第六章 レン——世界のかたち
四歳のレンには、世界はとても小さかった。
アパートの部屋と、下の公園と、ユキが連れて行く買い物先と、時々行く公民館。それがほぼ全部だった。
しかしその小さな世界の中に、たくさんの「なんで」があった。
なんで公園の砂は柔らかいのに、道路の砂はかたいの。なんで雨が降ると虫が出てくるの。なんでユキの端末には、自分の端末にない絵がいっぱいあるの。
AIアシスタントの端末は、三歳からもらえる。レンのはまだ基本的なものだった。ユキの端末より画面が小さく、できることも少ない。
「ねえ、これはなんて言うの」レンは端末の画面を指した。
「どれ」
「ここ。素体スコア、って」
ユキは少し止まった。
「それは、あなたが生まれたときに測った、あなたの体のデータだよ」
「どんなデータ?」
「脳みそがどのくらい大きくなれるか、とか。体がどんなふうに育つか、とか」
「大きくなれるか、はどうやってわかるの」
「生まれたとき、機械で測るの」
「機械が、わかるの?」
「……ある程度はね」
レンはしばらく端末の画面を見ていた。
「俺のは、いい数字なの?」
ユキはどう答えるか、少し考えた。
「数字は大きい方だよ」
「大きい方がいいの?」
「……可能性が大きい、ってこと」
「可能性って何」
「できるかもしれないこと、が、たくさんある、ってこと」
レンはまた少し考えた。
「できるかもしれない、は、できるとは違うの?」
ユキは答えられなかった。
「……そうね」しばらくしてから言った。「違うね」
「ふーん」
レンは端末を置いて、また別のことを始めた。
ユキはその「ふーん」が、何を意味しているのか、考え続けた。




