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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第二章】救う意味
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68.傲慢と冷徹

道なき平野の上。

まだ薄っすらと煌めく星々を眺める髭面のおっさん、雪が溶けて泥ついた土に刻まれる足跡に俯く若い男と、ただ前だけを見て歯を噛みしめ、古びれた剣を抱えている少年がいた。

「ガキ、それ重くないのか?」

髭を撫でながらブレイブは折れかけている剣を見下した。

その面を睨めみつけ、さらに剣を抱きしめるシユウ。

「いい魔術教えてやるよ」

ブレイブが手を振り上げ、下げると何もなかった手に光り輝く剣が現れた。

気づいて驚き、ロマーンは土にお尻を濡らし、シユウはそれを笑うブレイブを馬鹿馬鹿しく見ていた。

「これは一言で言えば収納だ。物体を格納できる魔術。便利だろ?」

「いらねえよ」

「おいおい、そんな食わず嫌いするなよ。教えてやるから」

「いらないって言ってんだ」

転げたロマーンの手を引っ張り上げながら、片手で重い剣を抱えながらシユウは言い放つ。

その様子にブレイブは首を振って、光る剣をしまった。

「お、あれ見ろよ」

「本当にあったんだな」

ブレイブが示した先にあったのは、遠くに生い茂る緑。ではなくその隙間の奥、人差し指に隠れてしまうほど向こうにある、真っ白な屋敷。

「本当にってどういう意味でしょうか?」

苦笑いして詰め寄るロマーンに、シユウは走り出した。

しかしすぐに捕まり、広い平野には冷たい怒号が響き渡った。



誰かのせいでだいぶ歩きにくいな。

ごたついている地面を何も気にせずに揚々と歩いてる髭が恨めしい。

遠くに見えた屋敷もずいぶん大きく見えてきた気がする。

それよりも遥かに強大になっている薄緑の三角の木々……また森じゃねえか。

「なんか顔が引きつってるな」

「シユウ、どうかしたんですか?」

「思い出したくないから話したくない」

森の奥にある屋敷にはミアがいる。

だからロマーンも髭もそこを見ながら歩いていたりしたが、どうにも俺は迫りくる森ばかりを意識してしまっていた。

また化け物が出てくるんじゃないかって。

「……」

「いきなり止まってどうしたんです?」

細い木から屋敷を覗いている、見覚えのある後ろ姿。

なぜか心が震えて気分が悪い。俺は目を逸らして俯いた。

「あれ、シユウたちと……だれそのオッサン?」

「これでもまだ二十代!」

生い茂るその髭を引っ張り、まじまじと顔を見上げるロイバ。

やはり得体が知れない。

「やめろって。千切れ―おい、あの若い姉ちゃんはなんだ?」

赤くなった顔でソフィの背中にニヤついてるアラサーをぶん殴りたい。

やっぱりこいつに頼るべきじゃなかった。

ロイバが髭を足止めしている間に俺は早々と歩を進める。

「何してるんだ?」

「……はぁ、最悪の展開だわ」

ソフィは俺の声に驚くことなく、屋敷のほうを見るわけでもなく、ただ前を向いてため息をついた。

あまりに冷静な横顔は、すぐに俺を平常心に戻した。

「確かにあのオッサンは最悪だけど―」

「そうじゃないわ。前を観なさい」

「前を見るっ―嘘だろ」

森なんてものはなかった。だからと言って喜べるわけじゃない。

細い木々の向こうには、無数の銀色の鎧、剣、槍が群がって屋敷へ行進していた。

屋敷はまだ遠く、荒野のさらに歩いた先にあったんだ。

「あんなの馬鹿げてるだろ」

「旗の数は12つ。数はだいたい600ってところかしら」

ソフィの息は白いままだった。

どこまでも超人すぎる、驚いてももらえない聖兵たちが気の毒だ。

「でもそうじゃないんだろ?」

「え、ええ。中央奥の旗を見て」

横やり入れてきた髭野郎にガンを飛ばしつつも、ソフィの言っていた旗を見つけた。

明らかに他の旗よりも豪華な感じ。だとしかわからない。

「お、おい、お、お前なんも知らねえのかよ。はっはっは!」

大笑いするな。

知らないんだから仕方ないだろ。

