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15本目×ギャル男

「お前、その子のこと好きだろ?」


浦野がニヤニヤしながらこちらを見ている。


「そ、そんなはずないだろ!」


自分でも気づいていなかった気持ち。

正直、気づきたくなった気持ち。

俺は…、本田さんのことが…、す、好きなんだ…。


「お前とは30年の付き合いだからな!そんなのすぐ分かるわ!」


しかも、浦野にあっさりと見抜かれてしまった…。


「ん~どうでしょう?」

「えぇ!?監督!?今さら?若い子は知らないだろ…。お前もおじさんになったな…」

「そうだよ!おじさんなんだから、す、好きになっても、相手にされる訳ないだろ!」

「そうか?それってあなたの感想ですよね?」

「うるせーよ!」


感想もクソもない…。

本田さんは大学を卒業したばかりの22歳だ。

しかも、会社で一番の美人で、学生の頃はモデルをしていた。

そんな子を好きになるなんて無謀すぎる…。

もうすぐ35歳で、しかも…、こんな、か、髪型の俺が相手にされる訳がない。

普通に考えれば分かることだ…。


「何か色々と気にしすぎじゃない?そもそもお前、いつから彼女いないよ?大学の頃のサキちゃんが最後だろ?」

「そうだけど…」


大学生の頃、”サキ”という子と付き合っていた。

浦野も何度か会ったことがある。


「サキちゃん、めっちゃ可愛かったよな!何で別れたんだっけ?」

「10年以上も前のことだから忘れた!たしか…、俺が大学を留年してヘラヘラしてたからかな!」


俺は大学を2年も留年し、卒業できたのは24歳の時だ。

サキとは同い年だったけれど、俺よりも先に大学を卒業し、社会人になった。

社会人になって環境も出会う人も全てが変わったサキと、大学を卒業できずに学生のまま変わらない俺。

段々と話も合わなくなっていった。


「私は早く結婚して母親になりたいの!でも、あなたとは考えられない!」


もう、顔もぼんやりとしか思い出せないけど、最後に言われた言葉は鮮明に覚えている…。


「学生の頃はモテてたのに!中学から途切れず彼女いただろ?それがサキちゃんと別れてから10年以上も彼女がいないって…、サキちゃんのこと引きずってるの?」

「そんな訳ないだろ!もう顔も思い出せないし!まー、何と言うか…、学生の頃と社会人になってからだと違うのよ!」


大学を2年も留年すると、やっぱり就職活動で苦戦する。

留年を突っ込まれ、不採用の連続だった。

何とか小さな医療機器メーカーから内定をもらい、大学卒業後、その会社で営業として働き始めた。

でも、仕事に身が入らず、1年で辞めてしまった。

その後は、飲食店に転職したり、工場に転職したりと、職を転々とすることになる。

仕事や環境を変えても、”何か違う”と気持ちが入らず、結局、また仕事を辞める。

そんなことを繰り返しているうちに、自己肯定感はどんどんと下がり、自分に自信を持てなくなった。

20代の頃は自分のことで精一杯で、彼女を作る余裕なんてなかった。

30歳の時に入った今の会社で、やっと自分に向いている仕事に出会えた。

仕事で認められ、自信も回復していった。

でも…、今度は抜け毛が増え始め、前髪がみるみる後退していった…。

前髪の後退という外見の変化は、回復した自信を失わせるのに十分だった。

常に人の目が気になり、人と関わるのが怖い…。

社会人になってからの約10年、こんな感じで自分に自信を持てないでいる。


「あっ!そういえば良いもの見せてあげよう!最近、昔のアナログ写真をアプリでデジタル化してて、真中の写真もあるから送ってあげるわ!」


“ブーブー”


スマホを取り出してライーンを開くと、浦野から1枚の写真が届いていた。

金髪で前髪と襟足が長い髪型、真っ黒に焼けた肌、ジャラジャラしたピアスとネックレス、タイトなTシャツ、派手でチャラいギャル男が、たばこを咥えながらピースをしている写真。

