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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第二章】救う意味
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86.殺戮トンネル

ロイバはゆっくりとシュロムのほうへ向かって行った。

狂人は皮肉めいた笑みを浮かべた。

「どうした? 自分からやられに来たのかぁ?」

「そう見えるかい? 君から見たら」

「そうだなぁ~、バッタが狩られに来たようにしか思えないなぁ~」

ロイバは冷静だ。

狂人の能力は非転生者の動きを完全に止める。まるで時を止めたかのように。

だからロイバは狂人の能力の前には何もできない。どう考えたってロイバのほうが不利だ。

なのにどうしてか、ロイバは狂人の前に堂々と立っている。

勝率は0%のはずだろ。

「ねぇ、その手に持っている道具、銃かい?」

「ん? なんでわかった? 貴様はテンセイシャじゃないはずだ」

「僕の元親方が持っていたのさ」

「そうか。ただこれは普通の銃じゃない」

「へーそうなんだ? どこが特別なのかい?」

「そうだなぁ…………身を持って体験してみたらどうだ!」

狂人は銃口をロイバへ向けようとした――――その瞬間、ロイバは姿を消した。

気配を消したのか。だが狂人はロイバの気配消しを見破っていた、これじゃ――――狂人は辺りをキョロキョロしている。ロイバの場所がわかっていない。

「一体なんでだ?……ん?」

あれ、なんか音がする。耳を澄ますと何か音が響いている。

近くにハエがいるような、それも一匹じゃない。

「ふは……ふはっはっはっはっはっは! そうか! そうきたというのかぁああああああああああああああああああああああ! 気配を消せないから逆に気配を出したというのか!」

狂人が突然叫び出した。

さっきまでの落ち着きようが嘘みたいだ。

それに何言ってるんだ、気配を消せないから逆に気配を出した?

気配出したら普通見つかるだろ、やっぱりアイツ頭おかしいな。

「……いや、違う。そうか!」

気配を出しまくることによって、どこにでもいるように感じるからわからないのか。

例えが合っているかわからないけど、木に扮するのではなく森になったんだ。

「ふひひ……面白いことしてくれる。こうなったらこっちも張り切っちゃうなぁあああああああああああああああああ!」

「馬鹿で助かったよ――――今だよ!」

ロイバからの合図だ。

よし、行くか――って時間が止まっている。本棚が止まった。

「ロイバ……」

ロイバが空中に止まっている。いくら気配を消しても、この空間の中じゃどうにもならない。

それにロイバを囮にしようとしても、アイツは無視して俺を追ってくるだけだ。

これじゃ意味がな――――なんだあれは。

「ああ、やられたなぁ……そこまでするとは」

狂人を囲うように何本ものナイフが止まっている。

そうか、本棚が止まるように、さっきの小槍が止まったように、ナイフも止まる。囲えば――――檻になるというのか。

「ロイバそこまで考えていたのかよ、割と頭良かったんだな――――ん?」

狂人の周りのナイフが微かに碧く光っている。

アイツ、何をやっている?

碧い輝きに共鳴するようにナイフが震え出した。もしかしてこれは――――。

「まだわかっていない。まだ……まだ!」

「そんなのありかよ!」

ナイフがだんだん速く振動し始めた。動き始めた。

魔法で動かすことができるなんて聞いてないぞ。早くここを出ないと。

「――――っ!」

高い。そもそもミアを担いで床まで降りるのに時間がかかるんだよ。

このままじゃ、狂人のナイフが解けるのが先だ。

この高さから飛び降りるしかないか? いや、そんなの死ぬに決まってる。

「ああ! 考えるよりも先に降りるしかないだろ!」

ミアは重くない。でも動かすのが大変だ。俺が触れていないと宙に止まるから、ずっと担いでないといけない。担いでたら足元見えにくいし、俺は普通に落下死するかもしれない。

「だから考えてないで足動かせっ――――!?」

ダメだ間に合わない。もう上のからナイフが剥げてきている。

「もう少しだな~」

気持ち悪い顔しやがって。

そしてミア、なんでこんな時に涎垂らして優雅に寝てるんだよ。誰のためにこっちは――――ミアが軽い。そうか、ミアが軽い!

