第三部 査定 第十三章 ユキ——査定の前夜
査定の前夜、ユキは眠れなかった。
端末を開いて、七年間のログを見返した。
最初のカリキュラム記録。三歳の試験の準備。四歳で有料枠を初めて買ったとき。五歳の熱の夜。六歳に「なんで嘘をつくの」という対話をした記録。七年分のログが、画面をスクロールしても終わらなかった。
このログが、明日の査定に使われる。
企業の担当者がこのデータを見て、レンに値段をつける。
ユキはその事実を、七年間わかっていた。わかっていて、ログを取り続けた。でも今夜、そのログを見返しながら、ユキは別のことを思っていた。
このログは、レンとユキの七年間だ。
値段をつけるためのデータだが、同時に——レンが笑ったこと、泣いたこと、「なんで」と問い続けたこと、ソラと初めて話したこと、夜熱で苦しいときに「いてくれる?」と言ったこと——それが全部ここにある。
データの形で。
ユキはログを閉じた。
そして改めて開いた。
一から読み直した。
データとしてではなく、ただ思い出として。
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夜中の三時に、ユキは一つのことを決めた。
明日の査定で、どんな結果が出ても——黒字でも赤字でも——それはユキの失敗ではない。
そう決めた。
制度が「失敗」と言う可能性はある。費用が売却額を上回れば、制度の計算の上では「赤字」だ。でもユキは七年間、できることをした。カリキュラムを選び、ログを取り、夜読み聞かせをして、熱の夜に隣にいた。
それを「失敗」と呼ぶ数字があるとしたら——その数字が、何かを映していない。
ユキはそう思った。
その考えを言葉にできたのは、その夜が初めてだった。




