25本目×控え室と逆リハ
「1本、2本、3本……33本…」
朝、ベッドで目を覚ますと、すぐに枕についた抜け毛の数を確認する。
33本…、さ、散々…。
しかも、いつもより抜け毛の数が多い。
今日はライブ当日だというのに縁起が悪い…。
“グルグルグル…”
腹痛に襲われ、急いでトイレへ向かう。
本田さんがライブに来ることになり、腹をくくったつもりだったが、全然くくれていなかった。
腹をくくれず、腹を下している。
“ブー”
無意識におならをしてしまったと思ったら、ポケットに入れていたスマホのバイブ音だった。
“おはようございます!今日のライブ楽しみにしてます!”
スマホを確認すると、本田さんからメッセージが届いていた。
緊張と不安が増し、さらにお腹が痛くなる。
逃げたい…、逃げたい…、逃げたい…。
14時55分。
結局、腹をくくることも、逃げることもできず、ライブハウスに到着してしまった。
ライブは18時スタートだが、リハがあるので15時入りになっている。
“ドキドキドキドキ…”
控え室の前まで来たが、緊張でドアを開けられない。
このドアを開けてしまうと、もう逃げることはできない…。
“ドッドッドッドッ…”
心臓の音がどんどん大きく、そして早くなっていく。
落ち着こう…、落ち着こう…、落ち着こう…。
いや、ダメだ!
緊張や不安を無理やり抑え込むのは、逆効果だと聞いたことがある。
たしか、まずは緊張していることを受け入れたうえで、”ワクワクしている”や”楽しもう”と捉え方を変えればいいとかだったような…。
「真中、ワクワク!真中、ワクワク!」
おぉ!何だか緊張が和らいできたぞ!
もっと笑顔でやってみよう!
「真中、ワクワク!真中、ワクワク!真中、ライブ楽しみー!」
おぉ!めちゃくちゃ楽しくなってきた!
言葉にすることと、笑顔がポイントのようだ!
「真中、ワクワク!真中、ワク…」
「おい!真中!」
後ろから名前を呼ばれたが、振り返ることができない。
み、見られてしまった…。
「おい!真中って!」
恐る恐る振り返ると、松井が哀れな妖怪を見るような目で俺を見ている。
「お前…、大丈夫か?」
「み、見たな…」
「いや、見てない!早く入ろうぜ!」
松井は意外と大人で、見ていないことにしてくれた。
でも、その対応は、笑われるよりも恥ずかしい…。
アワアワしている俺を押しのけて、松井が控え室のドアを開ける。
「松井さん!お疲れっす!」
松井が控え室に入った瞬間、中にいたバンドマン10名ほどが、一斉に立ち上がり挨拶をする。
一体、松井はどんな立場なのだろう?
「お疲れ!今日はよろしくね!」
「うっす!」
バンドマンは、全員20歳前後に見える。
俺たちと比べるとかなり若い。
前髪が後退している俺は、場違いな気がする…。
でも、控え室の奥を見ると、無表情なおじさんが2人座っている。
よかった!おじさんは俺だけじゃなかった!
…と思ったが、よく見ると佐藤兄弟だった。
どうやら、おじさんはブラタイのメンバーだけのようだ…。
「真中と佐藤兄弟に紹介するわ!”キンリン・パーク”と”ランプ・ビズキット”の2組!どっちも大阪だと、そこそこ人気のバンドだぞ!ツーマンライブに、うちらがオープニングアクトで出演させてもらう感じだ!」
「私たちを含めてスリーマンではないのですか?」
佐藤兄弟の片方がスリーマンライブだと主張する。
眼鏡を右手でクイッと押し上げているのでドラムの先攻さんだ。
先週から始動したばかりで、今回が初ライブ、しかも松井のツテで出演させてもらうくせに主張が強い。
先攻さんは意外と自信家なのかもしれない。
リハのためにステージへ移動する。
天井がとても高く、壁際にはテーブルがあり、想像していたよりも広い。
「おい、松井!ここってキャパどのくらい?広すぎないか?」
「今日は150人くらいだってよ!」
ひゃ、ひゃ、150人!?
初ライブで、いきなり150人!?
ほらな…、だから松井に任せるのは嫌なんだ…。
「150人は無理だ!せいぜい50人くらいのキャパだと思ってた!」
「今さら無理とか無理!昔、300人のキャパでやったことあるし大丈夫だろ!」
「昔な!しかも、そんなに入ったのは1回だけな!」
はぁ…、もうやるしかないよな…。
ここまできて逃げる度胸もないし、やるしかないのならやるしかないか…。
真中、ワクワク!真中、ワクワク!真中、ライブ楽しみー!
「ワン、ツー、スリー、フォー!」
ドラムがカウントを出して演奏を開始する。
逆リハなので、最後に出演するキンリン・パークからリハが始まった。
キンリン・パークとランプ・ビズキット、そしてザ・ブラックタイガーのリハが終了した。
2組の演奏を見たが、正直、負けていないと感じた。
ドラムとベースのリズム隊の安定感、ギターのテクニック、そして曲のキャッチーさなどは、俺たちの方が優れていると思う。
ボーカルは、まぁ…、同レベルだろう。
だが、俺たちが明らかに劣っている部分がある。
それは…、ビジュアルだ…。
俺たちより圧倒的に若いうえ、2組ともイケメンが多い。
それに比べてブラタイは…、前髪が後退したボーカルに、細身で眼鏡をかけた管理人のようなドラムとベース…。
松井も若作りしているが、本物の若者と並ぶと厳しい…。
いやいや!音楽は見た目じゃない!
もう、やるしかない!
ザ・ブラックタイガーの音楽をぶちかまそう!
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