ホソホソ村の美人さん
美しくありたい。
その美しさは誰が決めたのでしょう。
ある山の頂上に名もなき地蔵が祭られていた。
麓に村が二つもあるにも関わらず、もうずいぶんと誰一人その地蔵を訪れていない。
ある日、地蔵の前に一人の女が現れた。
華奢なホソホソ村で一番の美人だ。
彼女は毎日のように結婚を申し込まれ、外に出れば男たちに囲まれ、自由に散歩すらできなかった。
また彼らの期待に応えるために、彼女は食事を減らし、瘦せていなければならなかった。
そんな日々を終わらせて、自由になりたい。自由に魚を食い、外を歩きたい。
そう願うために地蔵を訪れた。
地蔵の前に立ち、彼女は添え物を持ってくるのを忘れていることに気づいた。
どうしようかとあたりを見回していると、崖の端に黄色い花を見つけた。
華奢な美人はその花を取ろうと手を伸ばし、足を滑らせてしまった。
気が付くと彼女は、家の中にいた。
目の前には丸々と太った女がいた。ホソホソ村にはこんな女はいない。
ここはどこかと尋ねると、ホソホソ村の山を挟んだ向かいにあるフトフト村だった。
太った女は美人を見て、病気なのかと尋ねた。彼女は違うと答えた。
華奢な美人は女に礼をいい、家を出て、そこで彼女は目を丸くした。
村を行きかう人々はみな女のようにまるまると太っていたからだ。
茫然と立っていると一人の男が彼女に声をかけた。
あぁまた結婚か。そううんざりとしながらも彼女は笑顔をつくり男に応じたが、男はこう言った。
あんた、病気かい?
今まで男から言われたことのない言葉に華奢な美人は豆鉄砲をくらった鳩が如く驚いた。
華奢な美人はその男に訊いた。この村で一番の美人は誰なのか、と。
男に案内された家から出てきたのは、村の誰よりもまるまると、大木のように太った女だった。
大木のような女が美人。そしてここでは自分は病気。
途端に華奢な美人は、自分がばかばかしくなり、村に帰ると、すぐに脂ののった魚を食べた。
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