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2018.02 某日 明晰夢

【小話:明晰夢】


 [2018年2月某日]




 ――ああ、これは夢だ。


 夢を見ている時にそう気付く時がある。

 それは"明晰夢(めいせきむ)"と呼ばれるもので、辰真は昔からよく体験した。

 夢が夢だと気付くのは何が起きても怖がる必要がないと分かるメリットであり、あまり眠った気にならないというデメリットでもある。


 辰真はいま、かつて通っていた中学校の校庭でふと気がつき、すぐにコレが夢だと理解した。誰もいない学校というのは、それだけで不気味さがある。

 辺りは明るく昼間のようだが、校庭の端から見える外の道路には車の一台さえ走っていない。生き物の気配がしない嫌な静寂の中で、辰真は見たくないものを見ないように目を閉じた。

 このまま、何も起こらないまま、目を覚ましたい。しかし夢の中というのは思い通りにいかないもので、足は勝手に校舎へと歩き始めてしまう。

「……」

 怖いという感情が少しだけあったが、抗っても仕方がない。そしてやがて辰真は土の校庭からコンクリートの廊下にたどり着き、校舎へ入った。


 コツコツと自分の足音だけが辺りに鳴り響く。

 ――俺はどこへ向かっているのだろうか。

 静かな校舎の中を少し懐かしい気持ちで歩き続ける。何かが見えるのではないかと怯える気持ちもあるが、所詮全ては夢だ。教室の扉は全て閉まっていて中は見えないし、辰真の足は止まる事なく階段へ向かう。

 やがて通常では立ち寄ることのない屋上への扉までたどり着き、ごく自然にその扉を押し開けた。特別授業の一環で一度だけ入ったことのある学校の屋上は記憶の通り薄汚れていて、貯水タンクと排気ダクトだけがある殺風景な場所だ。



「う、わっ…!!」

 誘われるようにその端から身を乗り出した瞬間、物凄い力で背後から引き戻されて硬い床に尻餅をついた。



 ーーー



「うわっ、ビックリした」

 瞬間的に目を覚ましてガバッと体を起こした辰真に、毛布をかけようとしていた央弥は思わず驚いて一歩下がった。

「ごめん起こしちゃった?」

「いや……いや。夢、を…見て…」

 まだ寝ぼけて頭が混乱している辰真はしばらく夢と現実が分からなかったが、だんだん意識がハッキリとしてきた。

「怖い夢?」

「怖くは無かったけど、怒られたよ」

「怒られた?」

「はは、お前に」

 そう言って辰真は央弥におかしそうに笑いかけて、珍しく自らその手を取った。

「危ないことするなってさ」

「それ、オレがいっつも辰真さんに言われてるコトじゃん」

「そうだな」

 握ったり動かしたり、自身の指で遊ぶ辰真の姿に笑いかけて央弥は空いている手でその髪を撫でる。

「ねえ辰真さん…危ないこと、しないでね」

「お前にだけは言われたくないな」

 辰真は笑って返した。



【明晰夢 完】

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