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金針の寵妃─後宮薬苑事件録  作者: 夜宵 シオン
11/12

最終話:薬妃、最後の謎と、皇帝の微笑

春の雨が降り始めた朝。

 清蘭は、後宮の一角──皇帝の私室「承華殿」へと呼び出された。


 「ようやく、来たか」


 帳の奥から聞こえた声は、皇帝のものだった。

 玉座には座らず、窓辺に立ち、静かに雨を眺めていた。


 「陛下」


 清蘭が膝を折ると、皇帝は手を挙げて制した。


 「儀は要らぬ。お前はもう、私の“目”となったのだから」


 その言葉に、清蘭の眉が動く。


 「──“目”、とは?」


 皇帝は、ゆっくりと椅子に腰かけると、言った。


 「この後宮は、愛憎と陰謀の巣窟だ。

 どれだけ法を整え、位を与えても、人の欲は止まらぬ。

 だからこそ私は、お前のように“毒”と“真実”を見極められる者を探していた」


 「……すべて、御計画の上だったのですか?」


 清蘭の声には、わずかに苦味がにじんでいた。


 「薬妃として迎えたのも、“策略”のうち──ということになりますか?」


 皇帝は微笑した。


 「そうだ。だがな、私はあくまで“後宮を守るため”に動いている。

 妃たちの命を弄ぶ者がいるなら、それを排除せねば、国が乱れる。

 お前は、この十話分に値する混乱を、静かに、確かに正してくれた」


 清蘭は立ち上がり、まっすぐ皇帝を見つめた。


 「ならば、ぶしつけ降り始めた朝。

 清蘭は、後宮の一角──皇帝の私室「承華殿」へと呼び出された。


 「ようやく、来たか」


 帳の奥から聞こえた声は、皇帝のものだった。

 玉座には座らず、窓辺に立ち、静かに雨を眺めていた。


 「陛下」


 清蘭が膝を折ると、皇帝は手を挙げて制した。


 「儀は要らぬ。お前はもう、私の“目”となったのだから」


 その言葉に、清蘭の眉が動く。


 「──“目”、とは?」


 皇帝は、ゆっくりと椅子に腰かけると、言った。


 「この後宮は、愛憎と陰謀の巣窟だ。

 どれだけ法を整え、位を与えても、人の欲は止まらぬ。

 だからこそ私は、お前のように“毒”と“真実”を見極められる者を探していた」


 「……すべて、御計画の上だったのですか?」


 清蘭の声には、わずかに苦味がにじんでいた。


 「薬妃として迎えたのも、“策略”のうち──ということになりますか?」


 皇帝は微笑した。


 「そうだ。だがな、私はあくまで“後宮を守るため”に動いている。

 妃たちの命を弄ぶ者がいるなら、それを排除せねば、国が乱れる。

 お前は、この十話分に値する混乱を、静かに、確かに正してくれた」


 清蘭は立ち上がり、まっすぐ皇帝を見つめた。


 「ならば、不躾ながらお訊きします。

 私を“目”として使ったのは、後宮の秩序のため──それだけですか?」


 皇帝の微笑が、少しだけ和らいだ。


 「……否。お前のまなざしに、“人の命を見捨てぬ強さ”を見た。

 それが羨ましくもあり、危うくもあると思った。

 だからこそ、見ていたかったのだ。“毒”を通して、お前が何を守るかを」


 静かな沈黙が落ちる。


 雨が、屋根を打つ音がやけに遠く感じられた。


 やがて皇帝は、懐からひとつの“玉牌”を取り出し、清蘭へと差し出した。


 「これは“御医妃”の証。薬妃からさらに進み、帝直属の医妃となる印だ。

 お前が受け取るのなら、この後宮はお前と共に生きることになる」


 清蘭は、少しだけ迷い──やがて、ゆっくりと頭を下げた。


 「ならば、私は“毒も薬も、真実のために”用いる者として、この道を選びます」


 皇帝は、満足げに目を細めた。


 「よい。その誓い、しかと聞いた。

 後宮の未来は、もはや男の目では守れぬ。お前の“確かな視”こそが、真の力だ」


 その夜、春雨は静かに止み、

 月が昇ると、後宮には新たな空気が流れ始めていた。

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