表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

第九話 「街の崩壊」

- なんだか、強い音が聞こえてくる。

- 段々と激しくなる。何かを破壊する音だ。



目を覚ます。

まだ眠りについてから、それほど時間は経っていない。

だが、その音で目を覚ましてしまった。


まだ眠い眼を、擦り、体を起き上がらせる。


その時だ。

ドタドタバン!

廊下を歩く音と、部屋の扉を開ける音が聞こえる。


扉の前には、先生が立っていた。

だがいつも通りの先生じゃない。


困惑したような、急いでいるような表情。

前の戦闘の時と同じように、両腕と両脚に魔備をしっかり装備している。


- 何があった?


「せんせ…」

「窓! 外!」


俺の言葉を遮るように彼女は叫ぶ。


俺の部屋にある窓を指差していた。

窓の外を見ろということだろうか。

俺はベットから降りて、窓の外を眺める。



それは、信じられない光景だった。


俺は目を見開いた。


まだ眠いはずのその眼を、必死に擦る。

これは夢じゃない。


外は真っ赤に染まっていた。

炎に包まれた地獄と化していた。







ーーーーーーーーーーー







家を出て外へ走り出す。

一歩踏み出せば、混乱の状態だった。

街行く人々が、そこら中で騒ぎ立てている。


炎に焼かれる人、助けを乞う人。

走って逃げる人、地べたを這う人。

崩れていく建物、散らばる残骸。


まさに混沌だ。


「なんでこんな…」


状況が呑み込めない。

だって、ついさっきまで皆が笑い合っていた。

皆がそれぞれの家へ帰っていた。

そんな平凡な一日だったのだ。


だが、そんなところから一変。

辺りは炎だらけ。

立ち込める煙が、視界を悪くする。


炎の後始末が不十分だったのか?

確かに、外で食べ物を焼いている人々はいた。

だがこんなになるか?

規模感が、全然違う。

どこを見渡しても炎しかない。


建物も、物理的に崩れ去っているように見える。


「戦争が起きたのか?」


先生が夜に言っていた話だ。

急に信憑性が増す。


「違う、戦争じゃない。でも、誰かが故意的に街に対して破壊活動をしてる。魔術を用いて」


焦る俺とは裏腹に、先生は冷静だった。

いや冷静を装っていた。

額には汗が流れている。

明らかに焦ってはいる。

だが落ち着かせるように息をゆっくり吐いていた。


「炎の広がりが異常に早い、何か衝撃を加えるような音もした。炎の攻撃魔術が作用してる。何か…」

「一体誰がそんなこと…」


誰がそんなことをする?

そんなこと、先生に聞いても分かるはずがない。

でも口に出すくらい俺は焦っていた。


組織的な力が作用しているのだろうか?

