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第十話 「未来改変」

稲光が宙を舞う。

さっきまで隣にいたはずの先生は、気づけば銀色に光る()()()の元まで飛んでいた。



雷を帯び白く光る短剣と、赤く燃え上がる大剣が空気を劈いた。

次の瞬間、魔術がぶつかり合う衝撃音が、街中に、そして俺の耳に響き渡る。

火花が散った。

それも激しいくらいに。

金属と金属が、擦り合うように悲鳴を上げている。


一撃目は、どちらも互角。

ぶつかり合う時間は二秒にも満たなかった。


二人同時に、半歩後ろへ弾かれる。

それと同時に、二人の体勢が少し崩れる。

だが、先に踏み込み、もう一度攻撃体勢に入ったのは、我らが先生だ。


「『白雷』」彼女がそう呟くと、両手の先から雷が走る。

青く光り輝いたそれは、すぐさま放たれる。


白い砲撃のような塊が、機械頭の元へ一直線に突き進む。


避ける暇は与えなかった。

鈍い衝撃音と共に、黒い煙が上がる。


そこには炎の壁があった。

雷の一撃を耐え抜く、防御魔術だ。


先生の放った一撃は、奴には当たらなかった。


「『混沌』」

そう呟いたのは、奴だ。

炎に身を纏った大剣は、勢いよく先生に振りかかる。


先生はそれを鮮やかに避ける。

最小限の体の捻りと、持ち前の身軽さで。


そのまま両者は二撃目を繰り出す。

雷と炎がぶつかり合う。

遠目から見れば、白い光と、赤い炎が混ざっているようにしか見えない。

だがあの光の中には、人が二人、魔術で攻防を行なっている。


衝撃波が、俺にまで伝わってくる。

二十秒も満たない間に、両者の連撃が繰り返された。


やがて二人は距離を取る。

互角の打ち合いに、俺は固唾を飲むしかなかった。



「その頭で大丈夫? ちゃんと前見れてる?」


先生が余裕な表情で煽り始める。

これは決して舐めているわけではない。

互角だと認めたくないだけだ。


彼女のその煽りは、自らの焦りを隠しているだけだ。

頬には、汗が垂れている。


確かに前が見えているのかも分からない、顔も視認できない機械頭は、先生の言葉に反応を示さなかった。

ただ、冷徹に、次の攻撃を構えている。

両腕には、大剣が握りしめられている。

あれが勢いよく降りかかれば即死だろう。


「君は誰の命令でこの街を破壊してるのかな?」


先生の表情には、怒りが見える。

冷静で余裕ぶった彼女はもういない。

反応を示さない、機械頭に対して拳を強く握っていた。



「- …話に聞くように、よく回る口だ」


が、突然、奴が喋り出す。

その声は、少し篭っていて、聞き取りづらい。

だが確実に、男の声だ。

声だけで年齢は判断できないが、随分低い、重くのしかかるような声だった。


「…君は誰の命で動いてる?」

「…」


今度は反応を示さない。

先生は、チッと舌打ちを鳴らす。

と、同時に、再度足を踏み込み、加速する。


「『閃光』、『白雷』!」


左手を前に掲げ、魔術を展開する。

彼女が声に出した瞬間、直視できないほどの光が前を遮る。

俺は咄嗟に、目を塞いだ。


閃光は光を発する魔術のようだ。

視界を奪う。


次の瞬間、また魔術でぶつかり合う鈍い音が聞こえてきた。

どちらも互角のように聞こえた。


だが、目をまた開けた時、短剣を振るう先生の顔は苦の表情だった。


機械頭の動きの方が速い。

素人目から見ても、それははっきりしていた。


攻撃のスピードが追いつかない。

そんな印象だ。

機械頭の攻撃に対して、防御魔術を展開するしか出来ない。

こちらから攻撃出来ていない状況だ。





魔備について、前に先生から教わったことがある。

魔備は体の部分的な場所にしか付けない。

全身に着けることはないようだ。


魔備は、魔の力を通すための媒体である。

全身に付けてしまうと、魔の力の消費量が激しく、上手く魔術を制御出来なくなる。

要はスタミナの消費が激しく、コントロールが難航してしまうようだ。

だからこそ、必要な箇所にしか魔備は付けない。


だがあの機械頭はなんだ。

全身に魔備を装着している。

そして、先生にパワーとスピードで勝っている。

奴は、全身に魔備を着けても、魔術を上手く制御しているのだ。


魔の力の量には、個人差がある。

もし、機械頭が先生よりも魔の力の量に富んでいるとするならば、

先生に勝ち目はない。


「あぁ、やばいかもぉ」


そう言いながら、先生が俺の位置まで弾き飛ばされてきた。

彼女は笑いながら、汗を拭き取っている。


「ナナシくん、とりあえず逃げて、商会に私の証渡しといて」


彼女はそう言って、首から下がったペンダントを俺に渡してくる。

それは、商会の人間であるという刻印が入ったものだ。


