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ノエル・ファンタジー  作者: 霜惣吹翠
【第二章】救う意味
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65.太陽の剣、ソレーユ

夜空に浮かぶ星々の輝き。それを掻き消して現れた太陽は燃え上がっている。

多くの人々が太陽に目を向けていた中、ただ真っすぐに睨みあう二人の男がいた。

そこはさざ波が涼しげに鳴く海のすぐ近く、海側以外は煉瓦の家々に囲まれた広場。

海側に立つ一人は無精髭を生やしてニヤついている、細い身体の若々しい男。よれたローブの胸元からは一部が爛れたネックレスがある。

対している一人は厳しい面をして、体の大きな裸の男であった。張りのある大胸筋、引き締まった腹筋などにはいくつもの傷が見える。

「……」

「ふぅ、そんな厳つい顔すんなよ。怖いからさ」

「……」

「本当に真面目なやつだな」

互いに両手は何もない。

ほんの少しでも動けば殺し合いが始まる張り詰めた空気。

その中でも陽気に話す無精髭の男に、坊主の男の頭には血管が浮き上がっていた。

「……ブレイブ、なんでお前は憎んでいない。この世界を」

「ようやく口を開いたと思ったらそんな気持ち悪い質問か。ジクセンさんよ、気楽に行きましょうよ」

苦笑いしているブレイブに、ジクセンのほうは限界のようだ。

破裂しそうなほど肥大した筋肉がその抑えきれない憤怒で威嚇している。

「勘違いしているな、ブレイブ。いつか後悔するぞ」

「人殺しに、そんなこと言われてもなぁ。説得力がない」

「そうか……こんなにわかりあえないものか」

「ふん、戯言はしまいにしようや」

そう言ってブレイブは手を振ると、碧い灯とともに剣が現れた。

黄金の剣身が眩く輝いている。その灰色の柄を右手に握り、ジクセンに真っすぐ向けた。

これにジクセンは鼻で笑った後、肩を回すと、青い光と同時に四つの大きな黒い箱がその後に姿を見せた。

二つの箱はジクセンの左右肩の上に浮いており、それぞれにはたった一つの巨大な穴がある。他二つの箱は移動してジクセンの前方の右左へ、互いに九つの小さい穴が等間隔にある。

