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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第二章】救う意味
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70.何ために助ける

足並みが揃わない奴らだ。

歩きにくいと喘ぐばかりで、死にそうな顔してるのに鎧も脱ごうとしない。

こいつらは馬鹿じゃないのか。

「シユウ、あの赤い毛なんだろうね?」

「隊長とかだろ」

俺とロイバは今、軍勢の中にいる。

どうしてこうなった。

改めて思い返す。


ストラーダ港町から少し遠い雪原。ではなく平野。

攫われたミアを助けるために、俺たちは平野の先にある屋敷を目指していた。

しかしそこには約600の聖兵があった。

しかもその先頭には上位聖騎士とかいうのもいるらしい。

そんな状況に絶望する暇もなく、さらに聖騎士が現れたんだ。

作戦も立たないまま、とにかく進んでいった。逃げることもできなかった。

「それで……」

「ソフィとも逸れたんだよね。だから仕方なく軍勢に身を隠すことになったと」

「ああ、そうだった」

何故か突然ロウエルが俺たちを襲ってきて、ソフィがその場を引き受け、残った俺とロイバが屋敷を目指していくことになった。

「そして仕方なく軍勢に潜んで隠れることに……ならないよな、普通」

「あれ、理解してなかったのかい? 広い平野を二人だけで歩いたら怪しまれるじゃん?」

「ああ、なるほ―いや、俺たちが見つかったらいけないのは、この兵士たちだぞ?」

「……トウダイモトクラシってやつだよ」

深刻そうに言うが、お前の頭のほうが深刻だろ。


俺たちは聖兵たちの恰好をして忍んでいるわけではない。

ロイバの謎の能力か、技で見つかっていないのだ。

今までの経験からむしろ狭いところのほうが隠れやすいらしい。

「そうに決まってるよ。物陰ないのに隠れられるわけないよ?」

「さっきから心を読むな」

「それよりもここからだよ」

そう言いながらスキップし、入り組んだ兵士の間をロイバは潜っていった。

目立っているはずなのに、疲れ果てている兵士の目には映らないようだ。

「不思議なもんだな」

俺にだけ見えているであるロイバの背中を追って、暑苦しい隙間に体を捻じ込んでいく。

異常な数のせいで、ぶつかっても気づかれない。

「おい、後ろのほうで山賊が暴れてるって」

「そうらしいな、対処してる部隊が羨ましいぜ」

嘘をつくな。相手はクソ強い変人のオッサンと無慈悲すぎる女騎士だぞ。

盲目の兵士たちの横腹を肘で抉りながら前に進んでいく。

「昨日の晩飯、まず過ぎたよな」

「忘れてたのに、あのシチューのことを思い出させるなよ」

「……吐き気が―!」

ロイバの姿が二人の兵士の肩に隠れた。

閉ざされた道を、口を塞ぐ兵士を押して開く。

少し後ろで騒いでいるが、気にしない。

「シユウ、あともう少しってところだよ。ほら」

ロイバが示したのは風に大きく広がる高級な生地の旗。

喰われそうなほど、あの旗は巨大だったんだ。

「―なんでだ。たった一人の女の子のために、俺たちが死ぬような思いしないといけないんだよ」

俺はあたりを見回す。

どいつもこいつも俯いて顔が見えない。

その言動に答える相手もいないからわからない。

「しょうがないだろう。世間がそうしろって言うから」

溜息と喘ぎ声に耳が塞がるのに、どうしてはっきりと聞こえる。

「だとしても敵地にこの人数だぞ」

熱気と僅かな銀の反射に目が遮られる。

まだ日が昇っていないのに眩しく喧しいのが腹立つ。

「ダメだ。落ち着け」

イラついている場合じゃない。

こんなことしてるときだって、ミアが危険かもしれないだろ。

「あれ?」

ロイバがいない。

いつの間にか前に進んでいたのか。

さっきよりもギュウギュウなのにどうやって。

「―あんな女の子なんていなくても、何も変わらないのにな」

見つけた。

前も見ないで戯言ばかり喚く、ただの鎧の塊を手で押して横切り、皴まみれの腐れ顔に拳を振りかざす。

「この野郎、ふざけ―」

「大変だ! 山賊が軍勢に紛れてるぞ!」

どこからか響いた大声に握り拳は空を切った。

下ばかりに顔を向けていた奴らが、一斉に声のほうを見上げた。

周りの奴もみんな上向いてる。俺のことじゃないのか。

胸を撫でおろした。

「―ってことはロイバか!」

肩を抉るように誰かがぶつかってきた。

見つかってないのに痛いのは嫌だ。

俺はソイツにガンを飛ばそうと振り返った。

「やっほー! シユウ、何してんのさ?」

「……お前がな―」

ロイバが純粋な顔したまま、口を手で塞いできた。

「ほら、大声出しちゃだめだよ。ぶつかってもある程度はわからないけど、声は目立つから」

「わ、わかってるって」

しかしさっきのお前だろ。見つかってんじゃねえか。

説得力はないが、これ以上ロイバに正論を言われたくないから受け入れよう。甘んじて。

「なら行くよ。もう少しでスッキリしたところに出るから」

見飽きた兵士の背中から逃げるように、俺は必死にロイバの後ろをついて行った。

あんなデカい旗なんて怖くない。


まったく、気持ちが悪いそよ風だ。

この野蛮な森にも区域があるらしい。なんだこの整列は。

後ろの方は顔色悪くして倒れそうって嘆いているのに、この先頭近くはどいつもこいつも涼しい顔して黙っていやがる。

地面の悪さに対する歩き方もわかってるし、後ろに合わせてゆったりと歩いている。

足取りにまったく迷いがない。

「てかよく見つかってないな」

「まぁ、前しか見てないし。整っていてもこれくらいじゃ、僕の技は無効化できないさ」

決め顔を飛ばすロイバ。

なんか真面目にここの気持ち悪さに唸っているのが馬鹿みたいだ。

「さっさと、前に行くぞ」

「ちょっと待って」

千切れそうなほどに手を引っ張って、俺を後ろに戻したロイバ。

珍しく真剣な顔して考えている様子だ。

「どうした?」

「いや、先頭から抜けたら見つかるじゃん」

ロイバはそう言いながら目をパチパチさせた。

そ、それくらいわかってたし。

「ここは軍勢が屋敷の近くに行くまで待機しよう」

「いや、ダメだ」

即座の否定にロイバは硬直した。

頭を優しく叩いて歩かせる。

「俺たちはこいつらよりも先にミアを助けないとダメだ。それじゃ遅すぎる」

「そうだったね。でも……」

ロイバは列の向こう、一番前に目を向けた。

塔のような旗の棒、その隣で馬に乗っている異様な鎧騎士。

「絶対に見つかっちゃうんだよね」

「くそ」

あの鎧騎士が高位聖騎士なんだろう。

佇まいが違いすぎる。体に無駄な力が入っていないように見える。

だからと言って隙だらけでも無く、強固さをどこかに感じる。

「ん? なんか話してるな」

「そうだね。少しだけ前行ってみるよ」

「お、おい」

俺には行くなと止めたくせに。

まぁいいか。


朝でも構わない。

出来立てを。

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