40.職人の家で
なぜか俺たちは、爺さんの店で寝泊まりすることになった。
店は自宅を兼ねていたようで、独り暮らしの爺さんの部屋以外は、空き部屋なんだそうだ。
客間を2つ借りて、修行中はそこで過ごすことにした。
宿代も浮くから、ありがたいと言えばそうなのだが。
部屋を借りる代わりに、爺さんの食事も一緒に作ることになった。
ふむ、俺の腕の見せ所だな。
武器は明日には修理が終わると言われた。
ま、爺さんの家だけど、今日はのんびり過ごすことにするか。
3人で街を見ながら夕食の買い物をした。
北国ならではの魚や果物が並ぶ。
野営以外で料理するのは久しぶりだ。
「わ、お魚なんて久しぶりだな~。
私ムニエルが食べたい!」
「おお、いいぞ~。
付け合わせはこの野菜にしよう」
「この果物なんだろうか?
いい匂いだな」
北国の街の雰囲気を感じながら買い物を終え、爺さんの家に戻る。
さ、ここからは俺の時間だな。
爺さんは普段から料理をするようで、調味料や調理器具は一通りそろっていた。
アリスのリクエストのムニエルは、焼き立てがいいから最後にするとして。
野菜の下ごしらえから取り掛かる。
それと、スープも欲しいよな。
少し肉を入れようか。
パンはいつものバゲットに、チーズはお好みで、かな。
「リュカ~、ご飯できた?
いい匂いだから覗きにきちゃった」
アリスがひょこっとキッチンに顔を出す。
「おー、もう少しだよ。
あ、皿を並べるの手伝ってくれるか?」
「いいよー」
へへへっ、何かいいな。
俺たち同棲したら、こんな感じーー?
なんちゃって!!
「お、もう飯か~?」
外で爺さんに頼まれて薪割りをしていたらしい、ロランも入ってきた。
爺さんを呼んで4人で食卓を囲む。
「今日のメニューは、白身魚のムニエルに野菜のグリル。
ミートボール入りのトマトスープとバゲットだ。
チーズは好みでつけてくれ」
「わぁ、おいしそ~~!」
「ああ、ホントだ!
料理人も顔負けだな」
「ふん、小僧が料理をするとはな」
口々に感想を述べて食事に口を付ける。
「わぁ~、このお魚とっても美味しい
臭みも全然ないし、柔らかくてバターの香りも豊かね」
「ミートボールもうまいな。
スープなのに食べ応えがある」
「・・・・・」
爺さんは喋らない。
「爺さん、どうした?
もしかして、固くて食えないとか?」
「馬鹿にするな!
食えるわい!
それにわしは爺さんじゃない!
スタンリーじゃ!」
そういってガツガツと食べ始めた。
何だよ、変な爺さんだな。
「おいしかったぁ~、ご馳走様!」
「あ、そうだ。
ロランが選んだ果物、食べてみようぜ」
濃い紫色の小ぶりの果物。
そのままでも食べられると聞いたので、それぞれの前に1つずつ置く。
スモモみたいな感じかな?
いい香りだ。
「どれどれ・・・・・」
ロランが一口食べる。
「私も~」
アリスも食べる。
『・・・・・』
妙な間。
え、2人ともどうした・・・・??
「すっぱぁあああああい!!!」
アリスが顔をしかめて水を飲む。
ゴホッ、ゴホッとロランが咳き込む。
「なんだって?」
俺も一口食べてみる。
ぐえっ、かなり酸っぱい!
「カッカッカッ」
スタンリー爺さんが笑う。
「これはレイドジェリーといってな、香りの出ているものほど酸味が強い。
こんなに強く匂っていたら、それはもうかなり酸っぱいじゃろ」
「そうなんですね・・・・」
渋い顔をしてロランが言った。
アリスはまだ涙目だ。