一人の人間で、街一つを破壊しているわけでもないだろう。

いや、魔術というのは絶対的な力だった。

もしかしたら一人で街を破壊することも可能なのかもしれない。


疑問は後を絶えない。


「とりあえず、この街において重要な人物の安全確保を最優先に、原因を探るのはそのあと…」


冷たい言い方だ。

人を助けることに優先順位を設けている。

だが、俺は文句は言えなかった。

正直、それが正しいと思う。


先生はどんな状況においても商会の人間だ。

こんな絶望的な状況でも、冷静に判断をしている。

街の今後を考えた行動を取ろうとしている。


だからこそ、俺は彼女に従うしかなかった。


「ナナシくん、とりあえず動くよ。離れないでね」

「はい」


振り返った先生の表情は、無理やり笑顔を作ってる感じだった。






街の西側へ向かう。

まずはフランの安全確認だ。

先生が言う安全確保の優先順位は彼女が最初だ。


それに、彼女の居場所には子供たちもいる。

大人よりも助けるべき存在だ。


そのため、俺たちは街の西側へと走った。

街自体は大きくない。


走って行けば直ぐに着くだろう。


炎にさらされた建物をかき分け、そこまで全力で走る。



そこは地獄だった。

何故だか、西側に行けば行くほど、建物の原型がなくなっていく。

炎も強くなっている気がする。


俺たちがいた場所よりも、激しい損傷が多く目立った。



かつて俺とフランが出会った場所を過ぎ去る。

道中、多くの黒く焦げた、人であったものが倒れていたりいした。



場所へ着いた。


だが、遅かった。

道中でなんとなく予想は付いていたが、そこは地獄だった。


子供たちがたくさんいた建物は轟轟と焼かれていた。

損傷が激しく、もはや原型はない。

建物と認識もできないような状態だ。

そこにフランの姿はない。


おそらく、全員炎の中にいる。

生きてはいないだろう。


「逃げる暇もなかった…。多分、元凶は街の西側から焼いていってる。次行くよ」


先生は原型のないそれに、ただ吐き捨てた。

涙を流すわけでも、悲しがるわけでもなく、悔しがるわけでもなく。

次々仕事をこなすかのように、また足を走らせていく。


俺はただそれに着いていくしか出来なかった。




次は街の東側へ向かった。

ガンジたちがいる、魔備を開発するための場所だ。

そこには大量の魔石と、魔備を開発するための環境、開発に携わる、ガンジを中心とした技術者が多くいる。


街にとっても大きな利益を生み出す大事な場所だ。


街が小さいと言えど、西から東へ。かなりの距離がある。


すると、先生俺を掴み一気に加速する。

それは、人間が出せるスピードじゃなかった。


先生の脚に付いた魔備が光り出す。


『加速』の魔術。


移動の際によく使われるとされる、基本的な移動魔術の一つだ。


人間の全速力の約二、三倍の速度を一瞬で生み出す。

俺はただ先生にしがみ付くしか出来なかった。


五分も掛からなかっただろう。

街の東側へ着いた。


だがそこも、同じだった。


西側と同様、激しく破壊されていた。

建物の原型もなく、人影もない。

何かが焦げているような、嫌な匂いしかしない。


おそらく生き残った人間はいない。



流石の先生も、その感情の表現を隠しきれていなかった。


悔しそうな表情で、チッと舌打ちをする。


「街にとって必要なものを確実に破壊してきてる。どこになにがあるのかを分かってる」

「計画的にしてるってことですか…?」


確かに、やたらと破壊箇所に偏りがある。

人が多く住んでいる場所より、東側の作業場を強く破壊していた。

子どもたちのいる建物も、故意的に破壊しているようだった。


まるで、この街を知り尽くしたような動きだ。

西と東は反対方向、これが故意的でないなら、凄い偶然となる。


それに、あり得ないスピード感だ。

激しい音がしてからそれほど時間も経っていない。

その間に、街のほぼ全てに炎が行き渡っている。


組織的な犯行と見て間違いないはずだ。

おそらく集団で街を焼いている。と、俺はそう思った。


だが先生の考えは違った。


「この街に広がってる炎の魔術は、どれも一定に感じる。同じ人物の魔術にしか見えない…」


一人の犯行、そんなことがあり得るのだろうか。

最初の音がしてからそう時間が掛かっていない。

十分もしない内に、街全ての破壊を行ったことになる。


だとすると、とんでもない奴がこの街の何処かにいる。


