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17本目×イメージトレーニング

「真中さん、ちょっと来て!」


朝のミーティングが終了し、自分の席に戻ろうとすると、部長に呼び止められた。


「何でしょうか?」

「本田さんの教育係のことなんだけど、もうすぐ3ヶ月になるわよね?どんな感じ?」


ゴールデンウィーク明けに教育係を任され、もう8月に入っているので、確かに3ヶ月が経とうとしている。

最初はエクセールもパワーポも使えなかった本田さんだが、今では1人でレポートを作成できるようになった。

Webマーケティングについても、検索広告やSNS広告の少額運用、小規模サイトのアクセス解析、LPのヒートマップ解析など、基本的な部分は理解できている。

この3ヶ月で本当に成長した。


「広告の管理画面もGAも見れるようになりましたし、少額予算のクライアントならもう1人でレポートを作れます」

「そう、順調そうね!クライアント先でのレポート報告も彼女1人で対応できる?」

「報告ですか…」


本田さんは人前が苦手で、必要以上に緊張してしまう。

最初はクライアント先を訪問するだけで緊張していたが、今ではクライアントと普通に会話ができるようになった。

でも、クライアントの前に立ち、1人でレポート報告をするのは無理だ。

以前、レポートの一部の報告を任せたことがあるが、クライアントの前に立った途端、目がグルグルと回りだし、膝がガクガクと震え、全く報告にならなかった。


「まだ本田さん1人では難しいですね。クライアントの前に立つと緊張してしまうので、フォローしながら少しずつ慣れてもらうしかないかと…」

「彼女にレポート報告を何回くらい任せた?」

「1回だけです…」

「それは少ないわね…」


レポート報告を任せなかったのは、フォローするのが大変というのもあるが、本田さん自身がレポート報告を嫌がり、俺も”まだ、いいよ”と甘やかしていたからだ。

でも、それだと本田さんは成長しない。

苦手なことにも挑戦してもらい、失敗した時はフォローする。

それが教育係のあるべき姿だった…。


「すみません。もっと任せて経験してもらうべきでした。本田さんの教育係は3ヶ月で終了ですか?」

「そうねー、今の状態だと独り立ちは無理でしょうし、期間を延長しましょうか。特に人が足りてない訳でもないので、年内は教育係をお願いしようかしら」

「ありがとうございます!」

「あら、嫌がらないの?教育係をお願いした時は、面倒くさそうにしてたのに!」


決められた期間で一人前にできなかったことを怒られるかと思ったが、教育係の期間が延長されるという形であっさりと終わった。

そして、部長は俺の変化を見抜き、からかってきた。


「いやいや、新人の教育係なんて面倒くさいですよ!」

「そう?何だかいつも2人で楽しそうにしてるの知ってるわよ!」

「本田さんに合わせてあげてるだけですよ!これからはもっと厳しくします!」

「別に今のままでいいわよ!私は良いコンビだと思ってるし!あっ、でも年内には1人で業務ができるようにしてね!本田さんが可愛いからって、教えずにずっと一緒にいようとか思ってない?」

「お、思ってないですよ!年内に立派なコンサルに育てます!失礼します!」


部長との会話を無理やり終わらせ、逃げるように自分の席に戻る。

正直、ずっと本田さんの教育係でいたいが、そういう訳にはいかない。

早く一人前になってもらうために、今日から気持ちを引き締めてやっていこう。


「本田さん、ちょっといい?」


隣の席の本田さんに声をかける。


「はい!大丈夫です!」


本田さんの返事は、いつも清々しい。


「そろそろ1人でクライアントを担当できるように、今日からスパルタでいくのでそのつもりで!」

「えー!突然、どうしたんですか?」

「レポート作成はある程度できるようになったけど、クライアント先での報告はまだ全然できないだろ?レポート報告もできるように頑張ろう!」

「えー、嫌です!ぶーぶー!ぶーぶー!」


元気で清々しい返事をしていた本田さんが一転、不貞腐れてブーイングをしてくる。

さすがアメリカに留学していただけのことはあり、本場さながらの大ブーイングだ。

でも、ここで甘やかしてはいけない。


「ブーイングしないの!次したらビンタな!」

「あー、パワハラだ!ぶーぶー!」

「ビンタは冗談だけど、厳しくはするよ!苦手なことにも挑戦していこう!」

「えー、本当にどうしたんですか?」


本田さんは、納得できない様子で、まだ不貞腐れている。

そんな本田さんも可愛いが、ここで負けてはいけない。


「もうすぐ本田さんの教育係になって3ヶ月だろ?もともと3ヶ月って期間が決まってたの!だから早く本田さんには一人前になってもらわないと!言ってなかったっけ?」

「え…、初めて聞きました…」

「そういう訳なので、ペースを上げていこう!」

「そうなんですね…。分かりました…」


さっきまでブーイングをしていた本田さんだが、急にすんなりと受け入れてくれた。

どうしたのだろう?

