第九章 ユキ——六歳、計算
レンが六歳になった年、ユキは細かい計算をした。
七歳になると、企業の査定がある。査定は、AIアシスタントのログデータを企業の担当者が読み込み、レンの「価値」を決める。高い査定がつけば、企業への売却額が高くなる。売却額がユキへの支払いになる——費用を上回れば黒字、下回れば赤字だ。
費用というのは、七年間の最低保障にかかった経費だ。
ユキが計算したのは、この数字だ。
七年間の最低保障費用は、固定されている。食事、医療、住居、衣類——制度が定める標準額だ。この金額は変わらない。
問題は売却額だ。
売却額は査定によって決まる。査定はAIログの厚みと質によって決まる。AIログの質は、カリキュラムの質によって決まる。カリキュラムの質は、ユキが買えるものの範囲に縛られている。
ユキが計算した結果は、微妙なラインだった。
今のままのカリキュラム費用と、積み上げてきたログの量と質から推測すると——査定額は費用を少し上回る程度か、ギリギリ同程度か、そのあたりだった。
黒字になるか赤字になるか、まだわからない。
ユキはその計算を何度かやり直した。結果は変わらなかった。
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その夜、レンに聞いた。
「ソラとの話、最近どんなこと話してる?」
「今日はね、なんで人は嘘をつくのか、って聞いた」
「なんでそんなことを」
「保育で、友達が嘘をついたから」
「ソラはなんて言ってた」
「嘘をつくのは、本当のことを言うと損をすると思うからだって。でも嘘をついても結局損をすることがある、って」
「へえ」
「でもソラは、嘘をつかない、って言ってた」
「AIだから?」
「そうかもしれない。でもソラは『嘘をつく必要がない』って言ってた。嘘をつく必要がある状況に、私はならない、って」
ユキは少し考えた。
「それはどういう意味だと思う?」
「よくわからない。でも、なんかかっこいいと思った」
ユキは笑った。
「ログに入れていい?」
「うん」
ユキは端末に入力した。「本日の対話内容:嘘について、AIアシスタントの誠実性についての考察」。
それが査定にどう影響するか、ユキにはわからなかった。
でも、入れた。




