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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第二章】救う意味
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80.よく食べる娘と魔術師

「ここはどこ?」

目が覚めると私は大きいベッドに横になっていた。まだ頭が朦朧としてる。

あたりは暗く、窓からは月の光が。

たくさんの本棚、温かい暖炉、丸い机……知らない部屋。

外を覗けば、静かな雪の白が広がっている。

「――!?」

何かの鳴き声かと思ったら、扉が開いただけだった。冷たい風が部屋に入ってくる。

とりあえず扉を閉め、暖炉の前へ座った。

「長い間、寝ていた気がする」

二か月、三カ月。もっとかもしれない。

記憶もよく思い出せない。口も回らない。

それでも何とか頭を動かす。

「……確か私は灯台に行って――――誘拐された!?」

そうだ。私は変なシュロムに誘拐されて眠らされたんだ。

「わ、私、変なことされてないよね!?」

って確かめようなんてない。

「はぁ……」

また誘拐されるなんて、迷惑かけてばかり。

こんなことじゃいけないってわかってるのに。

「――!? ってまた扉だった」

なんか建付け悪い。

風も冷たいし、寒いし、お腹減ったし。

「もう嫌だ。なんで私ばっかり」

なんで誘拐なんてされるんだろう。

私に何の価値があるの。今更私を攫ったところで何も……。

「きゃ!」

風が窓にぶつかっただけだった。

こんなのにいちいち驚くなんて、私は弱くて臆病。だから攫われるし、みんなに迷惑かけてしまう。

弱い自分が嫌いだ。私もソフィみたいになれたらいいのに。

「――!」

またドア。やっぱり建付け悪い。

鍵かけておかないとダメみた――――あれ、鍵かかってない。

私って誘拐されたはずなのに、鍵開けたまま。間抜けなの?

