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2017.08 某日 電車にて

【未来の話:電車にて】


 [2017年8月某日]




 つり革が揺れている。


 辰真は自身の座る席の真横にぶら下がるつり革だけが不自然な動きをしている事に気付いてサッと目を伏せた。

 平日の昼間、閑散とした車内にはポツポツとしか人はおらず、辰真はひとりでボックス席の通路側に、進行方向を向いて座っていた。

 視界の右上に捉えたそのつり革は、まるで誰かが掴んでバランスを取ろうと頼っているかのように、突っ張って電車の揺れに反する動きをしている。


 何かがいるのだろうか、そこに。


 珍しく"ソレ"は見えない。だが絶対に気のせいではない。悪意のようなモノは感じないが、だからといって居心地の良いものではない。

 辰真は見知らぬ誰かが目の前のつり革に捕まって、上半身を折り曲げるように屈ませ、自身の様子を観察している姿を想像してしまっていた。


 ――やめよう、考えすぎだ。


 もうすぐ降りる駅に着いてしまう。

 気味が悪いが、何者かが"いる"のであろうその空間を通って席を立たなければならない。

 辰真は意を決して立ち上がった。なるべく心の平静を保ちつつ、窓の外の様子に意識を向けながらその空間へ足を踏み出す。

 その瞬間、電車が大きく揺れてバランスを崩して、思わず反射的にそのつり革を掴んだ。


「っあ…」


 心臓がヒヤリとした。すぐに手を離して、扉の前まで急ぎ足で移動する。その後は特に何も起きずに済んだが、無事に駅を出るまで生きた心地がしなかった。



「央弥、こっちだ」

 待ち合わせていた相手が現れたので声をかけて呼び寄せる。怖いもの知らずのコイツの顔を見ると幾分か気持ちがホッとした。

「辰真さん、何飲んでんの?」

「ラテ」

「ふーん…俺も何か飲もっかな。それ飲み終わるまでまだ時間かかるよね?」

 鞄を向かいの席に置きながら央弥はチラリと辰真を見て、財布を手に取ってからまた視線を寄越した。

「ところでどしたの、その腕」

「腕?」

「誰かの左手がぶら下がってるけど」



【電車にて 完】

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