第21話 炭の価値
【女騎士セレス=ノワール20歳視点】
『ヴァルディス歴311年、5月15日、昼、曇り』
私の仕事はランドベルド辺境伯領の周囲を走り回り、情報を集めることであった。
(そういえば、武器商人のゴールドバーグのやつが、アルベリア村へ行くと言っていたな。ふむ、面白そうだ)
アルベリアのリク男爵はうまく村を統治しているだろうか?
そういったことを、表の面から視察するのが私の仕事だった。
私は金属の胸当てをつけ、剣だけを帯びた格好だ。馬をアルベリア村へ進めると、祭りでもやっているような声が聞こえる。
(春祭りでもやっているのだろうか? バルドロのころにはなかったな。祭りができるのは良いことだ)
祭りができること、それは領内の豊かさの指標と言える。浪費となれば話は別であったが、浪費の何が悪いのかと言われると、なかなか言い返せない。そもそも金がなければ浪費はできない。
(まあ、自分で稼いだ金でパーッとやるのは、悪いことではない。ふふっ、これだから私はカネがたまらないのだろうな)
「ハッ!」
アルベリア村の楽しそうな声にひかれ、馬の腹を蹴って駆けさせた。
村へつくと、カブがいたるところで料理されていた。
(なんだ? カブで祭りをしているのか? 聞いたことが無い祭りだな。確かに春はカブがとれるが……)
村の中央へいくと、リク男爵と商人二人が商談らしきものをしている。
「う~ん、僕じゃちょっと、炭の価値とわからないよぉ~」
「じゃ鍬とか斧とかノコギリとかいりませんか? 鉄製のいいの仕入れてきますよ!」
「あっ、それはちょっと欲しいかも!」
私はリク男爵へ向かって馬を歩かせた。
「リク男爵! 久しぶりだな。私だ、セレスだ! 様子を見に来た」
「あっ、セレスさん、お久しぶりです! セレスさんもカブ食べます?」
(なるほど、本当にカブの祭りのようだな。悪くない)
「ほう、せっかくだ。いただこう」
「お~い、ミレイちゃん! こちらの女騎士さんにカブスープをお持ちして~」
「は~い!」
猫耳少女がカブのスープを持ってくる。
私は馬から降りた。
スープは湯気をあげていて、暖かそうだ。
椀とスプーンを受けとり、一口いただく。
「ふむ、これはなかなか。ところでリク男爵、なんの商談をしていたのだ? これだけカブがあるのだ。安く買いたたかれるぞ?」
「それが欲しいのは、どうやら炭のようでして……」
「なにっ! 炭だと?」
(たしか、ランドベルト辺境伯の近くで戦があった際に、敵を火計で焼き討ちして大勝利した。しかし森が燃えてしまい、木材が高騰していたはず……)
「リク男爵、それなら辺境伯家でも炭を買うぞ! おい、そこの商人! 手間賃を払うゆえ、炭を運んでほしい!」
「は、はい、それは構いませんが……とほほ、今回の儲けが……」
(悪いな商人……炭で大儲けできたであろうが、こちらも仕事だ)
「それならよ、リク男爵様。ルギンと俺の分の炭は、俺の馬車で運ぶってのはどうだ?」
「それは構いませんけど、ゴルバさんは武器商人なのでは?」
「なに、儲かりゃいいのよ! それに、取引を増やして、男爵様が儲かったら、ちゃんと武器を買ってもらうぜ!」
「ははっ、ゴルバさんはしっかりしているなぁ……」
その日は、私も騎士という身分を忘れて、まるで村娘のように踊り、歌い、カブを食べた。気が付くと夕暮れが近い。
「すまない、男爵。世話になった。私は、このことを一刻も早くランドベルト辺境伯に伝えねばならんのだ」
「えっ、今日は遅いですから、泊まっていかれては?」
「ふふっ、ありがたいが、これも仕事なんでな。ではまたな!」
私は馬に飛び乗る。
ランドベルドの燃料問題は、これで解決できるはずだ。きっとアルベリア村にも良い結果となるだろう。
ちょっと食べすぎたのか、馬上で軽くゲップをする。
その息がカブの香りだったため、私は苦笑してしまう。
夕方には雲は晴れ、きれいな夕焼けが広がっていた。
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