「聖騎士よ。あの行進の先頭に聖騎士がいるってことよ」

「あ? じゃあ大したことないだろ。ソフィがさっきみたいに―」

「高位聖騎士ってやつだ。その名の通り、精鋭の聖騎士。まぁつまりは―」

「十三人いる聖騎士のうち、エースは十二人目。あんなのとは格が違うわ」

髭面のドヤ顔が冷徹なソフィに崩され、固まっているのは気味がいい。

俺はわざと笑いを堪えて見せつける。

「なんでそんな強そうな人がいるんですか?」

「わからないわ。ミアを取り戻そうとしているのはわかるけど、ここまで―」

「取り戻す?」

そうだった。ロマーンはソフィがミアを謎の成り行きで誘拐したことを知らないんだっけ。

少し顔色が変わって慌てているソフィにニヤついているアラサー。

そういうところだぞ。

「とにかく、あれをどうするかってことだよね」

「ロイバいたのか」

「あれ、なんかデジャブ?」

そういえばなんでロイバはここにいるんだ。

ミアがあの屋敷にいることをなんで教えてくれなかったんだ。

「でもたぶん、アホだから俺たちのこと忘れてただけだろ」

「ちょっと!? 今さっきまで僕のこと忘れてたのも忘れたの!?」

こんなヤバい状況でも陽気でいるロイバはやはり、頭がおかしい。

でも髭を撫でて軍勢に不敵な笑みを浮かべるブレイブのほうが気持ち悪いな。

「……」

「どうした?」

「いえ、なんでもないです」

なんかさっきからロマーンの顔色が悪い。

疲れてるのか。

「とりあえず、作戦を立てたから話すわ」

「あ、ああ」

「ちょっと待て。何か忘れてないか?」

髭がうるさい。

ソフィのほうをじっと見つめてなんだこのオッサンは。

「知らないわ。それで作戦は……」

やはりこういうオッサンは女子に嫌われるものなんだろう。

小声で「ジコショウカイマダダロウ」と唱えている暗い顔の髭なんて特に。


平野の奥にある屋敷。

その中にミアは捕らえられている。

誘拐したのは魔術師の男、その仲間もいるかもしれないから気を付けなくてはならない。

だがそれよりも危険なのが、やはり屋敷を向かう聖兵の軍勢。

そして先頭にいる高位聖騎士。

まずはそれを突破して屋敷に行かなければならない。

「回り道しかないだろ」

「無理よ。あの兵士たちに見つからないようにしたら大回りすぎる。その間にミアを奪われてしまうわ」

「だったらどうするんだ」

「そりゃあ、一つしかないだろ」

得意げな顔でゆっくり進む軍勢に髭を撫でながら立っているブレイブ。

諦めの悪い男は再びソフィのほうを向いた。

「真正面から突っ込む。それだけだ」

傲慢すぎて馬鹿すぎる。

そんなことができたら作戦なんていらないだろうに。

「おいおい、坊主ども。なんだその顔は」

「寝ぼけてます?」

「むしろ寝不足だぞ!ったく……」

指を鳴らし、ブレイブは眩しく光る剣を出した。

その自信満々な顔もよく見えない。

「この人数で勝てる相手じゃないだろ。だから俺がミアって言う女の子を連れ戻してきてやるよ」

「はぁ?」

ソフィを無視して歩き始めたブレイブ。

論理がおかしいが、そういえばこのオッサンは太陽の力があるんだ。

まさかこの数も余裕なのか。

「ああそうだ、ミアって誰だかわかんないな。姉ちゃんは付いて来てくれよ!」

どこまでもアホなオッサンだ。常人の感覚が溶けている。

俺はそんなブレイブに呆れてつつも、それでミアが助かるならもういいか。と剣の光に諦めがついていた。

しかしソフィは鬼の如く張り詰めた殺気を纏ってブレイブに近づいていった。

「部外者は引っ込め! あとその剣をしまえ!」

「おいおい、俺はこれでも結構強いんだぜ?」

「知るか、あいつらに気づかれ―!?」

ソフィは突然、視線を上げた。

口を開けたまま、固まっている横顔。

「やはりまだまだ若々しいですな、諸君。」

細い木の上。

分厚く白い鎧を身に着けた、茶色い髭のお爺さんが微笑みながら、手を後ろに組んで立っていた。

よく見るとその胸鎧の真ん中には黄金の円環、聖騎士の紋章が刻まれていた。




今日は調子が良かった気がする。

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