これは…、大学生の頃の、俺だ…。


「うわぁー!チャラいなー!しかも、時代を感じるな…。黒歴史ってやつだわ…」

「めっちゃギャル男だろ?ライブの時の写真もあるぞ!」


浦野からさらに1枚の写真が送られてきた。

さっきのギャル男がライブハウスのステージで歌っている写真だ。

俺は、高校生の頃から大学を留年するまで、ミクスチャーロックバンドのボーカルをやっていた。

写真には他のバンドメンバーも写っている。

ギターもベースもドラムも、メンバー全員がギャル男だ…。

何だ…?このバンドは…。


「ミクスチャーロックなのに、メンバー全員がギャル男って…。今になって思うと意味が分からんな…」

「俺はストリート系だったけど、この頃はギャル男だらけだったからな!そういう時代だろ!バンドの人とはまだ繋がりあるの?」

「ギターの松井だけちょくちょく会うよ。あいつも大阪に住んでるから。松井は今もバンドやってるぞ!」

「すげーな!バンド一本?」

「いやいや、サウンドクリエイターの仕事しながら、週末に趣味でバンドって感じ」

「かっけーな!サウンドクリエイターって何?」

「詳しくは分からん!松井は音楽の専門学校を出てるし、昔から作曲とかもできたからな。何かそんな感じの仕事だろ!」


バンドの話をしている間も、浦野から次々と学生時代の写真が送られてくる。

思い出補正もあると思うが、学生の頃の自分はキラキラしていて、何だか見ているのが辛くなってきた…。


「何か別人みたいだよな?昔はモテてたのに、今はモテそうにない…。顔自体は昔からイケメンの部類で、今もそんな変わらないのにな。何が変わったんだろう?」


浦野が俺の顔をまじまじと見て考えている。


「髪型だろ!前髪の毛量だ!でこの広さだ!」


普段の俺は、自分から髪の毛の話をすることは一切ないし、髪の毛のことには触れるなというオーラを全身から放ちながら生活している。

でも、幼馴染の浦野は別だ。

浦野になら髪の毛のことを自虐的に話せるし、どれだけいじられても気にならない。


「このギャル男が10年後にそんな髪型になるとはな!現実は小説より奇なりってやつだ!まー、前髪のことは残念だったよ!お悔やみ申し上げます!」


浦野は俺の髪の毛の話が大好きだ。

昔の写真と今の俺を見比べて、腹を抱えながら爆笑している。


「でもさ…、そこじゃないんだよな!」


爆笑していた浦野の顔が、急に真面目になった。


「変わったのは表情だよ!昔はもっと明るかったし、何か自信満々だったぞ!それが今は自信なさげというか…」


浦野が言っていることは、自分でも自覚している。

学生の頃は何の根拠もなく自信満々で、自分は特別な人間だとすら思っていた。

バンドを組んでいた時は、”音楽で食っていくんだ!”と言って、本気でメジャーデビューを目指していた。

でも…、違った…。

自分は特別でも何でもなかった…。


「バンドでもプロになれなかったし、社会人になってからも転職を繰り返して、20代は挫折しかしてないからな…。そりゃ自信もなくなるだろ…」

「転職を繰り返したのは、音楽をやめてからやりたいことが見つからなかったからだろ?今はちゃんと専門的な仕事してるし、もうちょっと自分を認めてあげてもいいんじゃない?」

「そうだなー。仕事はちょっとずつコンプレックスみたいなのは無くなってきたかな。でも…、ほら…、髪の毛がさ…」

「気にしすぎだろ!誰もそんな気にしてないって!」


浦野は俺を励ましながら、また腹を抱えて爆笑している。


「俺の知り合いに、スキンヘッドだけど自信満々で、めっちゃモテるおじさんがいるけど紹介しようか?その人に弟子入りしろよ!」

「嫌だよ!面倒くさい!」


浦野は、俺の髪型を遠慮なくいじってくる。

でも、こんな風にコンプレックスを素直に話せる友達の存在は有難い。

確かに気にしすぎだったかもしれない。

何だか心がスッと軽くなった。


「で、話戻るけど、新卒の子のこと好きだよな?」

「ん~どうでしょう?」

お読みいただき、ありがとうございます!

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