第十五章 ユキ——翌朝
レンがラプラス社のバンに乗って行った翌朝、ユキは一人でトーストを焼いた。
焦げた。
いつも通りに。
ユキはそれを皿に置いて、しばらく見た。
一枚だけ。
昨日まで二枚焼いていたのに、もう一枚でいい。
ユキは焦げたトーストを食べた。
冷めていた。
でも、食べた。
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端末に通知が来ていた。
査定の結果の最終確認と、売却金の入金通知だ。
金額を確認した。費用より少し多かった。わずかに黒字。
ユキはその数字を見た。
七年間の計算が、これに集約されていた。
しかし同時に、七年間のうちで、この数字に集約されていないものが、いくつもあった。
熱の夜。読み聞かせ。「なんでユキは頑張れるの」という問い。最後にユキのログを全部入れてほしいと言ったこと。
制度は、そういうものを数えない。
数えないけれど、なくなったわけではない。
ユキは端末を閉じた。
今日も仕事がある。評価点を管理しなければならない。クレジットを計算しなければならない。来年の標準認定試験を受けなければならない。
でも今日だけは。
今日だけは、数字のことを考えない日にしていいと思った。
ユキは窓を開けた。
秋の風が入ってきた。
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### 第十六章 レン——バンの中
バンの窓から、街が流れていった。
シートベルトが、少し硬かった。
レンはソラに話しかけた。
「ソラ、ユキのログ、ちゃんと入ってる?」
「入っています。七年分、全部」
「消えない?」
「消えません。私のデータベースの中に、ずっと残ります」
「よかった」
レンは窓の外を見た。
景色がゆっくり流れていった。
「ソラ」
「はい」
「俺、どんな大人になるの」
「わかりません」
「わからないのに、ソラは俺と一緒にいるの?」
「わかるからいるのではなくて、一緒にいながらわかっていくのだと思います」
レンはそれを聞いて、少し考えた。
「それって、ユキが言ってた誓いみたいだ」
「そうかもしれません」
「俺の誓い、何にしようか」
「まだ考えなくていいと思います。でも、考え始めることはいつでもいいと思います」
「今から考えていい?」
「もちろんです」
バンが橋を渡った。川が見えた。広い川だった。
レンはその川を見ながら、考え始めた。
ユキのことを考えた。ソラのことを考えた。なんで、という問いのことを考えた。数字が映していないものがある、という六歳の夜の感覚を、まだ持っていた。
それが何かを、まだ言葉にできなかった。
でも、いつかできる気がした。




