2017.06.19(Mon) 就活 2/2
【社会人編 02 就活】
[同日]
「お疲れ様です」
「ん?ああ…お疲れ様でした」
「お疲れ様です!」
同じグループだった数名に挨拶されて、央弥はそのノリに少し引きつつ返事をする。
「集団面接は何度か経験したんですけど、緊張しました」
「ぼくも緊張しました!みなさん凄くハキハキしてるんですもん」
「そちらこそ。絶対受かってるでしょう」
そんな会話を「くだらね」と思いながらなんとなく聞き流し駅へ向かう方向へ歩こうと地図アプリで方角を確認していた。質疑応答はそこそこの手応えだったと思うが、隣の男が気になりすぎてあまり自信がない。
「良ければ、この後このメンバーで交流会なんていかがでしょう?同じ会社では無かったとしても、今後、働く上で関わる相手かもしれませんし」
なんとも意識の高そうな会だ。就活中は時折このような誘いを受ける事があった。しかし央弥は人当たりが良さそうに見えて、あまりこういう集まりには気乗りしないタイプだ。
一度だけ参加してみたが、まだ社会に出ていない大学生たちの背伸びした自意識を煮詰めたような会話に辟易して気疲れしただけだった。
既に複数の内定を手にしている就活生は余裕の表情で面接に勝ち抜く方法を語ったり、選考されているのは自分たちだけではなく、こちらも会社を選んでいるのだとふんぞり返ったり。
反対に難航している者は焦りや不安で愚痴や悪口ばかり。どうせコネだ、だの、圧迫面接が…だの…。
その上、央弥はこんな時にまで不必要にモテた。それがまた不快でたまらなかった。
「あなたは行かないんですか?」
「え、あー……俺は苦手で、そういうの」
声をかけられて振り返ると、先程の"独り言男"だった。
「その方が良いですよ、こんな会社を受けにくるような連中と交流したって何の価値もない」
そこそこ大きな声でそんな事を言うものだから、さすがの央弥も気まずさを感じて苦笑で返す。
「ぼく視えるんですよ、その、幽霊的なやつ」
「はい?」
「ずっといるんです、この会社」
その言葉に央弥もキョロキョロと辺りを見回したが、どうも変な様子は感じない。
「そういう会社、多いんです。就職活動を始めてしばらくしたら気付いたんですけどね、ロクでもない会社には大体いるんですよ」
ほらそこに、と指差す角には何もない。央弥は気のせいですよ、と返したが「君には視えないだけだ」と見下される。
それより央弥はその男の背後にずっと居るぼんやりとした男の影の方が気になっていた。央弥がじっと見つめると威嚇するように膨れ上がる。
「そういう会社は大抵、面接落ちしちゃうんですけど、こっちこそ願い下げなんで。ここも受からないでしょうけど、願ったり叶ったりですので。そんな訳でぼくは交流会はお断りさせていただきます」
一方的にまくしたてて、誘われてもいないというのに断りを入れると男は足早に立ち去った。
央弥は「憑かれてんのはアンタだよ」と教えてあげようかと思ったが、近くに立っていた他の就活生の女性に目線で止められる。
「やめといた方が良いですよ、就活ノイローゼで良くないものがついて来たんでしょう。口を出してもあなたが損するだけです」
「アンタも視えてた?」
「視えてるし"聞こえて"ましたよ」
あなた、興味本位であんなものを見つめちゃダメ。下手したら呪われるよ。と続ける。どうやら彼女は央弥より霊感が強いらしい。気分悪そうに肩をすくめて「私もこれで」と場を後にした。
ーーー
妙に疲れを感じた央弥はこのまま自分の部屋に帰るか悩んだが、少し辰真の顔が見たくなって寄り道をした。
一応チャイムを押してから鍵を開ける。部屋に入ると風呂上がりらしい辰真が出迎えてくれた。
「おー、おつかれ…」
「ん、なに?」
「変なもん見たか?今日」
尋ねながら辰真は央弥の肩をパッパッと払う。
「何かついてた?」
「いや……一瞬だけ何か声が聞こえたから」
念のため、と言って再度パンパンと央弥の肩や背を手で払い、顔洗ってサッパリして来いとリビングに戻る。何と言っていたのか聞きたかったが、教えてくれそうに無かった。
「就活生には聞かせたくない呪いの言葉だったよ」
それだけ言って、もう忘れろと頭を撫でられる。
「あの、辰真さん…俺の就活が終わって、いろいろ落ち着いたら…その、一緒に暮らさない?」
「その時のお互いの状況にも寄るだろうが、前向きに検討する」
笑う辰真に少し不安げだった央弥は飛びついた。
【就活 完】




