第十一章 ユキ——最後の年
査定まで一年を切った。
ユキは計算を毎月するようになっていた。
カリキュラム費用の残り。ログの蓄積量。有料枠で追加購入できる余地。査定額の推定。売却額と費用の差分。
全部が繋がっていて、全部が足りなかった。
もう一つ有料カリキュラムを入れたかった。「論理的推論発展プログラム」——レンの素体スコアに最も適合すると評価されているプログラムだ。しかし費用は、残りのクレジットを全部使っても足りなかった。
足りない分を補うために、ユキは評価点の管理を変えた。
これまで週に数人に評価点を贈っていたのを、特定の相手に絞るようにした。評価点を贈る相手を、自分に返ってくる見込みの高い人間だけに限定した。
それは、ユキにとって居心地の悪いことだった。
評価点を贈るのは、誰かの仕事や行動に対して「良かった」と思ったときにする——そうユキは思ってきた。しかし効率を考えると、戦略的に動かなければならない。
感情と計算が、ずれていった。
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ある日、ユキは古い知人から連絡をもらった。
子どもの頃に同じ企業で丁稚奉公をした、ミナという女性だった。今は持ち点がかなり高い。仕事でも評価されている。ユキとはほとんど連絡をとっていなかったが、ふとしたきっかけでメッセージが来た。
「元気? 子どもがいるって聞いたけど。もうすぐ査定だって、大変だね」
ユキは少し考えて、返信した。
「元気です。大変といえば大変ですが、なんとかやっています」
「何か手伝えることがあれば言って」
その言葉の後、ユキはどう返すか考えた。
手伝えること、というのは何だろう。評価点を贈ってくれる、ということかもしれない。ミナの持ち点は高い。ユキに高い評価点を贈ってくれれば、ユキの得点が上がり、クレジットが少し増える可能性がある。
ユキはそこまで考えて、止まった。
ミナの申し出を、クレジットの計算に変換しようとしていた。
それはユキが、なりたくなかった自分だった。
「ありがとう。でも大丈夫。また会えるといいね」
そう返信した。
その夜、レンに読み聞かせをしながら、ユキは思った。
この子に「人を助けなさい」と言いたい。「人に優しくしなさい」と言いたい。でも、制度の中でそれを言い続けることが、どれだけ難しいか——自分がよく知っている。
言える。でも言い続けられるかどうかは、自分にもわからない。