「おっそろしいねぇ」

「ふん、すぐにあの世に送ってやる―馬鹿野郎が!」

ジクセンは腰を落としてブレイブに箱を向け、ニヤリと笑った。

ブレイブはそれに気づきながらも何もせず剣を構えたまま。

自信満々な若造に恐れることなく、穴から尖った銃弾が解き放たれた。

「……」

黒い箱の正体は銃。

九つの穴から鳴りやまない無数の銃声を上げていた。

それは無慈悲にブレイブへ集中砲火。その姿が銃弾で隠れてしまっている。

「そういうことか」

火薬の臭いに鼻を捻じることなく、ジクセンは攻撃を止めた。

そして疑わず、困惑せずにそのまま仁王立ちしているブレイブを見ていた。

「本当、子供相手に大人げないなぁ」

肩を剣で叩きながら欠伸しているブレイブ。まったくの無傷である。

ただその後ろにある地面や、少し遠くにある壁には穴が開いていた。

「そんな哀れな攻撃じゃ、俺にかすり傷もつけられないよ?」

「やかましい」

ジクセンはわずかに滾っている黄金剣を睨んだあと、ブレイブの立っている地面を少しだけ染めている金色の点粒を見て理解した。

銃弾を剣の力で溶かしたのだと。しかも大半は蒸発している。

「そこまでの力があるのか、その剣は」

「甘く見るなよ。火傷するぜ?」

「……」

「はぁ、乗らないなぁ。じゃあこっちから行くか!」

真正面から突っ走るブレイブ。

それにジクセンは目を疑い警戒しつつも後退することなく、拳を構えて待ち構えた。

だがブレイブはそれを見た後も走るのをやめない。

「―なに!?」

ジクセンの野太い声。

頭を殴ろうとした手が止まる。

それはブレイブには計算通り、当たり前のことだった。

「だから言っただろ。火傷するってな!」

ブレイブの体からは熱気が出ていた。それは火傷なんてレベルではなく、簡単に手を溶かすほどのものだった。

そもそも生半可な武器ではブレイブに触れることはできないのだった。

それに気づいたジクセンは直ちに避けようと後ろに飛ぼうとするが、すでに燃え滾る剣身はすぐそこにあった。

「んう!!」

剣は命中した。

ただそれは狙っていた腹部ではなく、左手。

そのことにブレイブは首を傾げた。

「なんでだ?」

「……」

息を荒げ、爛れた左手を押さえるジクセン。

それを純粋な目で見つめながらブレイブは少し俯いた。

すると地面にいくつかの穴があることに気づく、それから推測した。

「銃弾をぶっ放した反動で逃げたのか」

「……くそ」

汗まみれの厳しい面でブレイブを睨むジクセン。

対してブレイブは涼しい顔していた。

「若いからって舐めるのはダメだって警告したのにな」

「……黙れ。お前はその剣に妄信しているだけだ」

「何を馬鹿なことを。あんただって銃に頼ってんだろ?」

ジクセンの周りに浮かぶ黒い箱に指を刺しながらブレイブは言葉を返す。

しかし辛そうな表情のジクセンを見て、少し考えた。

「まぁ確かにそうか、俺は太陽剣に頼りまくってるからな。あんたみたいに筋肉つけたりなんかしないし、そうしたいとも思えないだろうな」

「……太陽剣ソレーユ。文字通りに太陽を扱う魔剣。それがお前みたいなクズに渡るとは、やはりこの世界は狂ってやがる」

「クズだって? それは心外だな。たぶんあんたは俺が剣の力だけで戦ってると思ってるからそう言えるんだろう」

「実際にそうだろ、てめえは剣があるから強いだけだ!」

ジクセンの張りのある声が辺りに響く。

その怒りと皮肉のこもった言葉。だがブレイブは熱くなることはなかった。

黄金に輝く剣身を憎んでいるのだろうと軽く同情してしまった。

「勘違いさせたならすまない、あんたの言ってることはある意味正解だ。この剣が無ければ俺は弱いからな。ふつうにあんたにボコボコにされるさ」

「……そうに決まってんだろ。お前は剣に頼っているだけだ」

「でもそれは今までの話。正直、剣の力だけで十分なんだよ。“あんたを倒すの”なんてな」

「この野郎、舐めやがって!」

ジクセンは叫んで黒い箱、銃を構えた。

すぐにその銃弾をブレイブに浴びせていく。

先ほどよりも速い弾丸は揺らぐことなく、若造を貫こうとしていく。

「喰らいやがれ!」

さらに肩の上にある黒い箱も動く、

その大きな穴から先の尖った巨大な弾丸が顔を出している。まるでロケットのような銃弾、たった二発のミサイル。

狙いをつけ、ブレイブ目掛けて射ち放った。

「!!!」

爆音とともに、ブレイブの立っている場所は爆炎に包まれた。

その炎は人型をして燃え続けている。

それを直視してジクセンは大きく笑った。

「やったぞ! 俺のミサイルを甘く見やがって! これは濃縮された爆弾だ。どんなに丈夫なものでも破壊しつくすミサイルだ!」

消えない真っ赤な炎。

強力なミサイルは間違いなく中ったと確信できる。

だがその影は業火に苛まれてはなく、ただ立ったままだった。

「……たぶんあんたは頭が固い。この剣でも溶かせないくらいにな」

「な!?」

炎から出てきた剣がジクセンに向く。

その黄金の剣身は瞬く間に炎を吸い込んでいき、ブレイブの体からは炎が消えた。

「やっぱり、退屈だな」

「くそったれが!」

平然としているブレイブの顔が目に入った途端、銃弾を浴びせていくジクセン。

だがそれをもろともせず、ブレイブはゆっくりと近づいてくる。

「くそ!」

ブレイブの体には赤い膜が薄っすらとあった。

それに触れた銃弾は直ちに溶け下へと流れていく。流れている途中でさらに熱されて気化していた。

「はぁ……痛くはないけど痛いね。味わってみなよ」

「なんだって?」

銃弾の鳴りやまない音はジクセンが放つ時だけに発生していた。

その絶えない銃声は全ての音を溶かしてしまう。

だがそれはブレイブにぶつかる銃弾と同じようにというだけではない。

「どうなってやがる?」

音はなぜか大きくなっていく。それも突然に。

自分が放つ銃弾の数を感覚的にわかっているゆえに、その原因には敏感であった。

「……。」

突如、銃声は止んだ。

それはジクセンの弾丸によるものだが、ジクセンの意志によるものではない。

むしろその意思を砕いたから鳴り止んだのだった。

「カーテン。攻撃を跳ね返す、反射する太陽のカーテン」

「……」

ブレイブは体中が穴まみれになって倒れているジクセンを静かに見下ろして説明した。

この技が太陽の剣の力と魔術の融合であることを、ブレイブの努力が込められていたことを悟らせた。

「……もう死んじまったか」

ブレイブは空に漂う太陽を見上げた。

直視しているのに瞳が焦がれない、ただ視界は白い。

それに首を振った後、視界は黒く戻る。太陽は消された。

まだ見えない星と漂う無臭に鼻を捻じっていた。



バトルしただけの回。

になってしまった。

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