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第十六話 「戦闘の時間」

いくら魔備装甲があると言っても、ポルーン街までの道のりは長い。


ただひたすらに真っ直ぐな道を進むだけじゃない。

確かに道路自体はほぼ真っ直ぐなのだが、この集団、『ガイア』と呼ばれたギャングチームの動きは中々特殊だ。


まず、村や街を避けるような動きだ。


彼らは基本、外で生活している。


夜になれば簡易的な野営地を設置する。

決して、村や街の宿泊施設は使わない。

外部の人間との接触を極力避けているイメージだ。


大きな道路を渡っている時も、一般車が通りかかりそうなのが分かると、道路から外れる。

村や街の付近まで来れば、わざわざ外を回るように避けていく。


ガウスの先導の元、皆がそれに対して寛容に受け入れているようだ。

おかげで、ここ二日間はずっと野宿だ。



「なんで村や街を避けるんだ?」


魔備装甲に揺られながら、隣で運転しているガウスに質問をする。

まだ出会って二日目だが、そこそこ喋れるようにはなった。


最初こそお互い警戒し合って、他人行儀な雰囲気があったが、今はそんなことない。

彼の見た目は威圧的で怖いが、喋りに慣れていけば至って普通だ。


「俺たちはギャングだからな。無駄な戦いは避けんだよ」

「そもそも、ギャングって一体何?」


よくよく考えれば、ギャングってなんだ?

悪いイメージのある単語だが、今のところそんな様子はない。


「ギャングっつうのは、村や街に属さない人間の集まり、っていうのかぁ? 世界一般の具体的なイメージは分からねぇなぁ」

「じゃあ、ガウスにとってのギャングってなに?」

「俺にとってか?」


ガウスは少しだけ、空を見上げながら考える素振りをし出す。


「俺にとってっていうか、俺らにとってギャングは『居場所』だ。チームであり、家族だからな。他ではどうなのか知らねぇけど、この荒野を生きるギャングたちは皆そういう認識だな」

「なるほど。っていうか、ガウスたち以外にもギャングって存在すんの?」

「そりゃあな。俺たちみたいに放浪してる奴らもいれば、一箇所に固まって陣取ってる奴らもいる。ギャングにはそれぞれの理念や信念ってもんがあって、余所者を受け入れない傾向にある。だからお前らのことも最初は避けてたんだよ」