なんか腹が立ってきた。もう閉じ込めておく必要すらないって。

「だったらもう、逃げてやる――っさむい!」

廊下寒すぎ。こんなの風邪引いちゃう。

でもこんなところで閉じこもってたくない。

ロウエルは誘拐されたりしたら危険だから動くのはやめておきなさいって言ってたけど、こんなのは鍵かけない方が悪い。


――――私は部屋にあった薪に暖炉の火をつけ、凍てつく廊下を歩きだした。


でもやっぱり寒い。

松明の熱くらいじゃ、全然寒い。

「んん……」

冷たい風がまた吹いた。

なんで風が吹くの、戸締りちゃんとしておいてよ。

「だけどこんなのもうどうでもいい。とにかく逃げてやる」

ここは四階。まずは階段を探して、一階まで。

でもだいぶ広くて寒くて暗くて、歩きにくい。

「――何か来る」

足音?と明かりがあっちから。

どうしよう、どこかに隠れないと――とにかく急いで近くの扉の中へ入った。

「……」

足音は通り過ぎていったみたい。

見張りなんていたんだ。

ドアを開けて、廊下を左右に首を振る。

「よし、行こう」


――またしばらく歩いて行った。けれどほとんど人気はなく、何の問題もなく玄関まで辿り着いた。


途中変な部屋が沢山あったけど、あんまり思い出したくない。

玄関はやっぱり広い。

いろいろ歩いて、結構お金持ちのお屋敷って感じだった。

でもこんな警備じゃ、どうにもならないと思う。

玄関の重厚なドアを押す。だいぶ重い。

「――んん!」

強く冷たい吹雪が私を押し返した。

時間が経って天候が悪くなってる。

風強すぎて進めなそう。

「でもそんなの知らない」

このままここにいるくらいなら凍え死んだ方がいい。

もう迷惑なんてかけたくない。

私は足を踏み出し、吹雪の中へ飛び込もうとした。

「――やめとけ」

後ろから男の声。

だけど聞こえない。このまま私は出て行ってやる。

「死ぬだけだ――!」

「きゃあああああああああああ!」

なんか体が浮いてる。引っ張られてる。

高い。足がつかない。怖い。

「落ち着け、今下ろしてやるから」

「放してええええええええええええええ!」

「放したら怪我するぞ?」

「……」

あ、地面だ。

本当に下ろしてくれた。

「ロアマトの子。勝手に帰ろうとするな」

「……」

階段の上、ローブを着た男が澄ました顔して立っている。

私を誘拐した張本人の魔法使いだ。

「杜撰な警備のせいです」

「杜撰って、待ち伏せしてたんだよ。部屋出たときからわかってた」

男は階段を下りてこっちへ向かってくる。

逃げないと。捕まったら今度はもっと逃げにくくなる。

捕まりたくない。絶対に逃げる。

「あれ?」

身体が動かない、なんで。

別に怖いわけじゃないのに。

「真実には抗えない――この剣に覚えがあるだろう?」

あれはシユウが持ってた剣。

確かマケン? っていうのだ。なにかの力があるとかの。

「渦の魔剣ボルティセ。渦、すなわち留める魔術が込められている。ゆえに君は動けない、君が眠っている間にだいたい調べ尽くしてしまったよ」

「……」

「そう睨むな」

男は目の前まで来て、私をじっと見ている。

捕まった。最初から抗う事なんてできなかったんだ。

だけど許さない。屈しない。

「だからそう睨むな、変な風にはしない。むしろそんなことをするのならとっくにしてるだろう。だいたいそういう奴は鍵だって閉めてるさ」

男はやれやれって首を振っている。

確かに男の言う通り、でも信じられない。

「一体、何が目的なんですか?」

「……ふふ、はっはっは!」

な、なんで笑ってる。お腹抱えて笑ってるの。

意味が分からない。何この人。

「いやいや、もしかして君、自分が可愛いから攫われたと勘違いしてるかって思うと、はっはっは! これは傑作だ!」

「……」

「ふぅー。まぁ冗談はこの辺にしておいて、攫った目的なんて一つしかないだろう。君の力を調べるためだ」

「力って何? 私は何も――」

「予知能力があるだろう。ロアマトの子だけが持つ力だ」

鋭い目つきで私を見つめる男。

さっきまで涼しげだった様子が、一変して真顔で威圧感がある。

「とにかく、こんなところじゃ話すのも辛い。というか寒い。移動するとしよう」

「キャ!?」

「ああ、悪い。浮かせた方が楽だからな」

男はどこかふざけているのか、廊下を歩いている最中に度々、宙ぶらりんの私を上げ下げしたりしていた。


――赤いカーペット、大きなシャンデリア、本まみれの広い机、古い時計。


「ここなんですか?」

「入る前に書いてあっただろう。食堂だ」

「……食堂?」

散らかりすぎでしょ。

お皿置く場所ないくらいに紙まみれだ。

「やっ―!?」

「座りたまえ」

いきなり落としておいて、座れって最低だ。

従うわけがないでしょ――私はすぐに部屋の外へ走り出した。

「あれ?」

たった今、ドアの外に出たはずなのに、そのドアが目の前にある。

「まさかデルタスペースを使う機会があるとは。学んでおいて損はないな」

「え?」

「いいから座れ、食べ物はあんまりないが――!」

男が指を鳴らすと料理の乗った皿が机の上に現れた。

中身は照り焼きチキン、パン、コンソメスープ。

「こ、こんなのいらない!」

「涎、出てるぞ」

「……」

どうせ外に出れないし、座るしかない。

だからもう食べるしかない。

「安心しろ、毒など入ってな――もう食ってるのか。非常識なやつだ」

普通に美味しい。

特に鶏肉がいい具合。

「それで、僕が君を誘拐したのは、予知能力に興味があったからだ」

「もごもご……」

「その力は魔法で解明されてなく、かつロアマトの血統しか所持してない」

「もごもご……」

「昔から魔術師を嫌う、ロアマト教の分かもあって、これは好機だと思っ――」

「おかわり!」

「……君は人の話を聞いているのか?」

「え?」

「ま、まぁいい。沢山食え」

男は何故か照れながら指を鳴らした。

そして現れた皿は照り焼きが倍になっていた。

「もごもご……」


――数十分後。


「はぁ、なんて娘だ」

そこには頭を抱える男の姿と、皿が机を埋め尽くしていた。

「おかわり!」

「アホか、どれだけ食うんだ! 君は自分の身分がわかっているのか!」

「私はロアマトの子です!」

「違う!、違くはないが、違う! 君は今、僕に誘拐されてるんだ! 旅館に泊まってるってわけじゃないぞ!」

「いいから、おかわりください」

「な、なんて強欲な……」

「くれないと、話聞いてあげないですよ?」

「なら仕方ない――って最初から聞いてないだろ! こっちは同じこと話して十回目だ!」

ミアはそれでも皿を咥えて男をじっと見ていた。

男はそれから幾分か文句を言い放ったがどうにもならず、しぶしぶ指を鳴らした。

「はぁ……誘拐なんてしなきゃよかった」

「もごもご……」

「時間もあまりないというのに」

「もご……何かあるんですか?」

「何か? 君はやはり馬鹿だな! チキン喰ってる間に鳥頭になったか?」

「喰わせたのはそっちですよ」

「……はぁ。君はロアマトの子だ、教会からすれば重要人物なんだ。いずれ町にいた厄介な聖兵共がやってくるだろう。こっちとしては処刑されてまで君のことに興味はない」

「だったら最初から攫わなきゃいいのに……」

――私がそう言うと男は椅子から立って皿を集め始めた。

そのどこか強張った表情は、あまりにも人間だった。

「ふん、これは性だ。魔術師の性根というものだ。好奇心には逆らえない。冷静で賢い者なら、あの場面で君を攫うことはないだろう。外には兵士共がいたしな」

なんかこの人、悪い人じゃないかもしれない。

シュロムとか、山賊とかだと思ってたけど、違う気がする。

そもそも最初から探知の感じも違った。

「魔術師さん」

「なんだ? もう鶏肉はないぞ」

「違いますよ、名前です。名前なんですか?」

「……」

男は驚きのあまり顔を固まっているみたいだ。

手も止まっている。

「……リュードだ」

「そうですか。私はミアです」

「……」

しばらく空気が固まる。

リュードはずっと目を動かさず、無意識に私を見ている。

それで動いてみると、どうやら視線が硬直してるようで、私はその目の前に手を振った。

「あの、どうかしたんですかー?」

「……いや、人はあまり驚くと意識が飛ぶのか」

「ええ?」

一体何にそんな驚いてたんだろう。

やっぱりこのリュードはよくわからない。

「じゃない。話を戻そう、えっと確か……いや、とにかく――」

「私の予知能力を調べたいってことですか?」

「そ、そうだ。君のことを調べたい」

「ええ?」

リュードは私の手を掴んで廊下を歩き始めた。

寒かったのにあまり気にならない。

「入れ」

「え、はい――ここ?」

ドアの前、広い部屋に大きいベッドが一つ。

あれ、あれ?

「いいから入れ」

「え? ちょっと、好奇心ってやっぱりそっち!?」

「あ? いいから――」


ちなみにリュードは鶏肉さえあれば、自動で照り焼きを作れる魔術を扱えます。

これはリュードが発明した魔術で、応用することで様々なものを自動で作れたりするそうだけれど、魔術師の界隈ではあまり評価されてないです。(利便性よりも偉大さ)


なお、魔術と組み合わせて一番作りやすかったから照り焼きらしい。

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