19本目×ティー休憩
俺は今、喫煙所でたばこを吸いながら、人生の岐路に立っている。
ぼんやりとニュースアプリを眺めていると、ショッキングなタイトルの記事が目に飛び込んできた。
“たばこと薄毛・抜け毛の関係。喫煙で頭皮の血行が悪くなる?”
前髪が後退し始めてから、抜け毛に関する文献を読み漁ったので、たばこが頭皮に悪影響なことは知っている。
知ってはいるが、仕事の息抜き、ストレス発散、喫煙所でのコミュニケーションなど、色々と理由をつけて吸い続けてきた。
だが、そろそろ目を背けるのをやめ、向き合う時なのかもしれない。
というのも、先日、新しく購入した育毛剤の効果が全く無く、それどころかさらに抜け毛の本数が増えてきている…。
このタイミングでこの記事が表示されたのは、髪の毛のためにそろそろ本気で禁煙をしろということではないか?
そうだよな…。きっとそうだ!
残りのたばこが無くなったら禁煙を開始しよう。
いや…、違うな…。
こうやって、後回しにするのはやめよう。
今、ここで始めるんだ!
そうだ!もう、この電子たばこの本体を捨ててしまおう。
それが手っ取り早い!
「すみません!」
電子たばこの本体をどこに捨てればいいのか分からないので、とりあえずたばこ屋のおっちゃんに尋ねてみよう。
「このアイコースの本体を捨てたいんですけど、どうやって処分すればいいか分かりますか?」
「えっ?捨てるの?故障?」
たばこ屋のおっちゃんが、不思議そうに尋ね返してくる。
「いえ、まだ使えるんですけど、今すぐ禁煙したいので捨てたいんです!」
「はぁ…、故障じゃないんだね?じゃー、誰かが使うかもしれないからもらっておこうか?」
「えっ?いいんですか?ありがとうございます!助かります!」
聞いてみるものだ。
捨て方を教えてほしかっただけなのに、思いがけず処分することができた。
これで禁煙を始められる。
何て幸先の良いスタートなんだ!
これは禁煙に成功したら、毛量爆増コースかもしれない!
テンションが上がってきた!頑張ろう!
禁煙を開始して5時間が経過した。
眠い…。
何だかとてつもなく眠い…。
“お昼を食べた後は眠いなー”とかいうレベルではなく、一瞬でも気を抜くと意識が飛びそうなほど眠い。
明日、訪問するクライアントの資料を作らないといけないが、眠た過ぎて全く進んでいない。
もう、パソコンの文字も見えなくなってきた…。
何だ、これは?
禁煙が関係しているのか?
「きゃっ!どうしたんですか?」
隣の席の本田さんが、俺を見て驚いている。
「何が?」
「いや…、白目むいてましたよ…」
「あー、そう…」
本田さんが何か言っているが、眠た過ぎて頭に入ってこない。
これはちょっと、まずいな…。
“禁煙 眠気 関係”
禁煙と眠気に関係があるのか、グーグールで検索する。
“禁煙すると、ニコチンの離脱症状として、眠気が生じる場合があります”
あぁ…、これだな…。
やっぱり禁煙が関係していた…。
“離脱症状のピークは3日間ほどで、その後2週間ほど続きます”
はぁ?ピークが3日間?その後も2週間?
いやいや、数時間でこの状態だぞ…。
これは…、もう…。
「うわぁー!真中さん!また白目!」
本田さんに肩を揺さぶられ、意識を取り戻す。
完全に意識が飛んでいた…。
「どうしたんですか?体調、悪いんですか?」
「へぇ?大丈夫…、大丈夫…」
「大丈夫には見えないですよ!そういえば真中さん、今日はたばこ行ってないですよね?休憩してきたらどうですか?」
本田さんが俺を心配し、たばこ休憩を勧めてくる。
まぁ…、そうだな、本田さんに心配をかけているし、仕事にも支障をきたしているので、不本意ではあるが1本だけ吸ってみるか…。
いや、ダメだ!これは罠だ!
俺は今、”髪の神様”に試されているんだ!
ここで”1本だけ”と言って吸ってしまうと、もう二度と禁煙できないような気がする。
今、ここで限界を超えるんだ!
「実は今日から禁煙してて、そのせいで睡魔に襲われてるのよ」
「そうだったんですか!禁煙すると眠くなるんですか?」
「ニコチンの離脱症状らしい」
「たばこ…、恐ろしいですね…。でも離脱症状ってことは、体からたばこが抜けてる良い状態ってことじゃないですか!頑張ってください!」
本田さんのポジティブな考え方と、明るい励ましで、少し眠気が和らいだ。
ここで頑張って、毛量80%増量を目指すんだ!
「たばこ休憩の代わりに、ティー休憩に行きません?」
「ティー休憩って何?」
「たばこ吸う人は何回も休憩に行ってズルいので、私も外の自動販売機でミルクティーを買ってティー休憩してるんです」
「へぇー、貴族みたいだな」
「そうですよ!お紅茶です、お紅茶!外に出ると眠気もマシになるかもしれないですよ」
「よし!ティー休憩に行くか!」
会社の入るビルを出ると、向かいに3台の自動販売機が並んでいる。
“ガシャガシャ”
本田さんと俺のミルクティーを購入する。
「真中さん、ありがとうございます!また、明日も奢ってください!」
「図々しいな!まぁ、俺がたばこを我慢できてたら奢ってあげるわ」
「えっ、冗談で言ったのにいいんですか?」
「たばこ1箱600円近くするからね。禁煙して浮いたお金でお紅茶を買おう!たばこと比べると全然安いし!」
「いぇーい!絶対に禁煙成功させてください!」
外に出たことで眠気は少しマシになったが、まだ頭がぼーっとしてモヤがかかったような状態だ。
自分が何を言っているのか、自分でもよく分からない。
「本田さんとティー休憩ができるなら、絶対に禁煙を成功させるよ」
「えっ?ま、真中さんもそんなに、ミルクティー、す、好きだったんですか?」
「んー、ミルクティーを美味しそうに飲んでる本田さんが好きかな」
「なな、何ですか、急に!どうしたんですか?」
「別に思ったことを言ってるだけだけど」
あれ?何か変なことを言ったかな?
本田さんが耳を真っ赤にして、うつむきながらミルクティーを飲んでいる。
何だろう?自分が何を言ったのか思い出せない。
ニコチンの離脱症状、怖ろしい…。
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