2016.06 某日 オンラインゲーム
【未来の話:オンラインゲーム】
[2016年6月某日]
「たーつまさん、さっきからやってるの何それ」
「オンラインゲーム」
「面白いの?」
「そこそこ」
自分から聞いておきながら興味があるのかないのか、ふうん、と気の抜けた反応で返して央弥はソファに沈み込んだ。
普段あまりスマホを触らない辰真がこの頃、永遠に手元ばかり気にして自分に構ってくれないことを少なからず不満に思っていたのだが、どうも最近テレビでもCMが打たれている人気ゲームを辰真もプレイし始めたらしい。
「それ、俺の友達もみーんなやってる」
「なんとなく始めたんだけど、意外とハマって」
央弥はしばらく辰真の画面を覗いていたが、数分で飽きたように冷蔵庫へ向かった。
「なんか食べる?」
「お、そんな時間か。作ろう」
辰真はスマホを机に置いて手伝おうと立ち上がる。央弥から食材を受け取りつつ口を開いた。
「そういえば…大したことじゃないけど」
「うん?」
今プレイしているゲームはいわゆるMMORPGで、同時にマップ上にたくさんのプレイヤーが集まれるものだった。コメントを入力すれば、自らのアバターの頭上に吹き出しが出て他のプレイヤーとコミュニケーションを取ることもできる。
一般的なRPGと基本は同じで、クエストをクリアして素材を集め、より強い武器を手に入れて、より強い敵に挑む。そのクエストを受注するのに、ゲーム内のとある建物に行く必要がある…のだが、そこでいつも決まったプレイヤーに話しかけられると言うのだ。
「ゲーム内のフレンド?」
「いや、それなら別に変な話ではないんだけど」
基本的に一人で遊ぶのが好きな辰真は必要がない限りはソロプレイをしている。
「だから知り合いはいないし…」
そのプレイヤーは建物の入り口に立っているので全てのプレイヤーが前を通ることになるのだが、話しかけてくるのは辰真にだけらしい。
「といっても、こんにちは辰さん。とだけな」
「結構本名に近いプレイヤー名でやってるんだね」
「まずいかな」
「別に大丈夫だとは思うけど、知らない人に呼ばれるとちょっと気味悪いね」
「そうなんだよな」
少し悩んで、辰真は設定画面を開いた。
「まだ始めて日も浅いし、アカウント作り直す」
「確かに。データ消すのが惜しくならないうちにやり直すのがいいかもね」
次は本名とは擦りもしない名前で…。
辰真はその時ふと目に入ったのがテレビのパン特集だったので、『カレーパン』というふざけた名前で新たにプレイを始めた。
ーーー
「…辰真さん、そういや最近あのゲームやってないの?」
「ああ、やめた」
「せっかくアカウントまで変えたのに」
「それなんだけどな」
辰真は複雑そうな顔をして続ける。
「チュートリアルが終わって、いよいよクエストを受けようと思ってあの場所を通りがかったら、呼ばれたんだ」
こんにちは辰さん。
「…って」
【オンラインゲーム 完】




