第28話 俺が司令官!?
【カイ視点】
『ヴァルディス歴311年 6月5日 夜 旧バルドロ邸会議室』
「どうしてこうなった……」
俺は頭を抱えていた。
場所は、いつもの会議室。テーブルを囲んでいるのは、リク、俺、ディノ、エリック、マリル、サラ、ユナの『始まりの七人』。そして書記役のリュシア殿下と、護衛のノアだ。
窓の外には、ゴルバが持ち込んだ鉄の山――百の武器が積まれている。
議題はもちろん、あの武器を受け取るか否か。そして、誰がそれを指揮するかだ。
「……というわけで、みんな。ゴルバさんの提案を受け入れようと思う」
リクが真剣な表情で切り出した。
「ルギンさんが襲われたことで、はっきりした。僕たちが作った炭や麦は、素晴らしい価値がある。でも、それを守る力がなければ、ただ奪われるだけだ。僕たちは……戦わなきゃいけない」
誰も反対しなかった。
村のみんなも、心のどこかで分かっていたはずだ。いつまでも「逃げてきた子供たち」のままじゃいられないってことを。
「賛成だ。炭焼き小屋を増やすにしても、安全が確保されなければ意味がない」
エリックが淡々と言い、マリルも腕を組んで頷く。
「そうね。せっかくいい服や家を手に入れても、野盗に汚されるのは御免だわ」
「ぼ、僕も……頑張るよ。槍の練習、する」
ディノが震えながらも拳を握る。
方針は決まった。やるしかない。借金してでも武器を取り、村を武装化する。ここまではいい。問題は次だ。
「それで……この百人の兵を束ねる『司令官』を決めなきゃいけないんだけど」
リクが言いながら、チラリと俺を見た。
いや、リクだけじゃない。エリックも、マリルも、サラも。全員の視線が、磁石に吸い寄せられる砂鉄みてぇに、俺一点に集中しやがった。
「……おい。なんだよ、その目は」
嫌な予感が背筋を駆け上がる。
「カイ。君しかいないよ」
リクが、さも当然のように言いきりやがった。
「はあ!? ふざけんな! 俺はただの暴れん坊だぞ!? 指揮なんてガラじゃねえよ! エリックがいるだろ、エリックが!」
俺は慌てて隣のエリックを指差す。あいつは頭も切れるし、冷静だ。適任だろうが。
だが、エリックは涼しい顔で首を横に振った。
「俺は炭焼きと開墾の指揮、それに道具の開発で手一杯だ。これ以上は体が持たない」
「ぐっ……! じゃ、じゃあマリル!」
「あらいやだ。か弱い乙女に、むさ苦しい男共の指揮をさせる気?」
「どこがか弱いんだよ! ……ディノは……無理だな、うん」
ディノは俺と目が合った瞬間、ブンブンと首を振って椅子の影に隠れようとした。
「カイ、お願いだ」
リクが俺の手をガシッと掴む。その目は本気だった。
「村のみんなが一番頼りにしてるのはカイなんだ。力持ちで、度胸があって、いざという時、誰よりも先に前に出てくれる。……僕が政治をやるなら、軍事はカイに任せたい」
「リク……お前なぁ……」
そんなふうに言われて、断れるわけがねぇだろ。
俺はガシガシと頭をかきむしり、大きくため息をついた。
「……あー、くそっ! わかったよ! やりゃあいいんだろ、やりゃあ! その代わり、俺が先頭走ってて後ろ見たら誰もいねぇ、なんてのはナシだからな!」
「ありがとう、カイ!」
リクがぱあっと笑顔になる。ったく、調子のいい奴だ。
こうして、俺、カイは、なし崩し的にアルベリア村の初代防衛隊長――司令官に任命されてしまった。いったい俺が何をしたっていうんだよ!
やれやれと肩を落としていると、それまで黙って聞いていたリュシア殿下が、ふと口を開いた。
「……カイ様が指揮を執ることに異論はありません。ですが、戦術の知識や、集団戦闘のノウハウは、素質だけで補えるものではありませんわ」
「うっ……それは、まあ」
痛いところを突かれた。俺にあるのは喧嘩の延長みてぇな度胸だけだ。百人の部隊を動かすなんて、やったこともねぇ。
「それに……少し気になりますの」
リュシア殿下の声が、少しだけ低くなる。
「あの武器商人のゴルバという男……。どこかで見覚えがあるような気がします。立ち振る舞い、歩き方……ただの商人にしては、隙がなさすぎますわ」
「えっ? どういうこと?」
リクが首をかしげる。
「わかりません。ですが、彼が『指導してやる』と言った以上、生半可な訓練ではないでしょう。彼と対等に渡り合い、カイ様を補佐できる人間が必要です」
リュシア殿下はそう言うと、背後に控えていた騎士ノアを振り返った。
「ノア。貴方がカイ様の副官につきなさい。戦いのイロハを、彼と村の人々に叩き込むのです」
「はっ。殿下の仰せのままに」
ノアが一礼し、俺の方へ向き直った。元近衛騎士の鋭い目が、俺を真っ直ぐに見据える。
「カイ殿。微力ながら、私の剣と知識、貴公に捧げよう。共にこの村を守ろうではないか」
「お、おう……! 頼もしいな、あんたがいれば百人力だ!」
正直、助かった。本物の騎士がサポートしてくれるなら、俺が全部背負い込まなくて済む。
リュシア殿下の勘ってやつは気になるが、ゴルバが何者だろうと、今は利用できるものは何でも利用するしかねぇ。
会議を終え、俺たちは広場へと出た。
すっかり日も暮れ、かがり火が焚かれている中、ゴルバとルギンが待っていた。
「よう、話はまとまったかい? リク男爵」
ゴルバがニヤリと笑う。リクは一歩前へ出ると、俺の横顔を一度見て、それから力強く頷いた。
「はい。僕たちは決めました。その武器、すべてお借りします!」
「いい返事だ。……で、誰がこいつらを扱う頭になるんだ?」
ゴルバの視線が、俺たちをなめるように動く。
俺は腹をくくり、一歩前へ出た。
「俺だ。文句あるかよ」
俺が睨み返すと、ゴルバはほう、と楽しげに目を細めた。
「カイか。悪くねぇ。いい面構えになったじゃねえか」
ゴルバは足元の木箱から、一本の剣を取り出した。鞘はなく、抜き身の刃がかがり火の光を反射して赤く輝く。
それを放り投げてきやがった。
俺はとっさに空中でその柄を掴み取る。
ズシリと重い。
これが鉄の重さ。命を奪い、命を守る道具の重さだ。
「重いか?」
「……ああ。だが、持てねぇ重さじゃねぇ」
俺が答えると、ゴルバは満足げに頷いた。
「契約成立だ。明日から扱き使ってやるから、覚悟しとけよ、司令官殿」
俺は剣を握りしめ、夜空を見上げた。
雨雲は去り、満点の星空が広がっている。
静かな夜だ。だが、俺たちの戦いは、ここから始まるんだ。
俺の背後には、ノアが静かに控えていた。
やるしかねぇ。俺たちが、このアルベリアを守る『牙』になるんだ。
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