なるほどな。

ガウスたちが外部との接触を避けていたのは、彼らの共通の理念らしい。

他のギャングとの抗争を避けるために。無駄な争いを生まないために。


「…避けてたっていうか、そっちから絡んでこなかった?」

「そうか? そうだったか?」


よくよく考えれば、最初に話しかけてきたのはガウスたちな気がする。

確かに俺たちが変な紙を掲げて、奇妙な行動をしていたのは事実だが。

そこら辺は意外とガバガバなのか。

はたまた意外と好戦的な集団なのか。


まだまだ理解が追いつかない。


「じゃあ、こんなに村や街を避けてるのに、ポルーン街を目指している理由は?」

「理由か?」


そうだ理由だ。

目的を知りたい。


だが、ガウスはいかにも嫌そうな表情を見せた。


「そこまでお前に、部会者に教える義理はねぇ」

「部外者って…」


一応この二日間で、そこそこ仲良くなれた気がした。

だがまだ信頼には至っていないらしい。

少しだけショックだ。


「あのなぁ」


ガウスがこっちを見て何かを言おうとした。

その瞬間だ。


地面がガクンと揺れた。

今までにない地響きだ。


途端、誰かが叫んだ。



「東方向だ! リーダー!!」



ガウスが東方向を向くと同時に、俺もその方向に顔を向ける。


そこには四足歩行の大きな魔物がいた。

デカい。建物一個分の大きさはある。

それに黒くて薄気味悪い。


距離もそれなりにあるせいか、何か黒い得体の知れない物体が動いているに見える。

全身から悪寒が走る。


だが、ここはポルーン街へと続く、舗装された大きな道路の上だ。

国が作っている公共の道であるため、道の端を囲むように結界が張り巡らされている。

おかげで、道路の中までには簡単には魔物は侵入出来ない。


安心だ。

襲われる心配はない。

だが、ガウスは動いた。


「よし、倒しにいくぞお前らぁ!」

「え?」


俺のとぼけた声と一緒に、魔備装甲が道路から外れた。




————




敵は一体じゃない。

複数の黒い大きな魔物が、岩影から顔を出していた。


()()()()()()()が四体だ! 油断するなよお前ら」


道から大きく逸れた荒野の真ん中。

ガウスたちは一定の距離感を保ちながら、四体の魔物の周りを走っている。


魔物は黒く。デカい。

手、脚、体全てが大きく、人間よりも数倍体格に恵まれている。

目が赤く光っていて、口や鼻は視認出来ない。


見ただけで分かる。

今まで見てきた魔物よりも、数倍強そうだ。


「セリア!」


数秒ほど魔物の周りをぐるぐる回ったところで、ガウスが右手を意図的に上げて叫ぶ。

その右手が振り下ろされた瞬間、集団の動きが途端に変わる。


四体の内、一体目がけて、取り囲むように魔備走行を走らせる。

その魔物は、周りを走り回る人間に、頭を回すしかなかった。


困惑している。

そんな様子が見てとれたところで、集団の中の一人が魔備装甲の上から立ち上がる。


セリアだ。


腰に携えてある剣を手に取り、魔物の死角から飛びかかる。


凄い速度だ。

不安定な乗り物の上から飛び上がったにも関わらず、バランスが崩れていない。

それどころか、確実に魔物の頭上に飛び上がり、獲物を捉えている。


一瞬、魔物の頭上で何かを呟いた。

距離があったから聞こえはしない。

だが、その様子でなんとなく分かる。

魔術だ。


数秒。たった数秒間のうちに、黒い魔物の首は落ちていた。

そう、気づいたら魔物は行動不能になっていたのだ。


セリアはそのまま、自分の魔備装甲にすんなりと戻る。

まるで何事もなかったようにすんなりと。


その様子を見たガウスは、また右手を上に掲げ、下ろす。


二体目へターゲットが向いたのだ。




彼らは魔物狩りのプロだった。


ターゲットを一瞬で絞り、集団で気をひきつける。

その間に、誰かが首を刈り取る。


その場にいる誰もが魔術を用いることが可能で、連携も完璧だ。

素晴らしい剣捌きに、圧倒的な力。


俺はその光景に圧倒されるしかなかった。


流石は荒野を今まで生き延びてきた集団と言えよう。

格が違う。




気づけば魔物四体が地面にのけ反り返っていた。

どれも一瞬だった。

道を外れてから五分も経っていないだろう。


既に戦闘は終了した。



「す、すごい、ですね…」

「あ? 普通だろ」


全員が魔備装甲をその場へ止め、魔物の死骸を取り囲んでいる。

俺は、その死骸へ何かしらの液体をかけているガウスに、敬語で話さざる負えなかった。


「なんだぁ? 今さら俺たちの凄さを知ったのか?」

「い、いや、最初から知ってましたけどね」


カタコトで喋る俺に対して、ガウスは苦笑を浮かべながら、瓶に入っていた液体を魔物へかけ終わっていた。


液体をかけられていた魔物の死骸は、徐々に煙を上げて原型がなくなっていく。

凄い異臭だ。


「こ、これは?」

「死骸を溶かしてんだよ。放置してたら違う魔物が寄ってくるかもだからな」


気づけば周りの他の人々も、それぞれ魔物に謎の液体をかけていた。

体が大きかった分、それなりの量の液体が必要なのだろう。

匂いだって凄い。


「ちょいここで待ってろ」


ガウスはそう言うと、真っ直ぐ前に歩いて行った。

前方にはセリアがいる。

何か話があるのだろうか。


すると、横から肩を叩かれる。


「すごかったねえ、ナナシくんも見た? セリアさんの剣捌き」


先生だ。

先生は口と鼻を袖で覆いながら、俺の横に立っていた。


「先生ですら凄いと思うんですね。ってことはセリアさんは結構強いのか…」

「期待してるとこ悪いけど、別に私は特別強いってわけじゃないからね。外で戦い続けてる人たちの方がよっぽど強いよー」


謙遜する先生。

俺からしてみれば、先生の方が強いと思っていた。


でもそれは、まだ魔術を使っている人をほんの少ししか見ていないから思っていたことかもしれない。

世界は広い。だが、俺の知っている世界は狭い。

誰が強くて、誰が弱いとかの判断はまだ分かっていないのだ。


いや、唯一分かることはある。

俺がこの中で一番弱い。

魔術もまともに使えていないのだから。


「でも、意外ですね。あいつら魔物を溶かしたり、そういうことするんだなって」


そういうこと、というのは魔物の討伐だったり、死骸の処理だったり。

別に、あの道から外れる必要性もなかった。

あの場には結界があったし、わざわざ危険を冒しにいくのはリスクが高い。


それに、めちゃくちゃに攻めるわけではなく、連携もしっかりとれていた。

おまけに死骸の処理、掃除までしている。


野営地でどんちゃん騒ぎしている彼らには見えない。


「そりゃあ、ギャングチーム『ガイア』、だからね」

「どういうことですか?」

「…だって、彼らはここ以外に」


と、先生が言いかけたタイミングだ。


誰かが遠方で叫んでいるのが聞こえて来る。


集団のうちの誰かだ。


「何かが来る!」


その言葉が発せられた瞬間、今まで以上の地響きが辺りに鳴る。

下からだ。地面から音が鳴っている。


次の瞬間、地面が割れた。

割れただけじゃない。その中から何かが飛び出してきた。


デカい。さっきの魔物の4、5倍の大きさはある。


「タイラントスネーク」


横の先生はそう呟いていた。

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