37.アスタノースを目指して(4)
街について宿を探す。
アスタノースとエストゥルードの中継地なので、そんなに大きな街ではない。
冒険者や商人が多いからか、宿屋やレストランが多くあった。
安宿でも、野営よりはありがたい。
ロランの剣は手入れはしていても、大分切れ味が落ちて来ているようだ。
俺の弓も、そろそろ新しい物にしたい。
アスタノースには職人が多いらしく、武器屋がそういった職人を紹介してくれることもあるそうだ。
と、宿で食事をしているだけで、そういった情報が入ってくる街だった。
支度を整え、明日の出発に備える。
あ・・・・そういや、あのオーブ道具屋に持ってくの忘れた。
あれから変な声もしないし、一体何だったんだろうな?
街を出る。
今日のうちにはアスタノースに着くだろう。
一本道には馬車や冒険者の姿が多い。
避暑に向かう観光客らしい姿もチラホラある。
しばらく歩いた後、
「ここが国境だな」
ロランがつぶやく。
アスタノースの国境には堅牢な門があって、出入りする人間は厳しい検査を受ける、とそういえば昨日宿で聞いた。
アスタノースの兵士が俺たちを1人1人調べていく。
別にやましいことは何もないが、なんか緊張するな。
「お前、これは一体何だ?」
後ろで兵士の厳しい声がした。
アリスを調べている兵士だ。
一体何に引っかかったんだ?
ちらと後ろを振り返ると・・・・
あのオーブだ。
兵士が取り上げている。
「これは・・・・・
昨日ダンジョンで拾ったものです」
「こんなもの見たことないな。
魔力のこもった爆弾などではないだろうな?」
「そんな・・・・とんでもない!
本当にダンジョンで拾ったんです!」
アリスの焦った声がする。
あの兵士め・・・・・
難癖つけてきやがった。
「得体の知れないものだ。
これを持っていきたきゃ、100ギル払うことだな」
「ええっ、そんな・・・・
どうしてですか!?」
ちっ、アリスを女だと思って、ふっかけてきやがった。
たまらず俺が口を挟む。
「アリス、それを100ギルで手放せるなら、大人しくそうしよう。
昨日聞いただろ、あの恐ろしい声を・・・・・」
「おい、お前、勝手なことをするな!」
俺を調べていた兵士が怒鳴る。
「いや、まて、どういうことだ。
100ギルで手放すだと?
声とは何のことだ」
アリスを調べていた兵士が訝しげに聞く。
「そうですよ、兵士さん。
それはね、多分呪われた道具なんですよ。
拾った時から、ずーっと変な声がするんです。
俺たちも気味が悪くて道中で捨ててこようと何度も思ったんですが・・・・
捨てたハズなのに、気が付くと俺たちの前にあるんですよ。
それでどうしようもなくて・・・・・
こうしてここまで持ってきたってわけです。」
「でも今ここで100ギルで手放せるなら、こんなラッキーなことはないですよ!
俺たちも困ってたんだ。
この呪われた道具にね!」
俺は、元の世界で酔っ払いを相手にするような気分で大げさに話した。
真っ赤な嘘も、自分の演技次第で相手にとっては真実にもなり得る。
居酒屋の副店長だった俺は、そうやって適当な嘘で、困った酔っ払いを何度も店から円満に追い出してきたんだ。
「な、なんだと・・・・・」
兵士がひるんだ様子を見せる。
「ああっ、またあの声だ!!
聞こえませんか?この声!
ねぇ、兵士さん!?」
迫真の演技だ。
もちろん声など聞こえない。
「ちっ、いらねーよこんなもん!」
慌てた様子で兵士が言う。
「そんな!兵士さん!
俺たちも手放したくて困ってたんだ!
頼むよ!100ギル払うからさぁ」
「いらないと言っただろ!
ええい、早く通れ通れ!!」
兵士は俺とアリスを強引に門の中へと押し出す。
よっしゃ、上手くいった。
先に門をくぐったロランが待っていた。
「遅かったな、お前たち。
何かあったかと心配したぞ」
「何かあったんだよ、それが。
なぁ、アリス」
「そうなの!あの兵士がね・・・・」
俺たちはさっきの出来事を話した。