10本目×モデル事務所
仕事が一段落したので、気分転換に喫煙所へ向かう。
ビルを出て外を歩いていると、自動販売機の前で本田さんがジュースを選んでいる。
近づいていくと、こちらに気づいた。
無邪気な笑顔で手を振ってくる。
「真中さん!ジュース買ってください!」
「何で?」
「前に真中さん言ってましたよね?本田さんは頑張ってて、成長してるって!しかも可愛いって!だからそのご褒美です!」
「可愛いとは言ってない!」
「買ってくれないんですか…?」
ウルウルした瞳と上目遣いで、可愛さを武器に”奢れ!”と訴えてくる。
悔しいが、か、可愛い…。
「仕方ないなー。どれがいいの?」
「いいんですか!やったー!私の可愛さの勝利ですね!」
本田さんが選んだ梅入りソーダと、自分のブラックコーヒーを買う。
「どこに行くんですか?」
「喫煙所」
「あそこのたばこ屋さんの前ですよね?」
「うん。もうあそこにしか灰皿がないのよ」
「わ、私も行きます!」
たばこ屋の前にパーテーションと灰皿で簡易的に作られた喫煙所。
昼休みの時間帯は混雑しているが、今は俺と本田さん以外に誰も居ない。
「そのたばこ、何ですか?」
「電子たばこ」
「初めて見ました!いい匂いですね!」
「グレープ味だからね」
「この写真見てください!」
本田さんと話していると、コロコロと話題が変わる。
いきなり違う話が始まるので、最初は変わるたびに突っ込んでいたが、もう突っ込むのも面倒なのでスルーしている。
「何の写真?」
「友達に彼氏ができたんです!」
「へー」
「もともと大学が一緒だったらしいです!」
「そうなんだー」
「興味なさそうですね?」
「バレたか!でも、学生の時に同年代の相手を見つけとくのは正解だと思うよ!」
「そうなんですか?」
「そんな気がする。共通の話題とか多いだろうし!」
「年が離れているとダメなんですか?」
「別にそういう訳ではないけど…」
「私は…、年上でも…、だ、大丈夫ですよ?」
本田さんはうつむいて、耳を真っ赤にしている。
照れたような雰囲気の本田さんを、少し前から見るようになった。
これは一体、何なのだろう?
もしかして…、そういうことなのだろうか…。
いやいや…、それはないだろう…。
本田さんとは12歳も離れている。
本田さんからすると、俺なんてただのおじさんだ。
それに…、前髪もこんなに後退している…。
冷静に考えると、絶対に俺の勘違いだ!
俺にそんなことが起こるはずがない!
でも…。
「真中くんと本田さん、お疲れ!」
喫煙所に小山さんがやってきた。
もう少し本田さんの様子を伺いたかったのに邪魔なやつだ。
「あれ?何か空気おかしくない?何の話をしてたの?」
このおじさん、無駄に鋭い…。
「私の友達に彼氏ができたって話です!」
「それはめでたいね!ガハハ」
「これ写真です!」
「めっちゃ可愛い子!学生の頃の友達?」
「大学の時のバイトが一緒だったんです!」
「何のバイト?可愛い子ばっかりだな。俺もそこで働きたい!ガハハ」
「モデル事務所に入ってたんです」
「本田さん、モデルやってたの?」
「モデルって言ってもファッションサイトとかカタログとかそういうのですよ!有名なファッション誌に載るようなのじゃないです。本当にバイトって感じです!」
「それでも凄いよ!真中くん、知ってた?」
「初めて聞きました!凄いな!何で今まで教えてくれなかったの?」
「そ、そんな自分からモデルやってたとか言わないですよ!えへへ」
社内でも美人でスタイルがいいと評判だが、まさかモデルをしていたなんて驚きだ。
小山さんのお陰で、本田さんの凄い一面を知れた。
仕事を終え、帰宅する。
ソファに寝転がり、テレビをつける。
特に見たい番組はやっていない。
スマホでブラウザを開き、何となく”本田舞香”と検索してみる。
モデル事務所のWebサイトに、本田さんのプロフィールページがあった。
まだ事務所に所属しているのだろうか。
プロフィールページには、ファッションサイトに載っているような写真や、企業のカタログに載っているような写真など、モデルとして活動する本田さんの写真が何枚も掲載されている。
その中に、化粧品の写真だろうか、本田さんの顔をアップで撮った写真があった。
真っ赤な口紅が印象的で、大人っぽい表情をしている。
同じ世界の同じ人間とは思えないほど綺麗だ。
本当にモデルをしていたんだな。
俺の知っている本田さんと全然違う…。
俺の知っている本田さん?
俺が本田さんの何を知っているというのだろう。
教育係として1ヶ月ほど関わっただけだ。
そもそもこの関係がなければ、本田さんが俺なんかと関わることはない。
何を考えていたんだ…。
面倒くさい…。別にどうでもいいや…。
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