2017.07.22(Sat) 神隠し
【社会人編 04 神隠し】
[2017年7月22日(土)]
――央弥と連絡がつかない。
辰真は落ち着かない様子で何度もスマホで時間を確認しては、家を出るかここで待つか考えている。
「面接の後に向かうから、夕方5時頃に家に行く」と連絡があったのは今日の午前中の事だ。
辰真は6時まで仕事だから合鍵で入っておくように返事をして、面接終わりの央弥を労おうとコンビニで甘いものを買ってから帰宅したのだが、部屋の電気は消えたままだった。
不審に思ってすぐ電話を鳴らしたが出ない。別に約束というレベルの話ではないが、自ら宣言した時間を過ぎる場合は一言連絡を入れてくるタイプの央弥が、この時間になっても現れず、連絡も繋がらないのはおかしい。
――探しに行くか?でもどこへ?それに、部屋を出たら入れ違いになるかもしれない。
そんな葛藤で辰真は落ち着いて座ることも出かけることも出来ず、部屋の中をウロウロと歩き回った。メッセージを送っても当然既読にはならない。どこで何をしているのか検討もつかないし、共通の知り合いはひとりもいない。
辰真には央弥を待つ以外に出来る事が無かった。交通事故の可能性だってある。しかし、緊急時に病院や警察から連絡が来る立場では無いのだ。それが歯痒かった。
「……どこで何してんだ、央弥」
危ない事はするなよ……いつもいつも言ってる事だ。何にも巻き込まれないでいてくれ。ただただそう願う。
そんな地獄のような時間がどれくらい過ぎたのか、これ以上待てないと思った辰真は連絡しろという簡単な書き置きを机に残し、財布とスマホだけをポケットに捩じ込むと行くアテもなく玄関へ向かった。
だがドアノブを捻った瞬間、その妙な軽さに肩透かしを喰らう。向こうから同時にドアノブを回されたような感覚だ。
「え」
「わっ」
勢いよく開いた扉の向こうには央弥がいて、前のめりになった辰真を抱き止める形になった。
「辰真さん?俺より遅くなるんじゃ」
「おまっ……」
キョトンとした様子の央弥に思わずカッとなり、マンションの廊下だと言うのに辰真は大きな声を出した。
「心配するだろ!遅くなるなら連絡の一本くらい入れろよ!」
「な、なになに」
辰真の激昂とは反対に央弥は何が何やらといった態度だ。その反応に勢いを削がれた辰真は自分が時間を読み間違えたのか?と思えてきてスマホを取り出した。とりあえず入ろうよ、と央弥はその肩を抱くようにして一緒に部屋に入る。
「……5時くらいに来るって連絡してきたじゃねえか」
「え、うん」
そんな遅れた?と靴を脱ぎつつ言いながら央弥は自身のスマホを取り出した。そして待ち受けの時計で時間を見て目を見開く。
「え!!10時!?」
「そうだよ」
嘘ぉ!と叫びながら扉を開けて外を見るともう辺りはすっかり真っ暗だ。央弥は振り返ってまずは素直に謝る。しかしその顔は納得いかない様子だった。
それもそう、央弥は確かに時間通りにここへやってきた。部屋の前でまだ夕暮れの空を見ながら、辰真が帰ってくるまでに炊飯器をセットして、さっとカレーでも作って……なんて考えていたのだ。
なのにドアノブを捻った瞬間、部屋から辰真が飛び出してきたかと思えば、遅いと怒鳴られて、確かに辺りは真っ暗になっていて……。
「俺、タイムトラベルしちゃったのかな」
「……」
冗談を言っている様子はない。辰真はそっと央弥の腕に触れて、確かにそこにいることを確かめた。央弥も同じように辰真の頬に触れる。
「またどっかで危ない事に首でもつっこんだのかと」
「この5時間、神隠しにでもあってたんだとしたら、まさに危ない事に巻き込まれてたのかもね」
俺、消え去るとこだった?と笑う央弥に辰真は不機嫌な顔をする。
「冗談でもやめろ」
「ごめんってば」
央弥はそう言いながらチラリと振り返った。
さっき開いた扉の向こうには真っ黒で首のない大きな鳥のような、人間のような……変な姿をしたモノがいた。今まで見てきたどんな霊とも違う、圧倒的な威圧感と禍々しさだった。
――あれって、カミサマかな。
央弥はそう思ったが、辰真が少しも気付いていない様子だったので「心配かけてごめんね」と優しく微笑んで一緒にリビングへ向かうので合った。
【神隠し 完】




