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第四話 「ゴミ拾い」

ゴミ拾い(魔石拾い)をしていて分かったことがいくつかある。


まず一つ目。

魔石が至る所に転がり落ちている理由。


この街は元々、魔備の開発を中心とした小さな工業地帯だった。

聞いた噂によると、それは僅か五十年程度前の話だったようで、今はその機能は一切果たされていない。

魔石から発生したアルファリンの流行が原因だ。


アルファリンには魔の力が込められている。

人間が摂取して良い量じゃない。

そのため、人は自我を失う。


まさしく化学兵器のようなものだ。


だが、これはこの街だけで始まったことではないようだ。


魔石が大量に得れる場所では、このような事件が度々起きるらしい。

魔石は特殊な素材だ。

使い方を間違えると人を殺す。

危険物なのだ。


魔石の使い方にミスをした街は衰退した。

まさしく、この街が廃れたのは魔石から発生した薬の流行が原因となっている。


街中に散らばった魔石は、故意的な散らばりを見せていた。

誰でも手が取れる位置にわざと置いているような感じだ。


人為的に街の衰退を進められている。


これには、とある男が関係しているようだ。


皆それを『ボス』と呼んでいた。




二つ目、これは至ってシンプルな話。


まともな人間が少ない。


これは言葉の通り、この街の人間は薬でよれている。

訳のわからないことを口走る老人。

道の真ん中で寝ているやつ。

ただただ叫んでいる人。

単純に身の危険を感じるレベルで狂気じみている。


まともに会話が成立する人が少ないというのは非常に大変なことだ。


なので街そのものが殆ど機能していない。

人が暮らしていける環境じゃないのだ。


一つの街が異常に満ちているのに、どうして改善に進まないのか。


凱編商会の支援だって、先生一人で行うものだ。

普通に考えて、人間一人で出来ることなんてたかが知れている。


国による支援や、他の街からの支援はないものなのだろうか。


記憶を失った俺には、この世界が異常に見えて仕方がない。



三つ目。街のルールについて。


街には対価を求めるルールが存在している。


見返りなしで人との交流を行えない。


そのせいか、格差のようなもので街が区切られている。


交流する人間をグループごとに絞っているような感じだ。

とはいっても、それぞれになんらかの力があるわけではない。

街の人々がそれぞれのグループに属したところで、その間で争いが起きることもない。


単に静かなのだ。

街が閑静としている。

まるで生気を失ったような、そんな感覚だ。


ルールを設けたのは誰なのかは分からない。

だがそのルールを利用し、街をここまで静かにしているのはやはり『ボス』という男だ。

奴は暴力的な人間らしい。


まさしく言葉通りのボスだ。



記憶を失った俺にとって、ここは始まりの街だ。

だが、記憶を失った俺でも分かるくらいに、異常な街だ。

そんな中で俺はまだ生きながらえている。





そういえば、まだ分かったことが一つだけあったんだった。

これは良いことではなく、どちらかというと悪いことだ。


俺はこの街で、様々な場所へ無断で赴き、仕事をこなしていた。

おかげで、色んな人に目を付けられたと思う。


「赤い髪をした怪しいやつがいる」

なんだかそういう噂を耳にした。

そう。俺だ。


別にやましいことをしているわけではない。

誰かに許可を取らなければしてはいけない、ということもしていないはずだ。

傍から見れば、街の掃除をしている慈善活動者なのだから。

いや、この街の住人にはそんな風には見られてはいないと思うが。


とりあえず俺が何かに巻き込まれないか不安ではある。

それとも、何かしらの争いの種になってしまわないか心配だ。


あ、そういえばもう一つ分かったことがあったな。

これが最後だ。

これもあまり良くないことだ。個人的に。


前世の自分、つまり記憶についての情報の進展が一切ない。

どうやら本当に俺はこの街の住人でもないらしい。

ついでに凱編商会の人間でもない。


なら、自分は一体何者なんだろうか。

俺がこの街で目覚めた理由は未だ分からない。


ちなみに記憶喪失になってから今日でもう十日目だ。


この数日間、記憶に関しては全く進展がないが、俺という人間がなんとなく分かってきた。

体を動かすのは好きなようだ。

街中走り回っていても、抵抗感はない。


あと、好奇心旺盛なタイプでもあると思う。

気になったことは調べちゃう感じだ。


あと、先生とのコミュニケーションも少しずつ上手くなっていった。

会話能力が発達した気がする。


それくらいだ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「今日はとある人たちをここに連れてきてほしいんだー」


