21本目×笑顔と真顔
「うわぁー!お祭りですかね?」
本田さんと2人でクライアント先に向かっている。
クライアント先の最寄り駅を出ると、沢山の屋台が並び、浴衣を着た人など多くのお客さんで賑わっている。
「直帰の予定ですし、帰りに寄っていきませんか?」
今日はクライアントの都合で、少し遅い時間の訪問になっている。
レポート報告が終わるのは、恐らく19時過ぎになるだろう。
「そうだな。せっかくだし軽く寄っていくか!」
「本当ですか!やったー!」
“行ってもいいよ”という感じで答えたが、内心めちゃくちゃテンションが上がっている。
仕事終わりに2人でお祭りだと?
これはもう完全に、で、デートだろ…。
報告をパパッと終わらせて、お祭りデートを楽しもう!
「ありがとうございました!失礼いたします!」
クライアントへのレポート報告を終え、本田さんと2人で会社を後にする。
時計を見ると、19時を過ぎている。
「これで今日の仕事は終わりですね!ではでは、お祭りに行きましょう!」
「はいはい」
はしゃぐ本田さんとお祭り会場まで行くと、来た時よりもお客さんが増えて混雑している。
“ドンチャドンドッチャ”
“ジャカジャーン”
“夏の色は青色だー青色は夏の色だー”
ステージでバンドが演奏している。
何だ?その変な歌詞は?
「バンドってカッコいいですよね!歌が上手いの憧れます!」
「本田さんは…、歌が下手そうだな…」
本田さんがバンドマンを褒める。
何だかモヤモヤし、つい意地悪を言ってしまう。
「そうなんですよ!分かりますか?人前だと緊張して歌えないんです!手が震えてマイクが歯に当たるんです!」
「それは上手いとか下手とは別の問題では…」
意地悪で言ったつもりだったが、本田さんは気づいていないようだ。
些細なことで意地悪を言う、自分の小ささが嫌になる。
気をつけよう…。
本田さんの痛そうな話を聞いて心配になり、念のため、横目で本田さんの前歯を確認する。
よかった。前歯は欠けていない。
「真中さん、なに食べますか?お腹すきました~」
「んー、たこ焼き…かな」
「いいですねー!じゃー、私は焼きそばにするんで、シェアしましょう!」
2人でお祭りに来て、たこ焼きと焼きそばをシェアだと?
まさか、こんなキラキラしたイベントが、俺の人生に残されていたとは驚きだ。
ニヤニヤするのを全力で我慢する。
「何でニヤニヤしてるんですか?早く買いに行きましょう!」
「べ、別に、ニヤニヤしてないけど…」
我慢できていなかったようだ…。
本田さんに急かされ、たこ焼きと焼きそばの屋台を探す。
「ありがとうございます!あとでリンゴ飴も買ってください!」
「図々しいな!」
“私が焼きそばを買います”と言っていた本田さんだが、結局、たこ焼きと焼きそばの両方を買わされた。
「もう、ここで立ったまま食べましょうか!」
「そうだな。座るところもなさそうだし」
「あっ!たこ焼きと焼きそば、両方持ってください!」
本田さんが持っていた焼きそばを押し付けてくる。
「なに?」
「お祭りで欲張る真中さんの写真を撮ってあげます!」
本田さんはスマホを取り出し、たこ焼きと焼きそばを持った俺にカメラを向ける。
「いや、遠慮しとくわ…」
「えー、撮りましょうよ!」
「嫌だ!撮られたくない!」
俺は写真を撮られるのが嫌いだ。
前髪が後退し始めてから、自分の姿を見るのも、自分の姿を残すのも嫌になった。
現実を見て、傷つきたくない…。
「そんなに嫌なんですか?」
「いや…、一人で撮っても仕方ないし…、遠慮するわ…」
「それなら…、い、一緒に撮るのは、どうですか?」
正面に立っていた本田さんが俺の左隣に移動する。
一瞬、フワッと良い香りがして、俺の左肩に本田さんの右肩が当たる。
本田さんが左手を伸ばし、スマホのカメラを構える。
「うん!これでいきましょう!」
“パシャ”
写真を撮られた。
“嫌だ”とも、”撮らないで”とも、言えなかった。
自分のコンプレックスよりも、本田さんと一緒に写真を撮りたかったのだと思う。
「真中さん、めっちゃ真顔じゃないですか!」
本田さんが笑いながらスマホをこちらに向け、撮影したばかりの写真を見せてくる。
そこには、満面の笑みの本田さんと、真顔の俺が写っていた。
やっぱり俺の前髪は後退している。
その現実は、変わらない。
でも、そんなことよりも、ただただ写真の本田さんが可愛い。
その現実の方が、俺には大きかった。
「あっ!真中さん、あれ見てください!」
突然、本田さんが何かを見つけ、俺の後ろを指差した。
後ろを振り返ると、壁に1枚のポスターが貼られている。
「19時半から花火があるみたいですよ!真中さん!行きましょう!」
それは花火大会のポスターだった。
本田さんと2人でお祭りに来て、屋台の食べ物をシェアし、一緒に写真を撮り、さらに花火大会だと?
これはもう、ニヤニヤするしかないだろ!
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