14本目×早口
神戸市北区の駅。
神戸と言えば海のイメージが強いが、北区には山と田んぼしかない。
電車の窓から見える景色は、ほぼ全てが緑色だ。
電車から降りると、まず空の広さに驚く。
高い建物が多い都市部で生活していると、空が広いことを忘れてしまう。
大阪梅田から電車で約45分。
俺は、神戸市北区にある、山と田んぼに囲まれた新興住宅地で育った。
そして、今日は週末の休みを利用し、友達に会いに地元に帰ってきた。
“着いた”
“ロータリーにいる”
駅に着いたことをチャットで知らせる。
改札を出るとロータリーがある。
見慣れた黒のミニバンを見つけ、助手席のドアを開ける。
「よう!久しぶり!」
「おっす!よく来たな!」
約2ヶ月ぶりに浦野と再会する。
浦野は実家が近所で、小学校から高校まで同じ学校に通っていた幼馴染だ。
何だかんだで、もう30年近い付き合いになる。
俺は大学に進学して地元を出たが、浦野は高校卒業後、地元の工場に就職した。
地元を出てからも2~3ヶ月に1回は浦野に会いに地元に帰ってきている。
「まなかー!久しぶりー!」
満面の笑みの女の子が、後部座席のチャイルドシートに座っている。
浦野の娘の”海ちゃん”だ。
たしか、4歳だったと思う。
「おー、海ちゃん!大きくなったな!」
「なってないわ!」
赤ちゃんの頃から知っているが、最近、少し生意気になってきた。
でも、それが可愛かったりもする。
「とりあえず花買って、お墓参りに行くだろ?」
子供の頃、俺も浦野も犬を飼っていて、よく一緒に近所の公園を散歩した。
亡くなってからもう20年近くになるが、今でも半年に1回は動物霊園にお墓参りに行っている。
動物霊園の共同墓地。
買ってきた花と犬用のお菓子を供え、手を合わせて目を閉じる。
隣で海ちゃんも見よう見まねで手を合わせている。
「まなかー、抱っこしてー!」
7月に入り、今日はとても暑い。
飲み物を買いに行った浦野を待っている間、海ちゃんの面倒を見る。
4歳にもなると、抱っこをするのが結構辛い。
浦野が戻ってきた時には、もう腕がプルプルになっていた。
「海を家に連れて帰って、車も置いて飲みに行くか!今日は実家、泊まるの?」
「いや、旅行に行ってて誰も居ないらしい。駅前のホテルに泊まるわ」
製薬会社に勤めていた親父が定年退職してから、両親2人でよく海外旅行に行っている。
仲が良いのは結構だが、帰ってきた時に泊まれないのは不便だ。
浦野の家で奥さんに海ちゃんを預けて、浦野と2人で駅前の居酒屋に来た。
全国どこにでもある焼き鳥のチェーン店で、少し狭めのテーブル席に案内される。
焼き鳥と枝豆、コークハイと生ビールを注文し、お互いの近況を報告し合う。
「たまに保育園に迎えに行くけど、断トツで海が可愛いわ!」
「相変わらず、親バカだな!」
「海は天使よりも天使!妖精よりも妖精!」
「相変わらず、バカだな!」
浦野は海ちゃんを溺愛しているので、海ちゃんがいかに可愛いかという話ばかりだ。
少しだけ仕事や奥さんの話もするが、特に何の変化もないようだ。
「お前は最近どうなの?」
「仕事で新卒の教育係になったな」
「教育係って何するの?」
「資料の作り方教えて、一緒にお客さんのとこ行ってる。OJTってやつ?」
「新卒は男?女?」
「女の子」
「おぉー!いいやんいいやん!可愛い?」
「んー、可愛いのは可愛いかな。モデルとかしてたみたいだし」
「おぉー!いいやんいいやん!」
右手に焼き鳥、左手にビールジョッキを持って、浦野がはしゃいでいる。
「可愛いと言っても別に仕事だし!それに22歳だぞ!向こうからすると完全におじさんよ!何も起こらんって!」
「そう?」
「そりゃそうよ!そもそもちょっと変わった子で大変だから!黙ってれば美人なのにふざけたことばっかり言ってるし!いっつも俺のこといじって笑ってるわ!ちょくちょくタメ口で話してきて、この前なんて帰るときバイバイって言われたぞ!そのくせ変なとこ気を遣うし、やたら緊張するし、何そのギャップは?そんなギャップいる?みたいな感じで本当に大変よ!」
あれ…?俺はもう酔っているのか…?
めちゃくちゃ早口で話してしまう。
もしかして…、これって…。
「お前、その子のこと好きだろ?」
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