少し元気がなくなったように見える。


「どうした?大丈夫?」

「大丈夫です!一人前になれるように頑張りますね!」


笑顔で返事をする本田さん。

元気がなくなったように見えたが、どうやら気のせいだったようだ。

本人もやる気になったようだし、早速、次に訪問するクライアントから本田さんに任せていこう。


「よし!次に行く堺東のクライアントは、本田さんがレポート報告をしようか!」

「はい!」


堺東のクライアントは、もう何度も訪問しているし、担当の方も本田さんのことを可愛がってくれている。

こういうところから経験を積んでもらおう。




「レポートできました!」


堺東のクライアントのレポートを、本田さん1人で作成してもらった。

自分で作ったレポートなら、内容も分かるし、報告もしやすいだろう。

念のため、レポートの内容を確認する。

数値結果は正しいし、数値が変化した要因や改善施策も問題ない。


「よし!大丈夫!この内容でいこう!」

「はい!ありがとうございます!」

「じゃー、ここからはレポート報告の練習をしよう!俺を担当の福井さんだと思って、できるだけリアルにイメージしてね!」


本田さんと向かい合って座り、本番さながらにレポート報告をしてもらう。


「はい、スタート!」

「え、えーと…、いつも真中さん、最初に何て言ってましたっけ?」

「最初?何か言ってるか?」

「何ていうか…、開幕宣言みたいなのです!」

「そんなの言ってないぞ…」

「言ってますよ!”ただ今より開幕します!”みたいなのです!」

「”では、レポート報告をさせて頂きます!”みたいなの?」

「そうです!それです!」


一言目からこれだと、かなり時間がかかりそうだ…。

入り方なんて何でもいいと思うが、慣れていないと分からないのかもしれない。

面倒くさいと思わずに付き合おう。


「よし、気を取り直してやってみよう!ちゃんとリアルにイメージしてね!スタート!」

「はい!それでは、レポート報告をさせて頂きます!まず7月の総CV数ですが、前月よりも13件増加し、月の予算は変わらなかったためCPAが大きく改善しています!」


よどみなく報告をおこなう本田さん。

これくらいできれば上出来だ。

だが…、クライアント先でも同じようにできるかは怪しい…。

いや、絶対にできないだろう…。


「はい、ストップ!ストップ!」

「何ですか?いい感じでしたよ?」


止められた理由が分からず、不服そうにする本田さん。


「いい感じすぎる!俺のこと福井さんだとイメージしてた?」

「真中さんですね…」

「だろ?もっとリアルにイメージしよう!とりあえず、俺が福井さんに見えたら教えて!」

「はい!見えました!」

「よし!場所もクライアント先の会議室に見えてるか?」

「はい!見えています!」


何だかブラック研修みたいになってきたが、本番をリアルにイメージして練習しないと意味がない。

これも本田さんのためだ!

もっとテンションを上げて、早く一人前になってもらおう!!


「よーし!じゃー、もう一回やってみよう!スッターーーートゥオ!!!!」

「そそ、それでは、れれれ、レポート報告をちゃせて…」


本田さんの口調から、緊張が伝わってくる。

耳も真っ赤になっている。

いいぞ!これはリアルにイメージできている証拠だ!!


「ままま、まず7月…7月…7月の、のの…」


本田さんの瞳がグルグルと回り始め、レポートを持つ手がブルブルと震えている。

よし!完璧だ!完璧にイメージできているぞ!!


いや…、これはダメだろう…。

この練習の目的は、本田さんが1人でレポート報告をおこなえるようになることだったはずだ。

それなのに本番をリアルにイメージすることが目的になっていた。

リアルにイメージはできたが、本田さんはめちゃくちゃ緊張している。

これだと本当にただのブラック研修だ。


「ごめん、本田さん…。俺が間違っていた!いつもの本田さんに戻ってくれ!!」

「あれ…?私は一体…、ま、真中さん…?」


心からの謝罪が伝わったのか、本田さんが正気を取り戻した。


「ごめん、俺が焦りすぎてた。もう少し余裕を持ってやろうか。すぐにできなくても、できるようになるまで俺がフォローするから!だから安心して!一緒にやっていこう!」

「は、はい…」


早く一人前になってもらおうと焦りすぎて、本田さんの気持ちを全く考えていなかった。

本田さんが一人前になるまで、寄り添って一緒に頑張りたい!

正気に戻った本田さんだが、まだ耳は赤いままでうつむいている。

本当に悪いことをした…。

お読みいただき、ありがとうございます!

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