「さて、心の準備はできたかな~?」

「ああ、できた。心を置いて行くほどにな!」

「何んだっ――――!?」

――シユウはミアを抱え、本棚を思い切り蹴った。

その角度は-20度。だがその先は壁。だからさらに向きを変え、また同じ角度で壁を蹴る。

するとまた壁がある。だから蹴る。

「こいつ、速くなっているのか!」

蹴るごとにその速さはだんだんと上昇する。重力が無いから落下するまでに壁を何度も蹴れる。

ただその加速している時間、もちろんナイフの檻は着々と崩れ始めていた。すでに首元までナイフは無くなっていた。

「遅い、お前が床に到達する前にナイフは解ける!」

狂人はじっとシユウの動きを観察し、その軌道を読んでいく。同時に床に転がったナイフを拾い上げ、投げていた。

投げたナイフはある位置に止まっていく。それはだんだん丸く長いものへ形を成そうとしていた。

「殺戮トンネル、建設中だ!」

ナイフのトンネル。通れば体中を引き裂く。

それを見てシユウはさらに壁を強く蹴っていく。

もはや速すぎて角度を調節できない。下手に角度を変えれば床へ反発し、収拾のつかない方向へ飛んでいくことになる。

それを防ぐために加速を上げるが、その分体中の負荷は凄まじかった。

「っ――!」

シユウが床へ辿りつくのが先か、殺戮トンネルができるのか先か。

その勝敗まで0.01秒前。

シユウはついに一番下の壁に両足をつけていた。そこから狙いを定める、その奥には出口、前にナイフ数本が足元にかかっている狂人、そしてほぼ完成した殺戮トンネル。

「!!!」

光る刃の穴倉にシユウは突撃した。それも絶大な速度で。

その蹴り出しを確認した瞬間、狂人はニヤリと笑った――――がすぐにそれは崩れた。

なんとトンネルからは血が一滴も吹き出ることはなかった。

トンネルから現れたのは緑色の円球に包まれたシユウだった。

「なっ…………ロアマトの結界か!」

狂人はそのまますぐ隣を通っていくシユウとミアに立ち尽くすしかなかった。

シユウは殺戮トンネルを抜け、狂い人の呆然とした顔を拝み、出口のトンネルを突っ切っていった。

「やった――ってこれ、どうやって止まるんだよ!」

すぐに暗いトンネルを通り抜け、見えたのは硬く冷たい壁。

止まれない。止まりたくても止まれない。

「……あれ?」

――俺は何故か急停止し、ミアを抱えたまま床に落ちた。

もしかして狂人の能力の範囲外に出たのか?

助かった。

「ミアも救出できたし、あとは屋敷を出て合流するだけだな……ロイバは……」

俺はミアを抱え、廊下を歩いた。

鳴いた音はただ一つだけだった。

「あと鼾か……」

まだ思ったよりも廊下は暗いな。

朝日もまだ出てない。あの中、入って結構時間経ったはずなのに。

まさかミア、普通に眠たいから寝てるわけじゃないよな。

「そもそももうあの狂人も巻いたわけだし、ミアを起こしても大丈――――!?」

なんだ。いきなり地面が揺れ出した。

ダメだ、立ってられない。

「うおっ!?」


……おい、嘘だろ。天井が床になってるぞ。


いやさ、殺戮トンネルってナイフが内側になっている壁のトンネルなんですよね。

その見た目は浮かんでるんだけど、やっぱり例えたくなるじゃん。

でさ、最初に近いと思ったのがイソギンチャクだったんだ。だから使おうかなって思ったけど、写真見たらそんなでもないなって。


で、次浮かんだのが、オナホールだった。

はい。使えません。


ラブコメなら使ってたかもしれないんですけどね。あ、ラブコメにも殺戮トンネル出すか。

オナホールのために。


そして今回で決着はつきませんでした。

まだ続きます。

天井と床、上下が逆転した館の中での戦闘です。

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