衝突が減った」
「それは……何よりです」
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「だからだ」
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領主は真っ直ぐに見た。
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「価値のあるものは守る」
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## ■条件
だが、そこで終わらなかった。
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「ただし、一つ頼みがある」
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やはり来たか、と思う。
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「この領の建築を、底上げしてほしい」
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個人の仕事ではない。
**領全体のレベルを上げろ、という要求。**
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「職人を育て、基準を作り、崩れない街を作れ」
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それは――
幸吉がこれまでやってきたことの“拡張”だった。
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## ■決断
幸吉は少し考えた。
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(個人ではなく、領全体か……)
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難易度は跳ね上がる。
だが同時に――
可能性も広がる。
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「……条件があります」
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領主の眉がわずかに動く。
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「口出しは最小限に」
「ほう」
「現場の判断を尊重してください」
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一瞬の沈黙。
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そして――
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「いいだろう」
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あっさりと通った。
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## ■結び
館を出た後、幸吉は空を見上げた。
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(守られていた、か)
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気づかなかった。
だが確かに――
自分の仕事は、誰かに支えられていた。
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そして今、その関係は変わる。
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**守られる側から、支える側へ。**
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幸吉の仕事は、もはや一つの工房ではない。
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**領を変える仕事へと、変わり始めた。**




