第二部 育てること 第五章 ユキ——カリキュラムと夜
レンが四歳になった夏、ユキは有料枠のカリキュラムを一つだけ買った。
「言語・論理統合発達プログラム 初級」——持ち点クレジットで購入できる最も基礎的な有料プログラムだ。それでもユキの月間クレジットの三分の一を使った。
夜、レンが寝た後、ユキは端末でそのプログラムの内容を確認した。
翌朝から実施するための準備だ。プログラムは日次の活動内容と、AIアシスタントへの記録方法を細かく指定していた。絵カードを使った語彙拡張、物語の再構成、因果関係を問う質問形式——どれも無料枠よりずっと精緻だった。
なるほど、これが違うのか、とユキは思った。
無料枠でやっていたこととの差が、見えた気がした。内容の差だけでなく、ログの取り方の精度が違う。AIアシスタントが読み込める形式で記録を残すためのガイドが、有料枠には細かく書かれていた。
つまり——同じことをしていても、有料枠のやり方でログに残したほうが、査定に有利に働く可能性がある。
ユキは少し考えた。
それはフェアか。
フェアかどうかより、レンのためにできることをするしかない。今はそれだけだ。
ユキはプログラムの準備を続けた。
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四歳のカリキュラムは、毎朝三十分と、夜の読み聞かせ前の十五分が基本だった。
朝のプログラムは、ユキが仕事に出る前の時間に入れた。起き上がって、顔を洗って、朝食の準備をしながら、画面を横目で確認する。レンに絵カードを見せながら、「これはなに?」「これとこれは、どっちが大きい?」「なんでそう思う?」。
レンは毎朝、少しずつ答えが変わっていった。
最初は首を振ることが多かった。それが、短い言葉になり、少し長い言葉になり、「なんでかっていうと……」という言い回しが出てくるようになった。
ユキはその変化を、端末にログとして入れ続けた。
仕事から帰ってくると、レンはすでに夕食を食べ終わっていることもあった——AIアシスタントの端末に記録された「保育補助モード」が、ユキの帰りが遅い日は簡単な食事の補助をするようになっていたからだ。
ユキは「ただいま」と言って、レンに今日何をしたか聞いた。
「えーと、パズルをした。難しかった。でもできた」
「すごい。どうやってできたの」
「こっちを先にやったら、こっちがはまった」
「なるほど」ユキはログを取りながら、本当にそう思っていた。なるほど、この子はこう考えるんだ、と。
ログを取ることと、感心することが、いつのまにか一緒になっていた。