ボロ家の外で先生はまた仕事の内容が書かれた紙を渡してきた。

かれこれ十日間は魔石拾いに専念させられた。

おかげで家の外にまで魔石が入った箱が置いてある。

だが、今回は魔石拾いではないらしい。

なんだが仕事の役柄が昇格したみたいでうれしい。


もちろん魔石拾いはそれほど悪くなかった。

体を動かすことにそれほど抵抗ないみたいだったし。

なんなら、かなりの体力量に先生は驚いていた。


前世の俺は凄い人物だったのかもしれない。



「人探しですか?」

「そう。大体の居場所は分かるから見つけてきてほしいんだー。ついでに連れてきてほしい、ここに」


紙にはそれぞれ街のそれぞれに場所における「見つけてきてほしい人」二人の特徴が書かれていた。



- 街の西側。中年女性。ブロンドの髪。身長は160㎝程度。男勝りで強めな口調。街の西のリーダー的存在。

名前はフラン。


- 街の東側。いかにも職人!って感じの無口そうな高齢男性。灰色の髪と髭。身長は160㎝程度。

今は一応加工屋を継いでいるらしい。未だ運営されているのかは不明。

名前はガンジ。



二人の特徴は上記の通りだ。


ふむ。なるほど。

これら二人をここに連れてくると。

紙の端に、簡単な街の地図と、場所が書かれている。

俺も、この数日間で街の地理は少し詳しくなった。


見つけるまでは上手くいくと思うけど、連れてくるっていうのが難しくなりそうだな。

どうしようか。


腕を組んで考える自分に、ふと疑問が浮かぶ。

そういえば、最初よりもパシリに対する受け入れ姿勢が簡単になった気がする。

要は従順になっている。


この数日間、先生のパシリをしてきて、なんとなく仕事に慣れてきてはいる。

殆どゴミ拾いだったが、なんだかやりがいはあった。

そう、やりがいがあったのだ。

何かすることがある、実は今の俺にとっては、それは結構必要なことだったのだ。

空っぽだった俺に、少し自信がついた感じがするのだ。


そう考えると、先生は記憶を失った俺にやりがいを与えてくれている。

やっぱり女神なのかもしれない。


「ちなみに連れてくるんだったら手段は問わないからね。気絶させたりしても大丈夫だよー」


先生のその言葉に、前言撤回。

やっぱり悪魔かもしれない。


そんな物騒なことはしません。

てか出来ません。


先生は時々物騒なことを言う。

冗談なのか本気なのかは分からない。


「そんなことをするつもりはないですけど…ちなみに何をするために連れてくるんですか?」


力で強制的に連れてくる方法は無しだ。

それよりも、何を目的としているのかを知っておいた方が良い。


とりあえず、行き当たりばったりで説得しても上手くいかないことは確かだ。

よくわからないやつに、「ついてきてください」と言われてのこのこ来るほど馬鹿ではないだろう。

何かきっかけとなる理由が欲しい。

だから、何をするのかを教えてほしいものだ。

ここに置いてある魔石に関係していることは確かなのだが。


「単純に魔備開発の再開だよ。そのための最初の人員確保」

「魔備開発の再開ですか…」


意外と普通のことだった。

人を捕まえてきて、またパシリ要員を増やすのかと思っていたのだが。


街で止まっていたことを再開するだけらしい。


いや、人員確保なら、パシリ要員確保と対して変わらないか。

でも、確かに、そうするのが一番街の復興に近いルートではあると思う。


街の復興に対する、人手を増やすのだ。


魔石のせいで街は廃れたが、それまで街は機能していた。


決して魔備開発の失敗で街が廃れていったわけではない。

