2016.03 某日 合わせ鏡
【未来の話:合わせ鏡】
[2016年3月某日]
「おっ、辰真さん、見てこれ」
「あ?」
外は雨なので行く所も無く目的も無いままにぶらついていたショッピングモール内で、唐突に立ち止まった連れに愛想のカケラもない返事を返す。
「こういうの、なんかすげえ久しぶりに見た。合わせ鏡になってんのここ」
「ホラ、いっぱい俺がいる!」と無邪気に笑うそいつのカバンの紐を乱暴に掴んだ。
「そんなもん見るな」
「え、ああいうのもダメな感じ?」
悪気など一切無さそうな様子にため息で返す。
「お前は、そろそろ危ない事に自ら首を突っ込むようなマネをやめろ。それとも構って欲しくてやってんのか?一刻も早く卒業しないとまじでダサいぞ、そういうのは」
「危ない事ってそんな大袈裟な」
興味を持つことが一番危ないのだと何度も言っているのに聞いてくれそうもない。
「…心配なんだよ」
素直に聞いて欲しければ素直に伝えるべきだな…と思いそう言葉にすると、突然早歩きでエレベーターへと向かったかと思えば下行きの呼び出しボタンを押した。
「な、なんだ?わざわざエレベーターなんか…」
やってきたエレベーターに乗り込み、扉が閉じるなりぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
「ちょっ…お、おい!」
「あんま可愛いこと言われたら、我慢できなくなるから、カンベンして」
「……おま、恥ずかしいやつ…」
と言いつつ、内心では悪い気もしない。
しかしその背に腕を回しかけた俺はエレベーターの壁に貼り付けられた鏡に映り込んだ予期せぬ"同乗者"の姿に情けない悲鳴を上げるのだった。
【合わせ鏡 完】