第22話 300銀貨(ソル)の衝撃
【商人ルギン26歳視点】
『ヴァルディス歴311年、5月15日、夕刻、晴れ』
夕刻になって、アルベリア村のカブ祭りは終わった。
ふう、しかし、この村は春から祭りとは贅沢をする村だぜ……。
「どうです? ルギンさんにゴルバさん。良かったら館で残りのカブを食べていきませんか?」
リク男爵が、慣れない様子でお辞儀をして誘ってくる。きっと貴族のお辞儀に慣れていないのだろう。
・背筋を伸ばし、手は胸の前か腰に添える。
・上半身を15~30度前傾させる。
・同時に相手の目を軽く見て、目線を一瞬下げる。
・「感謝」と「余裕」の間合いを保つのが上流流儀。
とまあ、俺も知識でしか知らないが、リク男爵はぎこちないながらも、これらの所作を行っている。
俺は平民なので、上半身を45度ほど前傾させた。
「……お受けいたします」
チラッと横を見ると、ゴルバのヤツのほうがうまくお辞儀をしていた。まあ、コイツは武器販売免許を持っているくらいだから、貴族と付き合いがあるのだろう。
俺とゴルバは、館の会議室兼食堂のような部屋に案内された。
部屋には、リク男爵以外に六人の少年少女が座っていた。
それぞれが、カイ、ディノ、マリル、サラ、ユナ、エリクと名乗る。この少年少女たちは、どうやら村の若き幹部連のようだ。おそらく、村の有力者でリク男爵の側近なのだろう。
俺は末席につくと、祭りの感想を述べることにしようと思案をめぐらせた。
(なにせ、これだけの祭りだ。費用が相当かかったはずだ。褒めたたえるネタとしてはいいかな?)
「リク男爵とみなさま。これだけの祭りをされるとは、正直、アルベリアの力を甘く見ておりました。おそらく300銀貨はかかるでしょう!」
「えっ、ええええ! 祭りに300ソルって、銀貨300枚のこと? そんなにすごいことを僕たちしちゃったの? お金なんかかかってないよ!」
リク男爵が目を見開き、心底驚いているように見える。
(あちゃ~、これは自分たちのしでかした事が分かってないな……少し教えてやるか)
「失礼ながら、リク男爵は数字のほうは分かりますか?」
「ええ、いま勉強しているところですが多少なら……」
ほかの6人も、うんうんと頷いている。どうやら、話すのはリク男爵に任せているらしい。
俺は祭りにかかった経費である300銀貨について内訳を説明することにした。
まあ、おおざっぱな費用として、一般的にはこれぐらいかかると説明する。
■銀貨300ソルの使い道イメージ(春の祭り予算)
・食材調達 カブ、肉、麦、酒、スパイスなど 120ソル
・職人依頼 調理人、大道芸人、音楽隊、踊り子など 80ソル
・催事設備 屋台・椅子・テント・たいまつ・飾り付け 40ソル
・警備・雑費 村人への臨時報酬や道具補修費など 30ソル
・予備費・贈答 訪問者対応、来賓(女騎士)用のおもてなし 30ソル
「祭りの費用は、合計すると300銀貨になるってわけです。今回は大道芸人もいなかったし、調味料も塩以外は村の産品らしい。酒もあまり出てなかったですね。飾りつけも質素、あの女騎士のおもてなしも自然な感じでした。実際にはもっと安いでしょう。でも本格的にやれば、300銀貨くらい必要です」
「これは……確かに大盤振る舞いだな」
俺の横でゴルバがウンウンとうなっていた。
「つまり、300銀貨あれば、いつでも祭りができるってことだね!」
「まあ、そういう言い方もできますね」
リク男爵が明るい声を出し、俺は苦笑を隠しながら無難な返事をしておく。
以前に俺が取引した猫耳少女が、ワゴンで食事を運んできた。
運ばれてきたのはカブのスープであったが、溶き卵が入っており、なかなか美味しそうだ。これはこの前売ったニワトリが生んだ卵だろうか?
「リク男爵、炭の価格なども、食べながら説明してよろしいでしょうか?」
「う……うん、よろしく頼むよ」
300銀貨の衝撃は、この少年少女7人には大きかったらしい。まあでも、この村はそれだけのことをやったのだ。俺は素直に褒めたいと思う。
卵入りのカブスープの香りが、会議室兼食堂にやさしく広がる。
赤く染まる夕陽が窓辺に差し込み、この小さな村の春を、静かに讃えていた。
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