2014.04.24(Thu) 大学構内の4つフシギ
【大学生編 02 大学構内の4つフシギ】
[2014年4月24日(木)]
「なあ、アンタ」
呼びかけられてノートパソコンの画面から視線を上げた。
ここは大学構内にある広場の端、まだすこし肌寒くはあるが、日当たりの良いベンチが心地良い季節になってきたのでレポートをこうして外で書いていたのだ。
「…あ」
「あ、じゃねえよ」
見覚えのある立派な体躯の男。暗くてあの時はわからなかったが、美容院で手入れしていそうな計算されたウェーブヘアは大分明るい茶髪だった。
「アンタ、アレがおばけだって知ってて無視しやがったな」
「おばけって…」
それがわかる何かしらの事件があったのだろうが、やつれたりしている様子もなくケロリとしている男に呆れる。
「夜寝ててもうるせーし、何とかしてくれよ」
「何とかって…ま、まさかまだ憑いてるのか!?」
見る限り近くにはいないようだが。急に尻の座りが悪くなってそそくさと逃げ出そうとした。その瞬間、何者かが猛スピードで目の前を走り抜けて思わず仰け反る。
「おっ…と」
しかし妙な感じがして、パッとソレが走り去った方を見やったが、見通しの良い広場には俺たち以外に誰もいない。
「どしたの急に、あ、もしかして七不思議のやつ」
「七不思議?」
「いや正確には四つしかないらしいけど」
・旧部活棟に現れる地下2階に続く階段
・異世界みたいな真っ赤な空が映る屋内駐輪場の窓
・学内どこにでも突然現れて目の前を走り抜けるナニか
「なんだそりゃ…」
「ターボばばあってやつ?ちょい違うか」
「くだらん都市伝説か」
「あとなんだったっけ」
「どうでもいい」
「あ、2時になると誰もいなくなる広場だよ」
「広場?」
「ここの事かな」
誰もいなくなるって、どういう意味だ?俺は奇妙な不安に襲われて、現在時刻を確かめようとスマホを手に取る。もうすぐ2時になろうとしていた。
「…くだらない噂話だろ」
「じゃあさっき何で転けかけたわけ」
「立ちくらんだだけだ」
――早く、別の場所に移動したい。
そんな安っぽい都市伝説のようなものなんか気にしているわけではないが、気持ち悪いのも事実だ。
しかし立ち上がった瞬間、ピンと空気が張り詰める感じがしてギクリとした。パッと横を見るとさっきまで話していた大柄の男がいなくなっている。
あんな大きいやつが隠れられる場所なんかない。ぐらりと足元が揺らぐような気がして思わず目を閉じた。
「なあって」
聞き覚えのある声に呼びかけられて、ガバッと顔を上げると広場は行き交う学生たちで賑やかで、目の前には大きな人影があった。
「あ…れ、俺、寝てたか?」
「よく人と喋ってる最中に寝落ちられるよな。疲れてんならこんなトコでレポートなんか書いてないで帰って寝なよ」
いつから夢だったのだろうか。奇妙な白昼夢だった。
そしてこの男の顔を見てホッとしてしまった事を不覚に感じていた。
「ああ、そうする…」
特に意味もなく、手癖で時計を見るともうすぐ2時だった。このタイミングのデジャヴに俺は思わず慌てて目の前にある物をとにかく掴んでしまう。
「っあ」
「あ?」
それは男のシャツの裾で、まさに意味不明だと言いたげな目に睨まれたが、立ち上がった後にこいつも周囲の人々も消えずに居る事に再三ホッとしてしまった。
「いや、ちょっと立ちくらんだ、悪い」
「なに、怖いから家まで送れって言ってんのかと」
「お前が付いて来る方が怖いから。まだこの前のアレ、憑いてんだろ」
「央弥」
立ち去りかけた俺の背中に男はそう言い放った。
「はあ?」
「お前、じゃなくて、東丸 央弥」
覚えておいてよ。そう言って屈託無く笑う。
友達にでもなったつもりか。いやそれより、今は早くここから逃げ出したい。イライラと呑気な笑顔を睨みつける。
「どうして覚えておく必要があんだ。じゃあな」
「なんでそんな急いでんの?さっき怖い夢でも見た?」
不愉快で、もはや質問さえ無視して歩き出した。しかし東丸は気を悪くもせずに数歩後を付いて来やがる。
「なあなあ、あのベンチに纏わる七不思議って知ってる?あそこで作業とか勉強とかしてるとさ…」
「七でも四でも知らないし、興味ない。付いてくんな」
ピシャリと言い渡して、半分駆け足で立ち去った。
「んっと口わりー、意味わかんね!」
後ろから笑いながら東丸が何か言っているが無視した。
【大学構内の4つフシギ 完】