軽く言っている。だがそれは、負けるから後は宜しく、と言ってるようなものだ。

彼女は、勝てないことを察している。


「先生、に、逃げましょう…」

「あはは…」


俺は苦笑している彼女の手を引こうとした、だがそうすることも間に合わず、奴の攻撃が正面から来る。

先生は、またもう一度足を踏み込み、加速する。


魔術を展開し、正面から迎え撃とうとするが、虚しくも弾け飛ばされていた。











「時間はもうないな。ここでお前は死ぬ」


機械頭は、地面で横たわる先生に向かって、そう吐き捨てた。


それから数分の攻防。

結果的に先生は敗北した。


奴に、敵わなかった。

先生はどうしようもなかった。

次に繰り出す魔術を模索する時間もなかっただろう。

何の手立てもなくなり、攻撃をまともに喰らい、地面に横たわるしかなかった。


あはは、そんな風に苦笑しながら。


「今のお前はやはり弱いな」


機械頭は続けて吐き捨てる。

顔こそ見えないが、奴は勝利を確信している。





奴は、自身の手の平を眺めていた。

側から見て、それにどんな意図があるのかは分からない。


だが、何か虚しいような、そんな雰囲気が漂っていた。

強者の余裕ということか。


はたまた何か考え事をしているのかもしれない。


俺には奴の今の気持ちなど理解出来ない。




その上、奴はぽつりと、わけの分からないことを言う。


「レイルバットは数年後に、カイマンド国の第五軍事施設へと発展する」


ボソリ、ボソリと何かを呟き始める。

それはゆっくりと、確実に。

内容は聞こえない。

だが、何かを呟いてはいる。





やがて、機械頭は、大剣を頭上へ振りかざした。

真下には先生がいる。


先生は気を失っているのか、目を瞑っている。

なす術なし、そんな状況。


あいつ本気で先生を殺すつもりか。


その状況に、俺は焦るしかない。


どうしよう。考える。

とりあえず足を動かせ。

このまま見殺しにするのだけは絶対にいけない。


だが、体は萎縮して動かない。

恐怖を感じてるのか? 諦めているのか?

俺の体は言うことを聞かなかった。


体よ動いてくれ。



何か手はないのか?

考えろ、考えるんだ。


体が動かないなら、頭を回転させる。

先生を助けるために、俺がすべきことをしなければならない。

今動けるには俺だけなのだから。


あの時みたいに、何かないのか?

なんだっていい、俺が助けなきゃ彼女は死ぬ。


周囲を見渡しても何もない。

見えるのは、夥しい量の炎だけ。


どう考えたって、俺も死ぬ。

俺では奴に勝てない。

あの戦闘を見れば、馬鹿でもわかる。


生身の人間は、魔術を用いた人間には敵わない。

知っているはずだ。


振り上げた大剣はまだ落ちない。

何かを躊躇っているのか?

だったらまだ間に合う。

体を動かすんだ。


とりあえず、前に一歩踏み出せ。




その時、奴の言葉が、少しだけ鮮明に聞こえた。

独り言が、聞こえたのだ。


たったその一行だけ。





「許せ。神よ。()()()()なんだ。仕方なかったんだ。」





どこかで聞いたことのある言葉。



- 未来改変。



記憶にはない。でも、その言葉で何かが引っかかった。



これは、()()()と同じ感覚だ。


ボスをぶっ飛ばしたあの時と同じ感覚。


記憶にはないけど、体は覚えている。この感覚。




俺はその言葉を聞いたと同時に、右腕に装着した魔備に力を込める。

内側から溢れ出す、何かを感じる。


温かく熱のような、それでいて泡のように弾け出す。


右腕から放たれたのは、紛れもなく、魔術。



攻撃魔術だ。



突然横から流れてきた攻撃。


機械頭は咄嗟に、俺の攻撃を大剣の表面で受け止める。

大剣に俺の拳が当たる。


機械頭には、全く攻撃が当たっていない。

何のダメージも入っていないだろう。

だが、それは明らかに様子がおかしかった。


顔は見えないが、分かった。

動揺していたのだ。


「…なんだ?」


表情は分からない。

だが、その声色が震えていた。


「お前は誰だ?」






俺は相手にされていなかった。

この場に先生と来た時点から、通行人Aにしか見えてなかっただろう。


そんな通行人Aから、突然の攻撃。

そりゃあ、誰だって驚く。


だがそれにしてもだ。

驚きすぎだろう。

攻撃は当たっていない。

奴からすれば、なんてことない、素手でも止めれるほどの攻撃だったと思う。


通行人A、剣を振りかざせば、すぐに殺すことなど可能だろう。

だが奴はそうしなかった。


「…誰だお前は、答えろ」


機械頭は、反撃をしなかった。

質問を投げかけた。


「誰だって言われても…」


この状況で誰かなんて気にする必要あるか?

