エピローグ
日次恒例、蒼士郎の部屋に遊びに来た千歳。
部屋の外から呼び掛けるが返事はなく、耳を澄ますと規則正しい寝息が聞こえてくる。
好きに入って構わないと言われているものの、寝ている最中に部屋に入るのは躊躇われ……でもちょっぴり寝顔が見たくて、そろりと戸を開けてみる。
机の上には几帳面に書類が積まれており、蒼士郎が座布団を枕に横になっていた。
「蒼士郎様?」
疲れが溜まっているのなら、何かもっと手伝える仕事があればいいのに。
ブランクがあるので書類仕事は厳しそうだが、討伐部隊なら出来そうだ。
千歳は蒼士郎の頬に触れ、少しでも楽になればと霊力を送った。
『護り石』を渡しているのだから、使ってくれて構わないのに……。
すると固く閉じられた瞼がゆっくりと開き、その目が数度、宙を彷徨う。
「千歳……?」
突然名前を呼ばれ、千歳は動きを止める。
頬に当てていた手を引き寄せられ、その勢いで千歳の身体が蒼士郎に向かって倒れ込んだ。
「あ、あぶな……!!」
起き上がろうと手を突くと、そのまま抱き寄せられ、身動きが取れなくなってしまう。
「その、霊力を送ろうかと思いまして」
「それは分かっているが……ああ、雨が止んだな」
千歳を抱きかかえたまま蒼士郎が縁側へ出ると、雨上がりの湿った匂いが鼻腔をつく。
少し広めの縁側には、ゆったりと御守様が寝そべっていた。
「御守様、いらしてたのですね」
ふわふわの尻尾がご機嫌に揺れ、千歳は蒼士郎の腕からぴょんと勢いよく飛び降りた。
「何をご覧になっていたのですか?」
ぎゅうっと首に抱きつくと、柔らかな毛が頬に触れる。
寝そべる御守様を挟むようにして二人が座ると、御守様の目がふっと和んだ。
「わぁ……虹、ですか?」
ふと空を見上げると、鮮やかな虹が架かっている。
七色が溶けあうその虹は、優美な曲線を描き、本土と三ツ島繋いでいるかのように緩やかなアーチを描いていた。
「綺麗ですね……!」
三人で見上げる空には、綿あめのような薄雲が切れ切れにかかり、まばゆい光が差しこんでくる。
「三人でこうやって、虹を見られるなんて夢のようです」
「――そうだな」
蒼士郎様と御守様が顔を見合わせ、そしてどちらともなく笑い出す。
何てことのない、でも幸せなこのひと時。
重い雲に覆われ、ぼんやりと淡く明らむだけで、わずかな陽の光も差し込まなかった三ツ島。
来た時の寂寥感はまるでなく、濡れた地面が光を反射し、
――キラキラと、輝いていた。
(完)
どうしても書きたかった、生まれ変わりの物語です。
暗い場面も多かったのですが、最後までお読みいただきありがとうございました!
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それでは今年もあと残すところ僅かとなりましたが、皆様よいお年をお迎えください。