「ナナシくん、これ…」


先生は地面から拾い上げた何かを俺に渡す。


腕に装着する魔備だ。

おそらく、今、街で量産途中だった内の一個だ。

今回の街の破壊の衝撃で、いくつかが地面に転がっている。


片腕の分しかない、魔備。

しかも、形も先生のと比べたら歪で、どこか質素だ。


「ないよりかはマシだからね。どっちかの腕に装着して」

「でも、俺魔術使えないですよ」


魔術は使えない。使ったことがない。


目が覚めてからまだ一度も試したことがない。

自分が魔術を使えるのかどうかを。


だから、魔備を持っていたところで意味がないのかもしれない。


「わかんないよ、前みたいなイレギュラーがあるかもしれないからね」


確かに前世の俺なら魔術を使えるのだろう。

だから、魔備を持っていたのだ。

今の俺も、何らかの拍子で使えるようになってもおかしくはない。

一応、持っていて損はないだろう。



腕に魔備を装着する。

機械の様な、ロボットの様な腕になった。

指を動かすたびに、ガチガチ音を立てている。


多分、今回戦うことになったら、その時俺は死ぬ。

だからこそ、この街にまだ元凶がいないことを祈るばかりだ。


「まぁ、保険だよ。何かあったときのね。大体は私がいるから大丈夫…」


不安な俺の表情を読み取ったのか、先生は励ましてくる。

どこか自信がなさげだが。




「お、おい助けてくれ…」


そんな中、後ろから声が聞こえてくる。

サルの声だ。

振り向くと、彼は顔に煤を付け、疲れた表情でそこに立っていた。


「お、おい大丈夫か?」


俺の言葉と同時に、サルはその場へ座り込んだ。

へなへなと、腰が抜けるように。


「ちゅ、中心街だ。あそこに奴がいる」

「奴って誰だ? 街をこんなにした奴か?」


俺の言葉に、サルは顔を歪めた。

唇を強くかんでいる。


「ああ、そうだ。全身に機械を取り付けたロボットみてぇな奴だ。あいつは全員を殺した」


全身に機械、おそらく魔備を取り付けているということなんだろう。


この炎はやはり魔術の影響で、とある人間の仕業ということなんだろう。


というか、元凶はまだこの街にいることになるのか。

死ぬかもな。


「どこに行った? まだそこにいる?」


先生は焦った表情でサルに問いただす。

サルは縦に頷き、


「ああ、まだいる…いやわかんねぇ、もうわかんねぇ」


そう嘆いていた。








中心街へ先生と走り出す。

俺もついて行くはいいが、多分死ぬ。

出来るだけ、戦闘は先生に任せたいところだ。


とは言っても、全部投げ出すわけではない。

俺は俺の出来ることをしよう。


先生一人で向かわせるわけにもいかないからな。


走って行くたびに、炎はより街中へ広がっているのを目にする。


さっきまでいた人々も、焼かれて死んだか、逃げたかのどっちかだろう。

もう周囲に人影はない。


さっきまでパーティーをやっていた跡がそこら中に見える。

誰も、あの時はこうなるとは思っていなかった。

正直、俺も全然理解が追いついていない。


どうしてこうなったのかも分からないし、人が死んでいる実感も正直湧かない。

まだ脳みそが追いついていないのだ。


炎が駆け巡っている。

至る所に。


体中が熱い。汗も噴き出してくる。






中心街へ向かって、少し経ったある時だ。

とある広場、そこに抜けた。


そこに、奴はいた。


遠目からでも分かる。

異質な奴だった。


全身に魔備を装着し、顔すらも見えない。

全身が銀色に輝くそれは、まさしく機械のよう。

ロボットという言葉がよく似合う。

動くたびにガチャガチャと音を立てている。


機械頭だ。



その時だ、先生が瞬時に腰から短剣を抜いた。

両腕、両脚の魔備も光り出す。


奴は振り返る。

何かを察したかのようにこちらに視線を合わせる。


何かをボソボソと呟いた気がした。

だが遠くてよく聞こえない。


次の瞬間、先生は前へ飛び出す。


『加速』の魔術、『白雷』の魔術を展開。

雷鳴が辺りに響き渡る。

先生は一瞬にして、銀に光るそれまで詰め寄った。

三十メートルほどある場所へ一瞬で移動したのだ。


俺は、その瞬間を目で追うだけで必死だった。


突然の出来事に唖然とする。


次の瞬間、魔術がぶつかり合う、鈍い音が辺りへ犇めいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