56.エルフの里(3)
「里の場所を伝えると、
『あの山の中かぁ・・・・・
うーん、仕方ない。
私がついてってあげるわ』
とマリアは言った。
それから山のふもとへ着くまでの間、わし達は色々な話をした。
エルフのわしがなぜここにいたか。
マリアがどういう生い立ちの人間か。
エルフの世界はどんなものか。
人間の世界はどんなものか・・・・・
マリアはこの国の行く末を案じておった。
この国の王が悪い、貧困や治安の悪さで、人の心が歪んでいると。
それであなたのことも、こんな目に合わせてしまった。
申し訳ないし、許せとは言わない。
だが、本当の人間は、こんな心の持ち主ばかりではないから、と。
それはマリアを見れば、わかることだった。
束の間だが、楽しい時間だった。
お互いのほんの一部しか知ることはできなかったが、お互いがどんな人柄であるかを知るには充分な時間じゃった。
別れ際、わしはマリアに礼がしたいと言った。
『ええ~、あなたからお礼なんてもらえないわ。
なんか頼りないんだもん』
とマリアは言ったが、それではわしの気が済まなかった。
しかしあの人間たちから逃げる際に、荷物などもバラバラになって、ほとんど何も持っていなかった。
わしの持っているものといったら・・・・・
エルフの魔法だけ。
わしは礼として、マリアの持っているロッドに『幸運の祈り』をかけた。
当時のわしの持てる魔力で、いったい何年もつかと思ったが・・・・・
大分効果が薄れているようだが、まだ祈りの力は残っておるようじゃの」
とアリスのロッドを見て言った。
「この歳になって、まさかマリアのひ孫に会うことになるとはの。
縁とは誠に数奇なものじゃ。
さ、これでわしの昔話は終わり。
明日には、ミルハと両親にも改めて礼を言わせよう。
今日は休むが良い」
と言って、里長は自室へ下がっていった。
俺たちにはそれぞれに部屋が与えられ、その日はゆっくり休ませてもらった。
翌日、里長の家にミルハと両親がやってきた。
「この度はうちの娘を助けて頂き、本当にありがとうございました。
それにオーブまで・・・・・
本当に何と感謝を申し上げたらよいか・・・・・」
2人は深々と頭を下げる。
「いえ、そんなにかしこまらないで下さい。
オーブは元の持ち主に返っただけですし、私たちは特別なことは何もしていません」
ロランが言う。
「そうだよ、元々エルフの持ち物だったのに、それを俺たち人間が勝手に奪ったんだ。
こちらが謝りこそすれ、感謝なんて」
「ミルハちゃんを助けられて本当に良かったです。
ミルハちゃん、もう2度とお父さんお母さんを心配させたらダメよ」
アリスが優しく言うと、ミルハはじっと俺たちの方を見たあと
「はい・・・・ごめんなさい」
としおらしく返事をした。
昨日こっぴどく叱られたであろうミルハの様子を見て、俺はちょっと昔の自分を思い出した。
自分が本当に危ないことをした時、親は涙を流して怒るのだ。
いかに普段怒られ慣れてても、親のそういう姿を見るとやっぱり落ち込むんだよな。
ミルハは女の子だから、きっと俺のように怒られ慣れてはいないだろう。
ふむ・・・・・
「なぁ、ミルハ」
俺は声をかける。
「お父さんとお母さんからのお礼はいらないからさ、ミルハからお礼をしてくれよ」
『???』
「おい、リュカ何を言い出すんだ。
こんな小さい子相手に・・・・・」
「なーに、難しいことじゃないよ。
俺たちに、この里を案内してくれればいいんだ。
ミルハの方が俺たちより詳しいだろ?な?」
ミルハの顔がパアッっと明るくなる。
「うん!いいよ!」
「こらこらリュカ、勝手に決めるんじゃない。
ご両親にきちんと聞かないと・・・・・」
「そうよリュカ!
お父さま、お母さま、宜しいんですか?」
「・・・・・・。
この子に出来ることと言ったらほんの少しですが、それでも宜しいので?」
「構いませんよ!
俺たちより、ミルハちゃんの方がこの里にずっと詳しいハズですからね。
なぁ、ミルハ。
お前の一番好きな場所はどこだ?」
「えっとね、お菓子屋さんとお裁縫屋さんと、それから・・・・」
「おいおい、一番って言ったのに、そんなにあるのかよ」
「わぁ、エルフのお菓子屋さんって、どんなのが売ってるの?
私も見てみたい!」
和気あいあいとした雰囲気に、明るい表情のミルハ。
両親の顔に安堵の表情が浮かぶのが見えた。
「ミルハちゃんには絶対に危険がないように俺たちが守りますので、どうか信じて下さい」
俺は両親に向かって言う。
2人は顔を見合わせたあと
「はい・・・・わかりました。
どうか宜しくお願い致します。
ミルハ、自分の知らないところには絶対に行ってはダメよ。
何かあったら、これで話しかけてね」
と言って、母親がミルハに小さなオーブを渡した。
「うん、わかった!」
「よっしゃ、決まりだな!
頼んだぜ、ミルハ」
「うん!」




