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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

正義の味方嫌いの私が少しだけ前を向く話

作者: 宿木ミル

「正義の鉄槌を受けてみろ!」

「お前は悪だ! 裁かれるべき存在だ!」

「消えてしまえ! 悪の思念体!」


 繰り返し、何回も負け続けて罵倒される人生。

 それが当たり前のように繰り返される物語。

 ……私は悪役として産まれたのだと気が付いたのはその回数が数十回を超えた頃だった。


 この世界には正義の味方とそれに敵対する悪役という存在がいて、私は負けるのが宿命の人。

 歪んでいると思っていても、私の声は聴き届けられない。


 一回、私を攻撃するのはどうしてかと聞いたことがある。

 その時、正義の味方はこう言葉にした。


『お前の存在そのものが罪だからだ』


 痛いと呟いても、繰り返し襲われた。


『消えてしまった方が世界の為だ』


 そう言われながら。


 ……不安になって、自分のことを研究して、その理由はわかった。

 どうやら私という存在、悪役は負の感情を依り代に生きているそうだ。

 つまり、私たちのような存在を消すことによって負の感情を世界から無くしているということになる。


「どうして、私はこうなっちゃったんだろう」


 同じような境遇の悪役と言われる存在は、私のように悩んだりすることは少ないらしい。

 それらの存在は、人の負の感情から産まれた存在だからか、悪事を働き、悩むこともないという。

 ……私だけだ。こうやって嘆いたりしてるのは。


「自分でいなくなったりした方がいいのはわかってるけど……」


 魔力を自分に注いで自壊するか。

 それとも、正義の味方に裁かれるか。

 その二つが私の運命になるのだろう。だけど、できなかった。


「……死ぬのは怖い」


 正義の味方にとどめを刺される前に逃げ続けた私に自分を殺すなんてことはできなかった。

 一回、やられそうになったタイミングだってあった。

 だけど、その時も不意に土煙が発生して、その隙に去っていってしまった。


 生きる為に気持ちを前向きにすることも、死ぬ覚悟もできない私。

 それなのに、正義の味方の言葉が私の心を蝕み続けている。


「正義……」


 私に襲い掛かってきた正義の味方を思い出す。

 なにもしていない私に、存在が罪だといって襲い掛かって来た奴。

 別の人がやった冤罪を吹っ掛けて、ありもしない罪を擦り付けてきた存在。

 どれも、私が関係していないことだった。

 もしも関係してることがあるとするのであれば、私が悪役だということだけだ。


「悪役なんて、もうやだ……正義の味方も、会いたくない……!」


 弱音を吐いて、嘆いていた時だった。

 ふわりと羽根のような魔力を展開して、ひとりの少女が私の前に現れたのだ。

 ……あれは、魔法少女。正義の味方。


「ひっ……!」


 このまま私は消えてしまうのか。

 頭を抑えて、必死に身体を守ろうとする。


「突然ごめんね? でも、これだけは言いたくって……」


 魔法少女は伏し目がちな私を見つめて、まっすぐ話してきた。


「わたしと、話をしてほしいの!」


 魔法少女は私に対して恐れたりも、攻撃することもなく、対話をしようとする。

 そんな彼女に対して、私は……


「本当に、いいの?」


 ほんの少しだけ期待を寄せていた。

 静かに尋ねる私に対して、彼女は微笑みながら答えた。


「もちろんっ」


 彼女に案内されて、私は路地裏まで移動する。

 静かな空間では、魔法少女のようなきらびやかな恰好はとても目立つ。

 気になって見つめていると、魔法少女は照れた仕草を見せながらはにかんでいた。


「えへへ、こういうところだと返って目立っちゃうかな?」

「うん、凄く目立つ……」

「君の恰好は……静かでいいよね! なんていうか、お人形さんみたいな!」

「そう言われるのは初めて、かも……」


 私の服装は自分ではあまり気にしていなかったけれども、ゴシックロリータと言われるものらしい。

 黒を基調としたフリルがたくさんの服。

 黒い髪は長く、少女としての姿を模っている。

 ……それを咎められたこともあった。


「いつも、容姿は人を騙す為に使ってるんじゃないかって言われてたから」

「……正義の味方に?」

「うん」


 私が頷いて、沈黙が続く。

 ……言うべきではなかったか。

 少しの沈黙ののち、彼女は言葉を続けた。


「わたし、シロっていうの! 白い魔法少女だからシロ。わかりやすいっしょ?」

「そうなんだ」

「あなたは、なんていうの?」


 純粋な眼で尋ねられる。

 しかし、私はその答えに応じることができなかった。


「……名前なんて、ない」

「どうして?」

「悪役として生を受けたときから、ずっと追われてて……名前なんて考えてる暇もなかった」


 思い浮かばない私。

 そんな私を見かねてか、シロはひとつの提案をした。


「じゃあ、今から名前を考えて……ネロちゃんにしよう!」

「名前、大切?」

「大切! だって新しく友達になるんだもん」

「とも、だち?」


 その響きには聞き覚えがなかった。

 今まで、そういう言葉をかけられたことは一度もなかったからだ。

