第十二章 レン——七歳の夏
七歳になった夏、レンはソラに聞いた。
「俺、企業に行くの?」
「あなたが七歳になったので、査定の対象になります」
「査定って、どういうこと」
「企業の人たちが、あなたのAIログのデータを見て、あなたをどんな価値があるか判断する。それが査定です」
「価値って、何の価値?」
「仕事に使える力がどれくらいあるか、ということです」
レンはしばらく考えた。
「ユキはどうなるの」
「査定の結果、企業があなたを買い取ります。その金額がユキさんへの支払いになります」
「買い取る、って——俺がいなくなるってこと?」
ソラは少しの間、答えなかった。
「しばらく、ユキさんとは離れて暮らすことになります。夏と年末年始と秋には、帰れます」
「離れるの」
「はい」
レンは窓の外を見た。夏の空だった。雲が白かった。
「ユキに言う」
「今から、ですか」
「うん。ユキはわかってるの?」
「ユキさんはわかっています。あなたに、いつどう伝えるか、考えていたようです」
「知ってたのか」
「はい」
「なんで俺に先に言わなかったの」
「ユキさんが、自分から言いたかったのだと思います」
レンは端末を置いて、台所のユキのところへ行った。
ユキはエプロンをつけて、夕食の準備をしていた。
「ユキ」
「何?」
「俺、企業に行くの?」
ユキは手を止めた。振り返った。
「……聞いたの。ソラに」
「うん」
ユキは少しの間、レンを見ていた。それから、しゃがんだ。レンと目の高さを合わせた。
「そうだよ。七歳になったから、査定を受けて、企業に行く」
「なんで」
「制度がそうなってるから」
「それはわかってる。なんで制度がそうなってるの」
ユキは少し黙った。
「……子どもがたくさん働けるように、っていう理由があるみたい。でも本当のところは、ユキにはよくわからない」
「離れるの嫌だ」
「……うん」
「ユキは嫌じゃないの」
ユキはしばらく答えなかった。
それが答えだ、とレンは思った。
「嫌だよ」ユキは言った。「でも、行かせなきゃいけない」
「なんで」
「あなたがそこで、いろんなことを学んで、大きくなれるから」
「ここじゃダメなの」
「ここじゃ、ユキじゃ、全部は教えられないから」
レンは黙っていた。
それはたぶん本当のことだ。でも本当のことだけではない気もした。制度のことも、費用のことも、クレジットのことも——レンは全部は理解していなかったが、何かが他にある気はしていた。
「嫌だけど、行く」レンは言った。
「……うん」
「里帰りのとき、またここに来るから」
「来てね」
「必ず」
ユキはレンの頭に手を置いた。
レンはその手の重さを感じた。