あくまで魔石の利用方法を間違えただけだ。


この街には復興のきっかけがなかっただけで、チャンスはいくらでもあった。

今では凱編商会、先生の協力もあるし、上手くいくのかもしれない。


街の復興が、少しずつ見えてきた気がする。


「西側のフランには、主に魔石の回収と建造物の復興に関する人員確保と環境づくりを任せたい。彼女はこの街でも唯一のまともな人だからね。人望もあるし適切な配置かな? 街の復興も彼女の望んでることだろうし言えば来てくれるよ」

「なるほど」


「東側のガンジは無口で関わりづらい人だけど、魔石加工に対する熱意や技術は人一倍だからね。魔石の山と加工するための場所の提供の話をすれば、のこのこ付いてきてくれると思うよー」

「ほうほう」


俺が今までせこせこ集めた魔石は、魔備開発に利用されるようだ。

まずは、復興のための人員確保。俺はフランを説得して、街の復興に必要な労働力をゲットする。

次に、街でも唯一の魔備開発の技術を持つ人間を確保して、街にある魔石で魔備を創る。


魔備さえ作れてしまえば、あとは昔のようにすれば良いのだ。

魔石を確保して、魔備を創る。そしてそれを売る。

売れて金ができれば、さらに人員を確保して魔石を確保できる。

街の近くには魔石が大量に採れる場所があるようだし、そこからさらに魔備を創れる。

そうやって街の主な資金源が確保出来るのだ。


街が経済的に上手く回れば、豊かになる。


これが街を復興する全貌だ。



「この二人を連れてきて、それなりに環境と準備が整ったら街全体にも詳細を伝えるつもり。魔備の売買先は商会の伝手があるし、そう失敗することもないかな。そしてゆくゆくは…」

「ゆくゆくは?」


先生の不敵な笑み、不気味な笑みが炸裂。

これは良くないことを考えているときによくある先生の表情。


「この街を軍事的に利用できるようにあれやこれや…」


こほん。

先生は途中で咳払いをして笑みを止める。

うーん、なるほど。

この街の復興だけでなく、その先の不吉な計画まで見通しているようだ。

これって大丈夫なのだろうか?


「ナナシくん、勘違いしてもらいたくないんだけど、私は五鳥の一人だし、この街の管轄を任された身。確かに自由にやれとは言われたけど、なにも私利私欲のために利用しつくしてやろうってわけでもないんだよ?」

「わかってますよ先生。先生は聡明なお方ですからね。俺は理解してますよ」

「そ、そうかな? あははぁ…」


先生はちょっと恥ずかしそうな顔で笑みを溢しながら、頭をポリポリと搔いていた。

なんだが初めて先生を手玉に取ったみたいで嬉しい。

先生の笑顔は国宝級なので、俺も先生の機嫌取りをマスターするために努力しよう。

そうしよう。


それにしても軍事的にってどういうことだろう?

戦争でもするわけでもあるまいし。

自衛用ってことだろうか?

結界の外には魔物がうじゃうじゃいるみたいだしな。街の戦闘力が上がったら安心安全ってことか。


それとも、商会の管轄内にそれらを置くことに意味があるのだろうか?

果たして。



まぁ、とりあえず、全貌も分かったことだし、街の復興のために俺も頑張るとしようか。


別に俺はパシリだから、本当は頑張る必要はない。

だが、記憶を失った俺に出来るのはこれくらいだ。


何もすることがないより、全然マシだ。


それに、先生についていれば何かしら記憶に関する情報が掴めると思った。

根拠はないのだが。

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