第三章 ユキ——最初の試験
レンが三歳になった春、ユキは初めての標準認定試験の受験手続きをした。
試験は任意だ。受けなくてもいい。受けなければ、その年の全受験者の最低点の半分が持ち点として記録される。三歳の子どもが試験を受けるかどうかは、生みの親が決める。
ユキは受けさせることにした。
理由は単純だ。受けなければ、確実に低い点数が記録される。受ければ、可能性がある。義務教育レベルの内容だ。三歳でも、基礎的な認知能力が育っていれば、一定の点数は取れる。
問題は、一定の点数を取れるように育てること、だった。
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カリキュラムのカタログは、端末上で閲覧できる。
ユキは夜、レンが寝てから端末を開いた。画面の光だけが、暗い部屋に広がる。
カリキュラムの数は膨大だった。言語発達、論理思考、空間認識、音楽、運動——あらゆる分野に、年齢ごとのプログラムが用意されている。制度が「豊富に揃えている」と言うのは、本当のことだ。
ただし、豊富なカリキュラムの多くは有料だった。
無料枠のカリキュラムも存在する。ただし数が少なく、更新頻度も低い。最新の教育研究の成果を取り入れた高精度のものは、ほぼすべて有料枠にある。
ユキは無料枠のカリキュラムをすべて開いた。
言語・論理野の発達可能性が高い子どもに適したプログラム——その条件で絞ると、無料枠には三つしかなかった。
「絵本読み聞かせ基礎プログラム」
「日常会話パターン学習」
「簡単なパズル遊び導入」
ユキはそれを全部入れた。
端末のカリキュラム実施ログには、毎回の実施時間と内容が記録される。このログがAIアシスタントのデータベースに蓄積され、将来の査定に使われる。
だからログを厚くしなければならない。
毎日やる。時間を決めて、記録をとる。それがユキにできることだった。




