58.エルフの里(5)
「いいえ、構いません。
私たちのほうこそ、急に訪問してしまいまして、すみません」
アリスが言う。
「来ちゃいけなかった・・・・?」
微妙な雰囲気を感じ取って、ミルハが不安そうな顔をする。
「そんなことないわ。
大丈夫よ」
「よかった!
ミルハね、お姉ちゃん達に助けてくれたお礼をしてるの!
ここが、ミルハのいっちばん好きな場所!って」
おいおい、さっき菓子屋でもそう言ってただろ。
こいつなかなか侮れないな。
「まぁ、そうなのね」
ミルハの屈託のない様子に、少し表情が緩む。
「お姉ちゃんたち、見て!
これがミルハのいっちばん好きなもの!」
と指さす方には、キラキラと光るボタンが並んでいた。
「すごいな・・・・何で出来ているんですか?」
ロランが聞くと
「これはね、湖に住む魚の鱗から出来ています。
この先をずっと歩いていくと、大きな湖があるの。
そこにはこのエルフの里にしかいない魚がいてね。
その魚は年に一回、鱗が全部落ちて、新しいものに変わるの。
その落ちた鱗が湖の岸辺に流れついたものを拾って、作られているのよ。」
「はぁ~、すごいもんだな。
さすがエルフの里だ。
鱗を加工するなんて、聞いたことがない」
俺は関心して言う。
「ふふふ、あなた方には珍しいものかしらね。
・・・・・・。
これ、宜しければお一つずつ差し上げましょう」
「えっ?いいんですか?」
「えっ、ミルハにも?」
「ふふ、ミルハちゃんにはもっと大人になってからあげましょうね。
これは私から、この人間さんたちへのお礼よ」
「なぁんだ、せっかくミルハのいっちばん好きなもの教えてあげたのにぃ」
と頬を膨らませるミルハ。
「さっきお菓子屋さんからも、お菓子をもらっただろー?」
俺が言うと
「だって、お兄ちゃんたちは2つもらう!」
と言った。
「俺たちにはお礼だ、って言っただろ?
ミルハはお礼がまだ途中だぞ。
さぁ、次はどこへ連れてってくれる?」
「むー・・・・
わかった!
次は湖ね!」
礼を言って店を出る。
そういや俺たち、ミルハに名前を教えてなかったな。
「なぁミルハ、俺はリュカっていうんだ。
このお姉ちゃんがアリス、そっちのお兄ちゃんはロランだ」
「ロランお兄ちゃん、アリスお姉ちゃん、リュカ!」
「おい!なんで俺だけ呼び捨てなんだよ!」
「あははは、リュカ!だっておっかし~」
アリスが笑う。
「うーん、ひょっとして同じくらいの歳だと思われてるんじゃないか?」
真面目な顔でロランが言った。
「そんなわけあるか!!」
「リュカ!リュカ!」
「このヤロー!
何回も呼び捨てにしやがって~」
と捕まえる真似をすると
「きゃーーー!」
と笑って走る。
ん、すっかり元気出たみたいだな。
子供は元気が一番、ってな。
20分ほど歩くと、湖についた。
大きな滝が虹を作って湖へ流れ込んでいるが、真っ青な湖面は蕩蕩としている。
滝の音はほとんど聞こえない。
中を覗き込むと、透明度が高く底まで見える。
見たこともない色とりどりの魚が、沢山泳いでいた。
周りの木々が風にざわめき、小鳥のさえずりが響き渡る。
青空に雲がゆっくりと流れていく。
静かで不思議なところだ。
3人ともしばらく時間を忘れてボーっと湖畔に佇んでいた。