知り合いが殺されそうになっていた。

だから咄嗟に攻撃をした。

ただそれだけの話だ。


「何故魔術を使える? ミィ・アドミラだけではないのか?」

「…何の話だよ?」


誰だと言われたり、何故だと言われたり。

どうしてこいつは質問を投げかけてくる。


だが今の内だ。

奴が動揺している今しかない。

こいつを怯ませて、先生を連れて逃げる。

それが今の俺にできることだ。


俺はもう一度、右手に力を込める。

あの感覚はまだ残っている。


魔術を展開した。

単純な攻撃魔術しか使えない。

次はこいつの頭を狙う。

この魔備ごと、ぶっ飛ばす。




次の瞬間、視界が、反対側まで飛んで行っていた。

吹き飛ばされていた、俺の体がだ。



背中に強い衝撃が加わる。

気づけば、およそ三十メートルほど先にある、背後の建物の壁にぶつかっていた。


強い衝撃だ。

呼吸がまともに出来ない。

夢の中にいるかのように、視界が揺れている。


力の差は歴然だった。


「…お前、()()()()()()


前を向くと、もうすぐそばに奴はいた。

そうか。とため息を吐きながら。


「…さっきから…何の話をしている?」


呼吸を整え、奴に質問する。

俺には時間稼ぎしか出来ない。


こいつはさっき言っていた。

「時間はもうない」と、


根拠はないし、理由も分からないが、俺にできるのはこれくらいだ。

タイムリミットがあるんだったら、早く来てくれ。


「もう関係のない話だ。お前は何も知らない。お前は嘘を付いていない。ここでお前を殺し、ミィ・アドミラも殺す。それで済む話だ」


だが、無意味だった。

奴は無慈悲に大剣を振り上げる。

これ以上時間は稼げない。


- 死ぬ。


そう頭によぎった瞬間だ。

奴の後ろから白い閃光が走る。


「こっちだよ」


先生だ。

白く輝く短剣が奴の頭を完全に捉えている。


機械頭は、それに遅れて反応を示した。

炎の壁を先生の前に展開させる。

だが、遅かった。

瞬時に作ったそれは、先生の攻撃に耐えきれない。

先生の短剣は、壁を打ち破る。

スピードで勝った。


稲妻が走る音、金属が擦れる音が響く。

機械頭は魔術の展開は遅れたが、体の反応は早かった。


ギリギリのところで攻撃を避ける。

いや、避けきれていなかった。


頭の先を短剣が切り裂く。

初めての損傷だ。


突然の攻撃に、流石の機械頭も対応に遅れた。

そのおかげか、体勢が崩れる。


先生はこの瞬間を見逃さない。


「ナナシくん、同時に…!」


- 攻撃だ。


俺は先生の攻撃に遅れながら、立ち上がる。

揺れる視界の中、右手に力を込める。

攻撃魔術を展開。


体の底がどっと、疲れる感覚がある。

魔術を使っているからだろうか。

だが、今はそんなこと気にしている暇はない。


先生はもう一度、魔術を込め放つ。


二つの攻撃が、奴の体に重なる。


「…っつ!」


銀色の体が数メートル先まで飛ばされる。

攻撃がまともに当たったのだ。


俺の攻撃はともかく、先生の攻撃がまともに当たったのだ。

生半可なダメージで済むはずがない。


砂埃が舞う。

その先で、奴は立っていた。


まともに喰らったはずなのに、奴は辛うじて立っていたのだ。


「...お前ら…!」


「ナナシくん、もう一度」


一発喰らわせたことに驚いている俺とは裏腹に、先生はもう戦闘態勢に入っている。

先生が動き出すタイミングに、少し遅れて足を動かす。


「分かっているのか? これはあってはいけないことだぞ!」


機械頭は何かを訴えている様子だった。

それに目もくれず、先生は一直線に走り出す。


「…お前は誰なんだ!」


機械頭は俺に訴えているように感じた。

殺意が一気に押し寄せてくる。


とてつもない炎が吹き上がる感覚があった。

それは奴からだ。

辺りが徐々に熱くなる。


とてつもない魔の力を感じる。



- 時間だ。



その声はどこからか聞こえてくる気がした。

瞬間、奴の殺意はぱたりと消える。


同時に、辺りが光り出す。

見渡しても、光源はない。


これはなんだ?

上だ。


空から、機械頭に向かって無数の魔術が降り出していた。










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