79.無限に続く混沌
もう何十回くらい回ったのだろうか。歩いても歩いても廊下は無限に伸びている気がしてならない。
屋敷に入って、ミアを探し始めて一時間。途方がない。
なのに何故だ。どうしてお前はそんなに笑っていられるんだ。
「ん? どうしたんだい? そんな顔して」
「……なんでもない」
ロイバに八つ当たりしたところで何も解決しない。
それどころか、余計に苛立つだけだろう。もう長くなってきて感覚的にわかった。
「ねぇ、シユウ」
「なんだロイバ?」
「さっきから感情的すぎるよ。どうかしたのかい?」
「煽ってるのか?」
「いや、なんでそんなに怒ってるんだよ」
ロイバは真剣な様子で聞いてくる。
ふざけてるのかと思っていたが、何か違う。
「うーん? お腹減った?」
「違う」
「早く言いなよ」
やっぱり何か変だ。
俺がなんでこんなに怒っていたのか、本当にわかっていないみたいだ。
信じられない。もしかしてマジでボケてるのか?
「もしかしてボケてる?」
「な……やっぱり馬鹿にしてるのか!」
「違うよ――別に何も起こってないのになんでそんなに怒ってるんだって」
「何も起こってない?」
「そうだよ、ただ歩いてるだけでなんで?」
「ただって、この廊下歩いてもう何十分たったと思ってる?」
「――二分くらいだよ」
なんだ。この顔は。おかしくなったのか、こいつは。
二分とか感覚バグってるだろ。もう三十分くらいは経ってる。どうかしてるのか?
「あ、あそこに扉があるよ。なんかの部屋かな?」
「お、おい!」
敵がいるかもしれないのに、一目散で走っていきやがった。
無防備すぎるだろ。
「ほら、早く来ないと敵に見つかるよー?」
「やっぱり、煽ってるだろ」
扉から顔を出すロイバに平手打ちをかましたくなる気持ちを押さえつつ、俺はロイバの入っていった部屋へ歩いて行った。
「ここは――――武器庫だね」
わりと広い部屋に、剣、盾、弓などが棚や壁に立てかけられている。
その数は多いが、埃まみれだ。
「こっ、これなんだろ?」
ロイバは壁にかけられた斧槍を持つと、その重さに押しつぶされそうになっている。
いい気味だ。そのまま潰れてしまえ。
「おっとっとっと!」
「あ、あぶな!」
もう少し横に立ってたら真っ二つだったぞ。
てかこの斧槍、地面に刺さったまま微動だにしない。なんて切れ味だ。
「シユウ、これ見てよ!」
ロイバがドヤ顔しながら、置いてあったポーチに自分の手を抜き差しして興奮している。
一体何やってるんだ。
「まあまあ、見ててよ」
そう言うと、近くにあった小槍を持ってそのポーチの口に入れ始めた。
なんだ、ポーチに恨みでもあるのか。
冷めた目で見ていたら、ポーチの中に小槍が消えた。
「だからなんだよ。ただポーチに武器が入っただけじゃな――は?」
「これすごいよ、全然重くない。ほら!」
ロイバが投げたポーチを受け取ると、確かにそれは軽かった。
その中身を覗くと、意味不明に小槍は入っていて、出せば、普通に重さはあった。
「よし、これはいただいておこう。えーっと、姉貴の分と一応ミアちゃんの分も」
何だこの手慣れた感じは。さすが元海賊だな。
「じゃあ、物色はこの辺にして次はお宝を探そう」
「違うだろ。ミアを助けに――!?」
銃撃音、向こうのほうからだ。俺はすぐに走り出した。
ロイバが後ろから何かを言っていたが、知らない。俺はとにかく走った。
ミアが危ないかもしれない。
開いたままの扉、荒れた中が見える、ここか。
俺は一目散に部屋へ駆け込んだ。
羽毛の散った穴だらけのベッド、倒れた机と折れた椅子、散らかった沢山の本。
「いない」
間違いなくここだが、誰もいないようだ。
すでに場所を移して戦っているのか。
「だったら――!?」
俺が後ろを振り向くと、少しずつ閉まっていく扉が、穴一つ開いていない、鍵すらかかってない扉があった。
「……」
何かおかしい。いや、ここにいたのはミアじゃなかったってことか――襲われたのはミアじゃない誰か。
もしかして聖騎士の奴らか。でも銃なんて持ってるわけない。違う。
「一体何が……」
クソ、意味が分からない。
だが考えている場合じゃない。
とにかく、いち早くミアを探さないと。
「――。」
息が止まる。
つま先にぶつかった一つの本。
はみ出た見覚えのある、しおりのリボン――本の題名は“死後の世界”。
「嘘だ……」
鼓動が早まる。
冷えた汗が滴り、リボンを揺らした。
虚ろな手を本に近づけ、そのページを開く。
「捕らえた彼らは、ここは死後の世界だと言い張り、その力を得たのは――」
「シユウ、本なんか読んでる場合じゃないよ」
音も立てず、本は床へ落ちた。
ロイバ、いつの間に。
「見た感じ、ここには誰もいなそうだね。ミアちゃんがいたなら、どっかに逃げたんだろうね」
「あ、ああ」
「とりあえず、こっちに行ってみよう」
落ちたままの本。しおりが挟まっている。俺はそれを手に取らず、部屋を出た。
でもあれはきっとミアのものじゃない。そうに決まっている。
そうだ。何を怖がってるんだ俺は。落ち着けよ。
「シユウ、大丈夫かい? 焦りすぎだよ。ミアちゃんならきっと大丈夫さ」
「そう……だな」
もう考えるのはやめよう。
ミアがどうとかって、俺がどうとかって、考えたくない。
今はとにかく、ミアを助ける。それだけでいい。
でももし助けて、ミアはもうすでに俺が転生者だって気づいてたら……。
いや、そんなわけない。そんなわけがないんだ。
いいから今はミアを助けるだけ――そうじゃなきゃ、俺が死んだ意味がなくなる。気を引き締めろ。
「よし、行くぞ」
シユウは再び走っていく。
無限に続く混沌の廊下を。
悩んでも悩んでもとにかく書くしかない。出すしかない。
似たような気持ちが入っている。
今回はたぶん、よくわからないかもしれないが、それでいい。
それこそがある種の答えだ。
その意味がわかれば、面白いかもしれない。
何言ってんだこいつ?(9/24)




