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第十五話 「創造魔術」

「先生、『創造魔術』って何ですか?」


パンを口に頬張って、横で食事をしてる先生にふと質問をする。


先生はキョトンとした表情のまま、それを飲み込んだ。



俺たちは今、荒野に簡易的な野営地を設営し、そこで食事をとっている。

数十人の人々が、そこら中で火を焚き、バラバラに散らばっている。

俺と先生は、一応部外者であるため、邪魔にならないように野営地の端で隅っこ暮らしをするようにした。


セリアは、「気にせずのんびりしてってね」と言っていたが、どうにも居心地が悪い。

皆そこら中で馬鹿騒ぎしており、もう日が沈んだというのに、辺りは火の光で眩しい。


俺たち二人とはあまり馬が合わない。

ので、俺たちは野営地の端で、自分達のテントを展開し、ディナータイムに入った。


「そういえば、教えてなかったね」


ごくん、とパンを飲み込む音が聞こえた。

今日の晩飯は、この前寄った村で売っていた、日持ちするパンだ。

硬いパン。先生は、「ラインハイパン」と言っていた。


「魔術っていうのはね、実際に誰もが使える『基礎魔術』。それを応用して自分だけが創造し、生み出す『創造魔術』の二種類に分かれるんだよ」


先生は創造魔術について、説明をしてくれた。






基礎魔術。

その物体の性質、物事の本質。科学的性質。それらを理解すれば誰もが覚えられる魔術のことを指す。


例えば、ただ単純に魔備に魔の力を通し、物理的エネルギーへと変換させた、

『攻撃』。

『防御』。

移動を速くする、

『加速』。


『攻撃』を派生させ、炎の性質を学べば、

『火撃』

『火壁』…etc。


水の性質を学べば、

『水撃』…etc。


など、魔術は色んな性質を通して、派生させることが可能だ。


基礎魔術には限界がある。

と言っても、基礎魔術の量は多い。

数百、数千、それ以上の数は存在している。


覚えさえすれば、誰もが使える魔術。

勉強あるのみだ。




創造魔術。

人間の魔の力はそれぞれによって異なる。

遺伝子みたいなものだ。

そのため、その人間しか使えない、唯一無二の魔術も存在する。


それが『創造魔術』だ。

創造魔術は、長い人生の中で一個か二個習得できれば良い方。

一個も学べない人間だっている。


そのため、創造魔術の研究は進んでいない。


分かっているのは、創造魔術の可能性は無限大であり、とてつもないパワーを持っているということだけ。






「創造魔術の研究はまだ進んでない。誰かと全く同じ創造魔術を習得したっていう事例もあるし、一つの創造魔術の研究で基礎魔術になったっていう事例もある」


となると、別に唯一無二ってわけでもないのかもしれない。

魔の力の全貌が未だに明かされてない。

そのため、基礎魔術に対する研究も、創造魔術に対する研究も、この世界においては未だ発展途上なのだ。


魔術というものは不思議だ。

無限の可能性を秘めていて、奥が深すぎる。


俺はまだこの世界の技術に対して、つま先だけしか入れていない。

学ぶことはたくさんあるのだ。



「一つ学びを得たナナシくんに、ここでもう一個授業をしよっか」


いつの間にか食べ終えた先生は、目の前にある焚き火に木をくべる。

目の前の火は辺りを強く照らしている。


魔術も不思議だが、よくよく考えたら世の中は不思議なものだらけだ。

目の前の火だってそうだ。


「目の前には火があります。実はこの火って、摩擦だったり、ライターやマッチを使って起こしたものじゃないんだよ」

「魔術を使ったってことですか?」

「そう。察しが良いね」


先生は後ろにあるテントの中から、二つ魔備を取り出す。

片方は先生、片方は俺に渡された。


「魔術は神秘的な力。そんなふうに言われることがよくあるけど、実際はその()()の性質を理解しなきゃ使いこなすことはできないんだよ」


先生は右手に魔備を装備し、掌をパッと広げる。


そこには、小さな光が生まれる。


「火は、可燃性の物質を酸素と反応させて熱と光を生み出す現象。酸化した際に放つ熱エネルギーそのもの」


先生の掌の上には小さな火が揺らいでいた。

小さく、すぐに消えそうな火。だが、段々と形が大きくなっていく。


「掌の上には何もない。でも魔の力は、自分が想像した必要なものを即座に変換させることができる。火がどのように生み出されるのかを理解すれば、魔術として展開できる。これが魔術の基本」


大きくなっていた火が、段々萎んでいく。

と思ったら、また大きくなっていく。


「その魔術に流し込む魔の力の量を変えれば、その分大きさや形、発動時間も変えることが出来る」


先生が掌を焚き火に向ける。

すると、掌に乗っていたはずの火が、そこへ放たれる。


「火を生み出し、物質を前に放つ魔術と一緒に展開すると、火は放たれる。『防御』魔術と合わせると、火の壁が展開される。使い方次第では、火を体に纏うこともできる」


先生は魔術で火を自由に使いこなしていた。

火の壁を作ったり、火を魔備に纏わせたり。


「必要なのは性質への理解と想像力。ただそれだけ。ナナシくんもやってみよう!」


先生はそう言って、魔備から放たれていた火を消した。



俺もとりあえず魔備を装備する。


今までの経験上、単純な『攻撃』の魔術は扱えている。

だが、どうしてそうなったのかは全然理解できていない。


ただ必死になっていただけなのだ。


そのため、魔術が使える実感は湧いていない。


でも、一つ一つ覚えていく努力はしたい。

魔術にはワクワクが詰まっていて、実に面白い。


奥が深い分、のめり込めるのだ。




とりあえず掌を開く。


焚き火を見つめる。

火を見ると安心する。温かいし、綺麗だ。

ゆらゆら揺れていて、パチパチと音が鳴っている。


辺りはあまり静かじゃない筈だ。

野営地でどんちゃん騒ぎしている奴らがすぐ近くにいる。

だが、今はその声を遮断する。


ただ火だけを見つめて、それを理解しようと集中する。


そこで気づいた。

先生の言っていた通りだ。


火はエネルギーそのもの。

目だけで追っても見えない、粒子の振動が確かにある。


そう感じる。


あとは想像力だ。


掌に可燃物があって、そこにぶつける。

反復的にそれを想像する。


数秒、沈黙が続いている。


うるさかったはずの辺りは静かで、何も聞こえない。


さっきの先生の動きを思い出す。


光と熱が、一点に集まり、それが広がる。

ただそれだけだ。



来た。



体中に張り巡らされた血管から、何かが流れる感覚を味わう。

温かくて、寒い。

破裂音のような、なにかを叩く音が脳裏に刻まれる。


そこでふと、こんな言葉だけが聞こえる。



「…とりあえず、最初は想像力の練習。初めっから出来る人はいないから、今日から頑張って…」



その瞬間だ。先生の声を劈くように、掌から一気に炎が広がる。


不思議と熱さは感じない。



「で、できた」

「ええぇ、一発目で出来ちゃうんだ…」


俺の掌には、大きな火の塊が生み出されていた。

眩しいが熱くない。


感じるのは、達成感と、何かが抜けたような疲労感だけだ。


「先生…」


俺は掌に火を乗せたまま、先生へ顔を向ける。


先生は驚いていた。


「君…やるじゃん…」


俺は今日初めて、魔術を使った実感を味わえた。



だが不思議だ。

漠然と、この感覚には覚えがある。


随分昔にやったような覚えだ。


これは前世の記憶だろうか?


驚く先生を横目に、俺は火を消した。




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