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2014.12.07(Sun) ドライブ

【大学生編10 ドライブ】


 [2014年12月7日(日)]




 ふと目を覚ますとめちゃくちゃ騒がしい音楽が爆音で鳴ってて思わず「は?うっせ」と声が漏れたが、それすらもかき消されるほどの音量でズンズンと低音がハラに響いて不快になった。

 何してんだっけ、とぼやける頭で思い出す。大学内で仲のいいメンツの一人である直樹が免許を取ったので、急遽ドライブに行こうという話になって…。

「え、ちょ、まじでうるせーって!!」

「央弥が起きたよー」

「お前飲み過ぎな、1時間くらい爆睡」

「音楽うるさいから!止めろって!」

「今は央弥が一番うるさいんですけど」

「なあ心霊スポット行こうぜ」

「酔った頭に響くんだよ!止めろ!」

「この辺りそんなのある?」

 深夜2時だというのに、ほろ酔いの若者たちは各々が好きな事を好きなタイミングで喋るので収集が付かない。

「もう帰ろうぜ…」

「んだよ。なんか最近、央弥ノリ悪くね?」

「彼女でもできたんじゃないの?」

「ありえないっしょ」

「あっ、ほらココどう?この道このままもうちょい行ったら霊園あるって」

「んじゃナビして」

「おいおい、俺の車呪われたらどうしてくれんの?お前らだけ楽しみすぎな!俺は飲めねーのに!」

「直樹が免許取った自慢してくるからドライブに付き合ってあげてんじゃん」

 中身のない会話に央弥はうんざりしてまた目を閉じる。

「あー俺寝るから」

「墓場まで何分?」

「20分くらいだって」



 肩を揺すられて目を覚ますといつの間にか少し丘を登ったような場所の駐車場に来ていた。深夜の街を見下ろして、ドライブに来たという事をようやく実感する。こういうのは悪くない。

「…いいな。免許あったら」

「おーい行くぞ!」

「入り口こっちだって」

 スマホのライトで足元を照らしながらワイワイと歩いて行くと案外、駐車場からすぐに霊園の門が見えてきた。

「閉まってる」

「まあそうだろ」

「どっかから入れないかな」

「さすがに入るのはちょっと怖いんだけど、もうここで十分じゃない?」

 俺は仲間たちのそんな会話を聞き流しながら、ぼんやりと門の向こうに整然と並ぶ墓石を眺めていた。

「…ん」

 その時ふと何かが気になったが、後ろから話しかけられて振り返る。

「なあ央弥!お前アレ届く?」

 門を登るから監視カメラの向きを変えろ、と指を差されるがさすがに俺がジャンプしても届きそうにはない。

「ムリ、あれは高すぎるって」

「ほらね!これで十分ホラースポットに来た感じあるし、もー帰ろ!」

「つまんねー」

 まだギャアギャア騒いでいる友人たちを尻目に、再び門に向き直った。

 ――やっぱり、いるよな。

 すぐそこだ。門の向こう側、手を伸ばせば届く距離にそれはいる。さっきは遠くの墓石に寄り添うように立っていた影が、すぐそこまで来ていた。いつのまに移動したのか。こういうヤツに時間や距離は大した問題ではないのか?

 しかし誰も気が付いていないようだ。

「なあ、誰か"コレ"見える?」

 "ソレ"を指差して、皆に聞いてみた。

「これって何?何ちょっと怖い事言わないでよ!」

「何もねーけど、何かあるか?」

「酔ってんじゃねーの央弥、ちょっと怖いからそういうのいいって」

「怖い思いをしたくて来たんじゃねーのかよ」

 やっぱり見えないのか。葛西さんと関わるようになって、霊感が移った…とかある?そんなにめちゃくちゃ一緒にいるわけでもないけど、確かにこの空間でコレが見えてんのはどうやら俺だけみたいだな。

 少し前までは誰よりも鈍感だったっつーのにな。

「…いや、見間違いだったかな、ごめん」

 振り返るとソレは門の間から手らしきものを伸ばして、俺の腕に絡みついてた。

「……そろそろ帰るか」

「どしたん?さっきから央弥なんか変だけど」

「もー眠いの俺は!」


 駐車場の方に歩き始めると、絡みついていた影はスルスルと解けて霊園の中に溶けるように消えていった。あの門はあの影にとって、越えられない一線の象徴なんだろう。

 帰りの道すがら、車の挙動が変になり、降りてみるとボンネットに無数の手形がついていた……なんて事もなく、日が昇り始める頃には運転している直樹とすっかり目が覚めてしまった俺だけが起きてくだらない話で盛り上がっていた。

「なあ、さっきの墓場で何か見た?」

「んー」

「言えよ」

「ガキくらいのデカさの影」

「…まじで?」

「最初は奥の墓の近くに立ってたんだけど、俺らが喋ってたらいつの間にか目の前に来てた」

 その様子を思わず想像したのか、直樹は平静を装っていたがハンドルを握る手に少し力が篭った。

「それでお前、平気な顔してたわけ?」

「まあ別に何もされなかったし…あ、いや」

「なんだよ」

「腕にしがみつかれたな、ついては来なかったけど」

「おい、おい、本当か?見えてないだけで連れてきてねえだろうな!」

「大丈夫だって」

 大体、ついてきたからって何なの?と尋ねると直樹はもどかしそうに言った。

「怖いじゃん!」

「だから何が」

「そこにいるのが!」

「んん…何?うるさいんだけど」

 明るくなり始めている空をぼーっと眺めながら睡眠不足の頭で俺はひとり納得していた。

 ――そっか、そこにいるのが怖いのか。

 何かされるからとかじゃなくて、ただただ、いるはずのないものがそこにいるってのは…それだけで"怖い"になるって事だ。

 葛西さんの今までの反応にも全部納得がいく。

 ――じゃああの人はこれからもずっと怖い思いをするしかないんだろうか。

 なんて事も考えたけど、やがて眠気に襲われていつの間にか意識は途絶えていた。



【ドライブ 完】

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