最終話:薬妃、最後の謎と、皇帝の微笑
春の雨が降り始めた朝。
清蘭は、後宮の一角──皇帝の私室「承華殿」へと呼び出された。
「ようやく、来たか」
帳の奥から聞こえた声は、皇帝のものだった。
玉座には座らず、窓辺に立ち、静かに雨を眺めていた。
「陛下」
清蘭が膝を折ると、皇帝は手を挙げて制した。
「儀は要らぬ。お前はもう、私の“目”となったのだから」
その言葉に、清蘭の眉が動く。
「──“目”、とは?」
皇帝は、ゆっくりと椅子に腰かけると、言った。
「この後宮は、愛憎と陰謀の巣窟だ。
どれだけ法を整え、位を与えても、人の欲は止まらぬ。
だからこそ私は、お前のように“毒”と“真実”を見極められる者を探していた」
「……すべて、御計画の上だったのですか?」
清蘭の声には、わずかに苦味がにじんでいた。
「薬妃として迎えたのも、“策略”のうち──ということになりますか?」
皇帝は微笑した。
「そうだ。だがな、私はあくまで“後宮を守るため”に動いている。
妃たちの命を弄ぶ者がいるなら、それを排除せねば、国が乱れる。
お前は、この十話分に値する混乱を、静かに、確かに正してくれた」
清蘭は立ち上がり、まっすぐ皇帝を見つめた。
「ならば、ぶしつけ降り始めた朝。
清蘭は、後宮の一角──皇帝の私室「承華殿」へと呼び出された。
「ようやく、来たか」
帳の奥から聞こえた声は、皇帝のものだった。
玉座には座らず、窓辺に立ち、静かに雨を眺めていた。
「陛下」
清蘭が膝を折ると、皇帝は手を挙げて制した。
「儀は要らぬ。お前はもう、私の“目”となったのだから」
その言葉に、清蘭の眉が動く。
「──“目”、とは?」
皇帝は、ゆっくりと椅子に腰かけると、言った。
「この後宮は、愛憎と陰謀の巣窟だ。
どれだけ法を整え、位を与えても、人の欲は止まらぬ。
だからこそ私は、お前のように“毒”と“真実”を見極められる者を探していた」
「……すべて、御計画の上だったのですか?」
清蘭の声には、わずかに苦味がにじんでいた。
「薬妃として迎えたのも、“策略”のうち──ということになりますか?」
皇帝は微笑した。
「そうだ。だがな、私はあくまで“後宮を守るため”に動いている。
妃たちの命を弄ぶ者がいるなら、それを排除せねば、国が乱れる。
お前は、この十話分に値する混乱を、静かに、確かに正してくれた」
清蘭は立ち上がり、まっすぐ皇帝を見つめた。
「ならば、不躾ながらお訊きします。
私を“目”として使ったのは、後宮の秩序のため──それだけですか?」
皇帝の微笑が、少しだけ和らいだ。
「……否。お前のまなざしに、“人の命を見捨てぬ強さ”を見た。
それが羨ましくもあり、危うくもあると思った。
だからこそ、見ていたかったのだ。“毒”を通して、お前が何を守るかを」
静かな沈黙が落ちる。
雨が、屋根を打つ音がやけに遠く感じられた。
やがて皇帝は、懐からひとつの“玉牌”を取り出し、清蘭へと差し出した。
「これは“御医妃”の証。薬妃からさらに進み、帝直属の医妃となる印だ。
お前が受け取るのなら、この後宮はお前と共に生きることになる」
清蘭は、少しだけ迷い──やがて、ゆっくりと頭を下げた。
「ならば、私は“毒も薬も、真実のために”用いる者として、この道を選びます」
皇帝は、満足げに目を細めた。
「よい。その誓い、しかと聞いた。
後宮の未来は、もはや男の目では守れぬ。お前の“確かな視”こそが、真の力だ」
その夜、春雨は静かに止み、
月が昇ると、後宮には新たな空気が流れ始めていた。