 困惑する私に対して、シロは胸を張りながら自信を持って続ける。


「そう! 悪とか正義とか関係なしの間柄になるの!」

「……魔法少女は正義の味方じゃないの?」

「そうだとしても、そうじゃない感じ!」

「……よく、わからない」


 どう返答すればいいかもわからず、困惑する。

 でも、不思議と悪い感情はなかった。

 むしろ、暖かくって安心するような気持ちが膨れ上がっていく。


「どうして、私に優しくするの?」

「辛そうな顔してたから」


 さらりと言葉にする彼女。

 その言葉に迷いはない。


「悪だとか正義だとか、そういう言葉で片づけちゃいけないと思うの。辛い時はちゃんと辛いって言えるようになった方がいいと私は思ってる」

「でも、私は存在しちゃいけないって……」

「そんなことないよ。負の感情だって、大切な人間の感情の一部なんだから」


 優しく胸に手を添えて、シロが続ける。


「怒りに悲しみとか、不安。向き合いたくない気持ちはわかるの。でも、だからといって否定するだけだとダメだって思ってる。だからわたしは信じたいんだ。今のネロみたいに話し合って一緒に和解できるって」

「わ、私は和解したつもりじゃ……」

「……違うの?」


 寂しそうな表情。

 それを見つめながら、私は彼女に感情を伝える。。


「私と一緒にいたら、その……悪い噂とか広がっちゃうかもしれない。それに、ありもしない罪をぶつけられる可能性だってある。だから、一緒にいない方がいいと思うの」


 彼女は優しい。

 優しすぎる。

 だから、私と一緒にいてはいけない。そう思って突き放そうとする。

 ……でも、そうするとなんだか胸がチクチクするような感覚に襲われる。

 私は、どうすればいいんだろう。

 頭で感情を整理しようとする。

 そうしていると、シロは私の掌を掴んできた。


「そうだとしても、私はネロと一緒にいたい!」

「わっ」


 大きな声でそう言葉にする彼女の声には真摯な感情が籠っていた。

 私の手を掴むシロの手には力が宿っていた。

 放したくない、そんな気持ちも籠っているように思える。


「……ちょっと恥ずかしい話をしてもいいかな」

「構わない」

「私、ね。ネロを初めて見た時から気になってたんだ」

「初めて、見た時から……?」

「うん。正義の味方に襲われてるのを助けた時も、ネロのことが気になってた」

「助けた……? あっ」


 不意に土煙が上がってとどめから逃れられた瞬間のことを思い出した。

 あの時、私を助けてくれたのはシロだったのか。

 生きることに必死だったから魔法少女のことなんて気にすることもできなかった。


「正義の味方の人には自己満足だって怒られたし、罵倒だってされた。……でもね、嘘偽りなく正直に言うと、ね」


 私の手を優しく改めて握って、彼女が続ける。


「わたし、きっと、ネロちゃんに一目惚れしちゃったんだと思う」

「私に……?」


 頬を赤くしながら、シロはそれでも私の顔を見つめる。


「黒くて、綺麗で、一生懸命生きてる姿。……儚くって、一緒にいたいって思っちゃった」

「……少し、自分勝手」

「ご、ごめんね。気持ち悪いよね、女の子同士でこんな気持ちになっちゃうなんて、変……だよね」


 手を離し、身を引こうとするシロ。

 そんな彼女の手を、私も掴んだ。

 手を離したらずっと後悔することになりそうだったから。


「変じゃ、ないよ」

「え……?」

「だって、私の手を取ってくれたのはシロの意志だから。正義を押し付けるようにぶつける人より、ずっとあったかい」


 今度は私がまっすぐ伝える番だ。

 そう思い、彼女の手をぎゅっと掴む。


「私は正義の味方が大嫌い。自分の正義を押し付けてくる存在が怖い」

「で、でも、私も正義の味方だよ……?」

「ううん、シロは正義の味方以上に私の味方だって思えた。だから、信じてる。信じられる」


 ただ、まっすぐ、私の感情を伝える。

 この感情はきっと、私自身の感情。

 役割に関係ない、私だけの気持ち。


「だから、抱きしめて。私が生きていてもいいって信じたいから」

「うん、うん……!」


 シロが私の身体をぎゅっと抱きしめる。

 彼女の細い手が優しく包み込む感覚。

 優しく、あったかい、魔法少女の掌。

 私もそっと彼女の身体を包み込む。

 静かな幸せを感じて、気持ちも安らいでいく。


「生きてていいんだよ。わたしもネロも。どんな気持ちだって、大切だから」

「シロ。少しずつ、寄り添おう。……私、もっと頑張ってみるから」

「なら、わたしも一緒に支えるね。ネロ。もっと素敵な世界を見れるように」

「うん……!」


 きっとこれからも私の正義の味方嫌いは治らないだろう。

 悪役と正義の味方が一緒に過ごすとなると、罵倒だって増えるかもしれない。

 それでも、構わない。

 私を支えてくれる存在が、友達ができた。

 好きって私のことを言ってくれた。

 だから、信じたいと思った。

 この世界のことを。そして、私に生きていていいっていってくれたシロのことを。



 これから先の未来のことなんてまだ、わからない。

 だけれども、少しでも明るい気持ちになりたい。

 私のことを見つめるシロの眼はどこまでもまっすぐだった。

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